ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

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第十七章

791:抵抗勢力、動く

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 サクライは冗談半分で、極秘でインデストに赴いたミヤハラの行動の意図について「単に面倒ごとから逃れたいだけ」と親しい者には話していた。
 だが、実際のところは何らかの考えに基づいて行動しているであろうとは思っていた。
 残念ながらその意図が何なのか、ミヤハラが説明らしい説明をしていないため、サクライなどはその意図を掴み損ねていたのであった。

「ここは明日戻る社長に任せておけばいいでしょう。何を考えているか掴めていない状態で社長の意に反する行動を取っても社長が困るだけでしょう」
 そう言ってサクライはミヤハラに意思決定を丸投げしたのであった。
 半分以上面倒がっての行動であったが、ミヤハラの意に反した行動を取りたくない、というのも本音であった。
 トミシマはサクライの決定に対して特に異を唱えることはせずに、黙ってそれを受け入れたのであった。

 次にトミシマは内密で、と前置きしてから、サクライにある情報を伝えてきた。
 最近になって、外出と来客が急に増えた上位の社員が続出している、という内容であった。役員や上級チームマネージャーだけではなく、その下のチームマネージャーやサブマネージャークラスにもそうした者が数多くいるという。
 トミシマとしてはミヤハラに情報を伝えたかったようであったが、他に情報が漏れることを懸念して、先にサクライに伝えようと考えたのであった。
「どこへ行っているか、何者と面会しているのか、わかりませんか?」
「調査はできていませんが、漏れ聞こえてきた会話から考えると、面会相手に『小学生か中学生くらいのお子さんを持つ親御さん』というような方が何人かいらっしゃいました」
 トミシマの答えにサクライはさすがに不自然な面会相手だ、と感じた。
「確かに。彼らの業務と関係のなさそうな面会相手だな」
「それに……気になる点がもうひとつあります。あまり論理的に説明ができないのですが」
「構わない、言ってみてくれ」
「聞こえた話からなのですが、『子供の安全』を頻繁に強調されていたように思います」
 トミシマの言葉にサクライはなるほど、とうなずいた。
 先ほど役員が「子供」というキーワードを多用していた理由が明らかになったように思えたからだ。
「……私の実家は、お子さんを預かる施設を運営していますが、無理を通そうとされる方がよく『子供の安全』を盾にとります。聞こえてきた『子供の安全』という言葉は、それと同じような調子に思えました」
 トミシマがここまで突っ込んで自分の意見を明らかにすることは珍しかったが、よほど気になることであったのだろう、とサクライは解釈した。
 彼女の実家は子供を預かる施設としては名前が知られているから、苦情も頻繁にあるのだろう。その彼女が敢えて発言するのだから、気にする価値はあると思われる。
「貴重な情報、感謝します。社長には明日お話してください。社長にとって何か重要なヒントになるはず」
「ええ、そうさせていただきます。このような情報が社長の役に立つ事態は避けたいのですが、社長を快く思わない方たちが何かことを起こそうとしているように感じてならないのです」

 この後数分ばかり会話した後、トミシマはサクライのいる社長室を後にした。
 トミシマがこのような注意喚起を行った、ということに対して、サクライはようやく事態の重さを感じるようになった。
「一体、連中は何をやらかそうというのだ?!」
 そうは口に出してみたものの、サクライ以外に人のいない部屋からは何の返答も得られなかった。
 このような時期に押しかけてきた役員どもも腹立たしかったが、そもそもサクライが彼らと応対しなければならない事態を作ったのはミヤハラであった。
 そして、ミヤハラから本社を離れていることを秘密にするように命じられたおかげで、思うように行動できない、という事情もあった。
 ミヤハラが本社にいることになっている以上、社の最高意思決定者はミヤハラであり、サクライがそれに取って代わることはできないからだ。
 (まったく……社長は何をしたいのだ?)
 サクライは業務の上で初めてミヤハラの行動に対して、恐怖に近い不安を覚えていた。
 それまでにもミヤハラの行動にはサクライの目から見て疑問符のつくものがいくつもあったが、少なくともサクライに恐怖を抱かせるようなものはなかった。
 サクライ自身、何故ミヤハラの今回の行動に恐怖を覚えるのか、理由がわからなかった。

 (……とにかく明日、社長と話してみるまでだ)
 今のところサクライは自らが感じている恐怖について、一番親しいエリックにすら話すつもりはない。
 理由が明らかではない以上、他人に話すべきことではない、と考えたためだ。
 明日になればミヤハラが本社に戻り、一方的に押し付けられていた面倒ごとから解放される、とサクライは読んでいた。
 しかし、約半日後、サクライは自らの認識が甘すぎたことを思い知らされることになる。
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