ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

文字の大きさ
88 / 240
第十七章

807:OP社も動く

しおりを挟む
「まったく、面倒な連中だな。あれだけ無駄に浪費できるエネルギーがあるなら、他のことにでも使えばよいだろうに」
 ノリオ・ミヤハラはECN社本社の社長室で、一人ぼやいていた。
 今年に入ってから、ECN本社は建物の一部を改築し一四階建てとなっていた。
 当初は全面的に建て替える予定であったが、電力供給不足問題を理由にミヤハラが一部改築に留めたのであった。
 口の悪い社員などは社長室を動かすのが面倒だからではないか、と噂していたが、これはほぼ完全な事実であった。
 その証拠に社長室は建物の四階という中途半端な位置から一ミリたりとも動いていなかった。
 社長室を最上階へ移動させて手狭になった四階のオフィスエリアを拡張する案もあったのだが、ミヤハラは容赦なくこれを却下したのだった。
 単に面倒だから、という理由であったことは言うまでもない。
 ただ、この点においてミヤハラは一切の妥協を許さなかった。

 その一方でミヤハラはサブマリン島内各地で発生している混乱に対しては、精力的に対応していた。
 正確にいえば、他人を使って積極的に事態に介入していた。自ら動くのは彼の好みではない。
 ECN社の事態への介入は少なくない市民からの要求でもあったから、市民の意思によってミヤハラが動かされたという面がないわけではなかった。
 ミヤハラが手がけたことの一つに、電力事業者管理団体のトップ、サキ・アツミとOP社の和解があった。
 OP社の新入社員であったアツミの息子が「エクザローム防衛隊」のビル爆破事件よって殺害されたことを知ったミヤハラは、マコト・トミシマを通じてOP社の現社長であるテツヤ・ヘンミに交渉を持ちかけた。
 それだけではなくトミシマはアツミと面会し、OP社と和解する意思があるかを確認した。
 その結果、アツミはOP社、特にハドリが事件に巻き込まれた社員に対して取った態度から不信感を持つようになったらしいことが判明した。
 そこでミヤハラはトミシマを通じて、事件の遺族に対してOP社から十分な対応を取らせるように提案したのであった。
 提案を受けたヘンミはECN社代表を交えて、事件の遺族代表と会談すると伝えてきた。
 更にヘンミはECN社代表として広報企画室長であるレイカ・メルツの出席を求めた。
 (あの野郎、ちゃっかりしていやがるな。まったく、変なところで派手好きな奴だ……)
 そう毒づきながらもミヤハラはレイカと連絡を取り、条件付きで会談への出席を了承した。
 遠く離れたインデストからレイカをOP社本社のあるポータル・シティまで呼び戻すのはミヤハラとしても避けたい。そのようなことをすれば貴重な彼女の時間を浪費してしまう。
 それだけではない、インデストの情勢に関わるためにはどうしても彼女の能力が必要だからだ。
 そこで、通信での参加、という条件をつけたのであった。
 ヘンミは不満そうではあったものの、レイカがインデストに滞在していることは把握しており、この条件を受け入れたのであった。

 会談の席上で、ヘンミは爆破によって亡くなった従業員を貶めるハドリの発言に対して陳謝し、社として犠牲者の名誉を回復することを約束した。
 その上で犠牲となった者に対しては、過去に支払われたわずかの一時金とは別に、OP社に七〇歳まで在籍しているものとして、遺族にその給与を毎月支払うとし、遺族から了承を得た。

「私はECN社の出身で、ECN社時代は『タブーなきエンジニア集団』を立ち上げ、ハドリと戦ったウォーリー・トワの部下でした。事情があり、トワとは異なる道を歩むことになりましたが、事件の犠牲となった方々に対する気持ちはトワと同じです」
 ヘンミは遺族からハドリの事件への態度について質問された際、このように答えたのであった。
 ヘンミは過去にECN社の社員であったし、ウォーリーの部下でもあった。
 このことが彼の発言や行動に対して説得力を持たせていた。
 ヘンミがOP社へ出向したのは、電力供給不足問題に対するECN社からの人的支援であり、その後OP社へ転籍したのも、問題の解決に従事するためであった。
 このため、OP社、特にハドリのカラーが薄い、ということも遺族から好感をもって迎えられたのであった。

「……まったく、よく言うぜ。うちのマネージャーとそりが合わなくて、社に残ったくせに。何が『気持ちはトワと同じです』だ、聞いて呆れるぜ。なぁ、サクライ」
 会談の様子をモニタで見ていたミヤハラは、思わずそう毒づいたのであった。
「まったく気に入らないことですが、その点だけは気が合いますね。個人的にはまったくもって不本意、としか言いようがないですが……」
 サクライはそう返したものの、ミヤハラに反対する様子は欠片も見せなかった。
 予算についてはしまり屋の範疇に入るであろうサクライであったが、OP社が行う金銭的補償について、三分の一の額をECN社から拠出することには賛成したくらいであった。
 また、事件のあったビルの跡地に慰霊碑を建造し、毎年事件の日に慰霊祭を行うことも決定され、これらにECN社も協力することになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...