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第十六章
748:幽霊騒ぎ その2
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この一週間ほど目撃情報がないことから、幽霊とされたものがこの近くを去っている可能性も考えられた。
その場合でも最低限その幽霊らしきものの痕跡だけは見つける、というのがロビーの思惑であった。
多くの参加者が本気なのか冗談なのかよくわからないまま、幽霊らしきものの捜索が開始された。だが、捜索に参加している者は皆真剣であった。幽霊よりも性質の悪い何かが潜んでいる可能性が否定できなかったからだ。
午前中は何の成果も得られなかったが、午後になって「オーシャンリゾート」の建物の北西にある茂みの方で、草が踏みならされている場所が見つかった。
これは以前、ロビーがサファイアことムツキ・カヤノを伴ってオーシャンリゾートへ戻ってきたルートの近所であった。
ロビーはこの経験から、街道北側の茂みや森の中で比較的通行しやすい場所についてある程度の情報を得ており、それがこの発見につながった。
草は踏みならされてから少し時間が経過しており、その痕跡は消えつつあったが、ロビーたちは慎重に跡をたどっていった。
しばらく進むと、森の中であるが、やや開けた場所に突き当たった。
そこには、古びた小屋があった。
ロビーはメンバーに命じて小屋の周辺を慎重に調べさせた。
彼自身も窓から中の様子をうかがったが、中に人のいる気配はなかった。
周辺の様子から、建物には長いこと人の手が入っていないように思われた。
「まあいい、少し調べてみるか」
ロビーの言葉で、皆が建物に入った。
中は黴と埃に覆われていたが、ジンダイことオイゲンが記録用チップの入ったケースを見つけた。
「ジンダイさん、チップの中身を見ることはできないか?」
ロビーの言葉にオイゲンがチップの情報を解読し始めた。
「チップの状態は良好です。どうも中の情報からすると、この建物はサファイア・シーの調査のために使われていたようです」
オイゲンの答えにロビーは興味を持った。
そこで追加の説明を求めたところ、オイゲンから次のような回答が得られた。
LH三七年ごろ、ポータル・シティなどの島西端部とインデストとの物流に困難を感じていたインデストの住民たちは、島中央部に大きく広がる湖、サファイア・シーを使って船で物資を運搬できないか、と考えるようになった。
これには二つの大きな問題があった。
サファイア・シーの西端はチクハ・タウンの付近で、そこからしばらく東に進むと湿地帯が現れる。
湿地帯の水深は非常に浅く、大型の船を通すための航路を探すのが困難であった。
もうひとつはサファイア・シーの湖岸には切り立った崖の部分が多く、船を着けるのに適切な場所が見つかっていないことであった。
チップに記録されたのは、船を着けるのに適した場所を探すための調査結果であった。
情報にざっと目を通した程度ではわからないが、調査から約一五年が経過した現在においてもサファイア・シーの航路が確立していないことから、船を着けるのに適した場所を見つけることができなかったことが予想された。
「チップの記録ではこうした調査のための小屋がいくつかあるようです。チップの情報からわかるのはここ以外に小屋が北北西にひとつ、東南東にひとつ、です」
「ジンダイさん、どっちが近い?」
「東南東の方がやや近そうです」
オイゲンの答えにロビーは東南東にあるとされる小屋へ向かうことを決めた。
三〇分ほどで小屋の見えるところまで到達することができた。
先ほどの小屋と比べると手入れが行き届いている様子で、周辺を調べさせたところ、最近手が入れられた形跡があるとのことであった。
中の様子を見る限り、人の気配はなかった。
扉を調べさせたところ、鍵がかかっていた。
「タカミサブマネ、どうしますか?」
扉を調べたケイスケ・ネガワがロビーに問うた。
カヤノを「オーシャンリゾート」に連れて帰る際にもロビーに同行したメンバーであり、ロビーの信用を得ている男であった。
「人の気配はないのだな? 俺たちには、無理矢理中に入る大義名分がない。必要ならばそれを得てからもう一度ここへ来よう」
ロビーの決断は早かった。
ここには目的のものがないだろう、と判断したからで、ロビーはもう一箇所の小屋の調査を急いだ。
出発の前にオイゲンに対して小屋の位置と周辺の状況を記録するように指示した。
誰が何の目的で小屋を使用しているか明らかにできなかったため、再調査に備えたのであった。
次の小屋までは歩いて二時間弱かかった。
時刻は一六時半になっており、この小屋の調査が本日の捜索活動の最後の行動になる可能性が高かった。
周囲を調べると、最近まで人が出入りしていた形跡があり、何者かが近くに潜んでいる可能性が考えられた。
小屋は他の二つと同様森の中の少し開けた場所にあったが、この場所は近くに細い川が流れているため水の確保が容易そうに思われた。
ロビーが窓から人の気配をうかがったが、中が暗くてよくわからなかった。
(こちらは四人、小屋の大きさから考えて、中に人がいるとしても二、三人だろう。敵とは限らないし、突入するか)
ロビーはそう判断して、小屋への突入を決めた。
その場合でも最低限その幽霊らしきものの痕跡だけは見つける、というのがロビーの思惑であった。
多くの参加者が本気なのか冗談なのかよくわからないまま、幽霊らしきものの捜索が開始された。だが、捜索に参加している者は皆真剣であった。幽霊よりも性質の悪い何かが潜んでいる可能性が否定できなかったからだ。
午前中は何の成果も得られなかったが、午後になって「オーシャンリゾート」の建物の北西にある茂みの方で、草が踏みならされている場所が見つかった。
これは以前、ロビーがサファイアことムツキ・カヤノを伴ってオーシャンリゾートへ戻ってきたルートの近所であった。
ロビーはこの経験から、街道北側の茂みや森の中で比較的通行しやすい場所についてある程度の情報を得ており、それがこの発見につながった。
草は踏みならされてから少し時間が経過しており、その痕跡は消えつつあったが、ロビーたちは慎重に跡をたどっていった。
しばらく進むと、森の中であるが、やや開けた場所に突き当たった。
そこには、古びた小屋があった。
ロビーはメンバーに命じて小屋の周辺を慎重に調べさせた。
彼自身も窓から中の様子をうかがったが、中に人のいる気配はなかった。
周辺の様子から、建物には長いこと人の手が入っていないように思われた。
「まあいい、少し調べてみるか」
ロビーの言葉で、皆が建物に入った。
中は黴と埃に覆われていたが、ジンダイことオイゲンが記録用チップの入ったケースを見つけた。
「ジンダイさん、チップの中身を見ることはできないか?」
ロビーの言葉にオイゲンがチップの情報を解読し始めた。
「チップの状態は良好です。どうも中の情報からすると、この建物はサファイア・シーの調査のために使われていたようです」
オイゲンの答えにロビーは興味を持った。
そこで追加の説明を求めたところ、オイゲンから次のような回答が得られた。
LH三七年ごろ、ポータル・シティなどの島西端部とインデストとの物流に困難を感じていたインデストの住民たちは、島中央部に大きく広がる湖、サファイア・シーを使って船で物資を運搬できないか、と考えるようになった。
これには二つの大きな問題があった。
サファイア・シーの西端はチクハ・タウンの付近で、そこからしばらく東に進むと湿地帯が現れる。
湿地帯の水深は非常に浅く、大型の船を通すための航路を探すのが困難であった。
もうひとつはサファイア・シーの湖岸には切り立った崖の部分が多く、船を着けるのに適切な場所が見つかっていないことであった。
チップに記録されたのは、船を着けるのに適した場所を探すための調査結果であった。
情報にざっと目を通した程度ではわからないが、調査から約一五年が経過した現在においてもサファイア・シーの航路が確立していないことから、船を着けるのに適した場所を見つけることができなかったことが予想された。
「チップの記録ではこうした調査のための小屋がいくつかあるようです。チップの情報からわかるのはここ以外に小屋が北北西にひとつ、東南東にひとつ、です」
「ジンダイさん、どっちが近い?」
「東南東の方がやや近そうです」
オイゲンの答えにロビーは東南東にあるとされる小屋へ向かうことを決めた。
三〇分ほどで小屋の見えるところまで到達することができた。
先ほどの小屋と比べると手入れが行き届いている様子で、周辺を調べさせたところ、最近手が入れられた形跡があるとのことであった。
中の様子を見る限り、人の気配はなかった。
扉を調べさせたところ、鍵がかかっていた。
「タカミサブマネ、どうしますか?」
扉を調べたケイスケ・ネガワがロビーに問うた。
カヤノを「オーシャンリゾート」に連れて帰る際にもロビーに同行したメンバーであり、ロビーの信用を得ている男であった。
「人の気配はないのだな? 俺たちには、無理矢理中に入る大義名分がない。必要ならばそれを得てからもう一度ここへ来よう」
ロビーの決断は早かった。
ここには目的のものがないだろう、と判断したからで、ロビーはもう一箇所の小屋の調査を急いだ。
出発の前にオイゲンに対して小屋の位置と周辺の状況を記録するように指示した。
誰が何の目的で小屋を使用しているか明らかにできなかったため、再調査に備えたのであった。
次の小屋までは歩いて二時間弱かかった。
時刻は一六時半になっており、この小屋の調査が本日の捜索活動の最後の行動になる可能性が高かった。
周囲を調べると、最近まで人が出入りしていた形跡があり、何者かが近くに潜んでいる可能性が考えられた。
小屋は他の二つと同様森の中の少し開けた場所にあったが、この場所は近くに細い川が流れているため水の確保が容易そうに思われた。
ロビーが窓から人の気配をうかがったが、中が暗くてよくわからなかった。
(こちらは四人、小屋の大きさから考えて、中に人がいるとしても二、三人だろう。敵とは限らないし、突入するか)
ロビーはそう判断して、小屋への突入を決めた。
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