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第十七章
807:OP社も動く
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「まったく、面倒な連中だな。あれだけ無駄に浪費できるエネルギーがあるなら、他のことにでも使えばよいだろうに」
ノリオ・ミヤハラはECN社本社の社長室で、一人ぼやいていた。
今年に入ってから、ECN本社は建物の一部を改築し一四階建てとなっていた。
当初は全面的に建て替える予定であったが、電力供給不足問題を理由にミヤハラが一部改築に留めたのであった。
口の悪い社員などは社長室を動かすのが面倒だからではないか、と噂していたが、これはほぼ完全な事実であった。
その証拠に社長室は建物の四階という中途半端な位置から一ミリたりとも動いていなかった。
社長室を最上階へ移動させて手狭になった四階のオフィスエリアを拡張する案もあったのだが、ミヤハラは容赦なくこれを却下したのだった。
単に面倒だから、という理由であったことは言うまでもない。
ただ、この点においてミヤハラは一切の妥協を許さなかった。
その一方でミヤハラはサブマリン島内各地で発生している混乱に対しては、精力的に対応していた。
正確にいえば、他人を使って積極的に事態に介入していた。自ら動くのは彼の好みではない。
ECN社の事態への介入は少なくない市民からの要求でもあったから、市民の意思によってミヤハラが動かされたという面がないわけではなかった。
ミヤハラが手がけたことの一つに、電力事業者管理団体のトップ、サキ・アツミとOP社の和解があった。
OP社の新入社員であったアツミの息子が「エクザローム防衛隊」のビル爆破事件よって殺害されたことを知ったミヤハラは、マコト・トミシマを通じてOP社の現社長であるテツヤ・ヘンミに交渉を持ちかけた。
それだけではなくトミシマはアツミと面会し、OP社と和解する意思があるかを確認した。
その結果、アツミはOP社、特にハドリが事件に巻き込まれた社員に対して取った態度から不信感を持つようになったらしいことが判明した。
そこでミヤハラはトミシマを通じて、事件の遺族に対してOP社から十分な対応を取らせるように提案したのであった。
提案を受けたヘンミはECN社代表を交えて、事件の遺族代表と会談すると伝えてきた。
更にヘンミはECN社代表として広報企画室長であるレイカ・メルツの出席を求めた。
(あの野郎、ちゃっかりしていやがるな。まったく、変なところで派手好きな奴だ……)
そう毒づきながらもミヤハラはレイカと連絡を取り、条件付きで会談への出席を了承した。
遠く離れたインデストからレイカをOP社本社のあるポータル・シティまで呼び戻すのはミヤハラとしても避けたい。そのようなことをすれば貴重な彼女の時間を浪費してしまう。
それだけではない、インデストの情勢に関わるためにはどうしても彼女の能力が必要だからだ。
そこで、通信での参加、という条件をつけたのであった。
ヘンミは不満そうではあったものの、レイカがインデストに滞在していることは把握しており、この条件を受け入れたのであった。
会談の席上で、ヘンミは爆破によって亡くなった従業員を貶めるハドリの発言に対して陳謝し、社として犠牲者の名誉を回復することを約束した。
その上で犠牲となった者に対しては、過去に支払われたわずかの一時金とは別に、OP社に七〇歳まで在籍しているものとして、遺族にその給与を毎月支払うとし、遺族から了承を得た。
「私はECN社の出身で、ECN社時代は『タブーなきエンジニア集団』を立ち上げ、ハドリと戦ったウォーリー・トワの部下でした。事情があり、トワとは異なる道を歩むことになりましたが、事件の犠牲となった方々に対する気持ちはトワと同じです」
ヘンミは遺族からハドリの事件への態度について質問された際、このように答えたのであった。
ヘンミは過去にECN社の社員であったし、ウォーリーの部下でもあった。
このことが彼の発言や行動に対して説得力を持たせていた。
ヘンミがOP社へ出向したのは、電力供給不足問題に対するECN社からの人的支援であり、その後OP社へ転籍したのも、問題の解決に従事するためであった。
このため、OP社、特にハドリのカラーが薄い、ということも遺族から好感をもって迎えられたのであった。
「……まったく、よく言うぜ。うちのマネージャーとそりが合わなくて、社に残ったくせに。何が『気持ちはトワと同じです』だ、聞いて呆れるぜ。なぁ、サクライ」
会談の様子をモニタで見ていたミヤハラは、思わずそう毒づいたのであった。
「まったく気に入らないことですが、その点だけは気が合いますね。個人的にはまったくもって不本意、としか言いようがないですが……」
サクライはそう返したものの、ミヤハラに反対する様子は欠片も見せなかった。
予算についてはしまり屋の範疇に入るであろうサクライであったが、OP社が行う金銭的補償について、三分の一の額をECN社から拠出することには賛成したくらいであった。
また、事件のあったビルの跡地に慰霊碑を建造し、毎年事件の日に慰霊祭を行うことも決定され、これらにECN社も協力することになった。
ノリオ・ミヤハラはECN社本社の社長室で、一人ぼやいていた。
今年に入ってから、ECN本社は建物の一部を改築し一四階建てとなっていた。
当初は全面的に建て替える予定であったが、電力供給不足問題を理由にミヤハラが一部改築に留めたのであった。
口の悪い社員などは社長室を動かすのが面倒だからではないか、と噂していたが、これはほぼ完全な事実であった。
その証拠に社長室は建物の四階という中途半端な位置から一ミリたりとも動いていなかった。
社長室を最上階へ移動させて手狭になった四階のオフィスエリアを拡張する案もあったのだが、ミヤハラは容赦なくこれを却下したのだった。
単に面倒だから、という理由であったことは言うまでもない。
ただ、この点においてミヤハラは一切の妥協を許さなかった。
その一方でミヤハラはサブマリン島内各地で発生している混乱に対しては、精力的に対応していた。
正確にいえば、他人を使って積極的に事態に介入していた。自ら動くのは彼の好みではない。
ECN社の事態への介入は少なくない市民からの要求でもあったから、市民の意思によってミヤハラが動かされたという面がないわけではなかった。
ミヤハラが手がけたことの一つに、電力事業者管理団体のトップ、サキ・アツミとOP社の和解があった。
OP社の新入社員であったアツミの息子が「エクザローム防衛隊」のビル爆破事件よって殺害されたことを知ったミヤハラは、マコト・トミシマを通じてOP社の現社長であるテツヤ・ヘンミに交渉を持ちかけた。
それだけではなくトミシマはアツミと面会し、OP社と和解する意思があるかを確認した。
その結果、アツミはOP社、特にハドリが事件に巻き込まれた社員に対して取った態度から不信感を持つようになったらしいことが判明した。
そこでミヤハラはトミシマを通じて、事件の遺族に対してOP社から十分な対応を取らせるように提案したのであった。
提案を受けたヘンミはECN社代表を交えて、事件の遺族代表と会談すると伝えてきた。
更にヘンミはECN社代表として広報企画室長であるレイカ・メルツの出席を求めた。
(あの野郎、ちゃっかりしていやがるな。まったく、変なところで派手好きな奴だ……)
そう毒づきながらもミヤハラはレイカと連絡を取り、条件付きで会談への出席を了承した。
遠く離れたインデストからレイカをOP社本社のあるポータル・シティまで呼び戻すのはミヤハラとしても避けたい。そのようなことをすれば貴重な彼女の時間を浪費してしまう。
それだけではない、インデストの情勢に関わるためにはどうしても彼女の能力が必要だからだ。
そこで、通信での参加、という条件をつけたのであった。
ヘンミは不満そうではあったものの、レイカがインデストに滞在していることは把握しており、この条件を受け入れたのであった。
会談の席上で、ヘンミは爆破によって亡くなった従業員を貶めるハドリの発言に対して陳謝し、社として犠牲者の名誉を回復することを約束した。
その上で犠牲となった者に対しては、過去に支払われたわずかの一時金とは別に、OP社に七〇歳まで在籍しているものとして、遺族にその給与を毎月支払うとし、遺族から了承を得た。
「私はECN社の出身で、ECN社時代は『タブーなきエンジニア集団』を立ち上げ、ハドリと戦ったウォーリー・トワの部下でした。事情があり、トワとは異なる道を歩むことになりましたが、事件の犠牲となった方々に対する気持ちはトワと同じです」
ヘンミは遺族からハドリの事件への態度について質問された際、このように答えたのであった。
ヘンミは過去にECN社の社員であったし、ウォーリーの部下でもあった。
このことが彼の発言や行動に対して説得力を持たせていた。
ヘンミがOP社へ出向したのは、電力供給不足問題に対するECN社からの人的支援であり、その後OP社へ転籍したのも、問題の解決に従事するためであった。
このため、OP社、特にハドリのカラーが薄い、ということも遺族から好感をもって迎えられたのであった。
「……まったく、よく言うぜ。うちのマネージャーとそりが合わなくて、社に残ったくせに。何が『気持ちはトワと同じです』だ、聞いて呆れるぜ。なぁ、サクライ」
会談の様子をモニタで見ていたミヤハラは、思わずそう毒づいたのであった。
「まったく気に入らないことですが、その点だけは気が合いますね。個人的にはまったくもって不本意、としか言いようがないですが……」
サクライはそう返したものの、ミヤハラに反対する様子は欠片も見せなかった。
予算についてはしまり屋の範疇に入るであろうサクライであったが、OP社が行う金銭的補償について、三分の一の額をECN社から拠出することには賛成したくらいであった。
また、事件のあったビルの跡地に慰霊碑を建造し、毎年事件の日に慰霊祭を行うことも決定され、これらにECN社も協力することになった。
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