ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

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第十七章

790:社長不在時の守り

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「副社長、OP社本社の建物には子供たちも避難していたのです。彼らの安全を無視してまで武装した人員を派遣する理由があるでしょうか?」
 不意にマキの口をついて出た言葉に、サクライは引っかかりを覚えた。
「派遣した人員には救護のための装備なら持参させましたが、武器など持たせておりません。武装などしていないのです」
 とりあえずサクライはそう返してからマキの言葉が引っかかった原因を考えだした。
 マキの言葉には、それまで出ていなかった「子供」というキーワードが登場していた。
 それまでは「市民からの苦情」という言葉が何度も出ていたのだが、ここで「子供」という言葉に置き換わった。

「ニュースの画像では棒のようなものを持った者が多く見受けられましたし、社の者は皆、ヘルメットをかぶっているように見えましたぞ。これでも武装をしていないと仰るのか? 子供たちをそのような物々しい連中で脅すとは何事だ、という苦情も何件もあるのです」
 ホクトがサクライから携帯端末をひったくって操作し、該当の苦情の情報をサクライに見せた。
 (また「子供」という言葉が出てきたな……)
 サクライはホクトが示した携帯端末の画面に目をやった。
 そうしながらもホクトの言葉には次のように応戦した。
「武装というが、ヘルメットは社員の安全を守るために必要なものです。社員の身が危険に晒されてよいという理由はありません。それに棒のようなもの、というのは担架のことではないですか? これは、負傷者の救護に必要なものです」
 サクライの言葉は一定の説得力を持ったものであったが、トミカたちは納得する様子を見せなかった。
 妙に頑なだな、とサクライは思った。

 ミヤハラやサクライなど旧「タブーなきエンジニア集団」に対しては批判的な役員達ではあったが、これまでこうして面と向かって批判してくることはなかった。
 どちらかといえば、ミヤハラやサクライなどを避けるような行動が多く見受けられた。
 今日の執拗さはサクライの目からは不自然にすら思えた。
 いつもならミヤハラが不在だと言えば、それだけで引き下がったであろう。
 (これは社長に報告した方がよいな、明日対応してもらおう。今まで散々留守にしていたのだから、いい気味だろう)
 そう考えてサクライは早々に引き上げようとしたのだが、相手は執拗だった。
 サクライは事前にミヤハラ達から明日二五日ハモネス到着予定と連絡を受けていた。
 今日二四日は金曜日なので週明けの月曜に面会でどうかと提案したのだが、相手は納得しなかったのだ。
 どうにか明日ミヤハラと面会させることを条件に引き下がらせたが、それまでに三時間強を要してしまった。
 こうなってしまうと、サクライの怒りの矛先はミヤハラへと向かうしかない。
 さて、どうやって面倒事を押し付けてやろうか、とサクライは思案しだした。

 しばらくすると、トミシマがサクライに面会を求めてやってきた。
 (まったく、社長の留守のおかげで、色々面倒なことになったな)
 そう思いながらもトミシマには罪がないので、表向きは平静を装いながらサクライは面会に応じた。
 エリックたちの状況報告であろう、とサクライは考えていた。
 エリックは五日前に発生したOP社本社前の暴動への対応に向かったきり、今日までECN社本社に戻っていない。
 暴動そのものは表面上治まったものの、電力事業者管理団体を名乗る一団が近所のビルを占拠している状況に変わりはなかった。
 彼らがしばしば揉め事を引き起こすため、エリックたちは撤退したくとも撤退できる状況になかったのであった。
 負傷者達の搬送や暴動に巻き込まれた市民の帰宅などが済んだのは幸いであったが、近隣の住民からECN社で周辺を巡回して欲しいという要請があった。
 そのためエリックは同行したメンバーの半数を本社に戻し、残りをOP社本社周辺の巡回に充てたのであった。

 トミシマは疲労気味の様子のサクライを見て、お疲れのところすみませんと頭を下げたが、サクライは構わないので報告を急いで欲しいと返した。
 疲労という点ではサクライよりはるかに多忙なトミシマの方がより強いであろうとサクライは思うのだが、少なくとも表面上トミシマは疲労を見せてはいなかった。
「モトムラマネージャーからの報告ですが、電力事業者管理団体を名乗ってOP社本社近くのビルを占拠している一団は、外部の数箇所と頻繁に通信を行っているとのことです。通信の相手については調査中です」
「エリックにしては時間がかかっているな。何か問題でもあるのか?」
 本社からさほど離れていないポータル・シティでの調査であれば、二、三日もあれば十分であろうとサクライは考えていた。
 ECN社最高の技術者であるエリックが手こずるというのは、通常の状態では考えにくかった。
 トミシマによれば電波の発信地点はある程度特定できているが、その場所に踏み込む際の妨害がひどく、そのために調査が進んでいないのだという。
 強硬手段に訴えるのも手であるが、サクライとしてもそれは気が進まなかった。
「申し訳ないが、エリックには指示があるまで強硬手段に訴えるなと伝えて欲しい」
 サクライがそう要望すると、トミシマはその様に伝えます、と答えた。
 ミヤハラが戻るまで派手な動きを避けたい、というのはサクライだけではなくトミシマも同様であった。
 その理由は二人の間で異なるものの、強固手段に訴えるのであるならば、ミヤハラが戻ってから彼の指示でそうするべき、という点では一致していた。
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