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体育館から少し離れた所にある『道場』の裏にある階段に、和志は周りを気にしながら腰を下ろした。
あの日哲太と交わした約束通り金曜の3限目、“1番得意な数学”の時間をサボり、待ち合わせのここに来ていた。
「学校の外で会えないなら、学校で会えばいいんじゃん?」そう言われた時は意味が解らなかったが、哲太が言うには『授業にはサボれる時間がある』そして『点数さえキープしていればそう煩く言われない』なのだそうだ。だからその『サボれる時間を有効活用』しようと言うのだ。
───授業サボるなんて初めてなんだけど……
哲太の言うことを疑う訳では無いが、どうもソワソワする。
自分が酷く悪い事をしているようで落ち着かない。もし、叔父にバレたら……その思いも拭いきれない。
それに何年ぶりかに再会した日、哲太は「方向音痴」と言われていたが、そこも心配になる。確かに哲太は子供の頃から間違いなく方向音痴だったからだ。
もし今日会えなければ、次の約束も出来ない。
───そうしたら……もう会うことも無いかもしれない……。
まだ分からない先の事を考え溜息を吐くと、外からの目隠しに植えられた生垣がガサゴソと音を立て、ビクッと身体を震わせた和志の前にひょっこりと哲太が顔を覗かせた。
「───哲太ッ!」
和志の顔を見るなりニッと笑った顔が今度は痛そうに歪み、生垣の枝をポキポキと鳴らしながら通り、その間を無理矢理抜け出てきたのだ。哲太の通った場所がぽっかりと穴が空いたように隙間が出来ている。
「……なんで……こんなとこから……」
唖然とする和志に
「まさか正面から入って来れねぇだろ?外から見てたら見たことある屋根が見えたからさ、こっから入んのが1番早ぇなって」
体に着いた葉っぱを払いながら当然の様に言っている。
昔から破天荒なところはあったが、その度合いが明らかに増している。
会いに来るから授業をサボれと言ったり、生垣の中から現れたり……
さっきまでの緊張がバカみたいに思え、和志はくすくすと笑いだした。
「……和志?」
そしてそんな自分を不思議そうに見る哲太に、堪えきれず声を上げ笑いだした。
「ちょっ……お前………バレたらマズイんだろ!?──おいッ!和志!」
こんなに大胆なことをしておいて、焦る哲太が可笑しくて、和志はしばらく笑い続けた。
「気は済んだかよ……」
やっと笑うのをやめ涙を拭いている和志に、隣に座った哲太が不貞腐れたように口にした。
「ごめんて……怒らないでよ…………あーお腹痛い……」
「別に怒ってねぇけどさ………それにしても笑い過ぎ………」
そう言いながらも口を尖らせている哲太に、和志はまたクスッと笑っている。
「お前は昔から笑いだしたら止まらねぇもんな……」
哲太が小さな溜息と共に吐き出した言葉に和志は首を傾げた。こんな風に大笑いした記憶はあまり無い。
「…………そうだっけ……」
「そうだよ。しかも訳わかんねぇとこで笑うじゃん。……ほら、昔大喧嘩した後もいきなり笑いだしてさ……あん時はマジビビったわ」
呆れたように、しかし懐かしそうに話し出した哲太の横顔を見つめた。
「…………そんなことあったっけ?」
「あったよ!……小4の時さ、高学年の奴等がお前を“王子様”って揶揄ってさ……」
そう言われて朧気ながら思い出した。
───そういえば……下校途中に高学年の知らない人達にいきなり揶揄われて……
相手は2人より体も大きく人数も多かった。無視していればその内止めるだろうと思っていたのに、しつこい嫌がらせにも似たそれに、いきなり哲太が殴り掛かっていったのだ。
それには殴られた者以外も、和志すら唖然とした。
その後はもう、怒涛の中の時間を過ごした記憶しかない。初めて人を殴り、そして殴られた。
そして殴られたことより、殴り方も知らずに殴った自分の手が痛かったのを覚えている。
「そう言えばあったね……そんなこと」
その記憶に和志はまたくすくす笑いだした。
あの時、陰で「王子様」なんて言われている自分より、哲太の方が余程王子様みたいだと思った。
逃げていく高学年の背中を、両方の鼻から血を垂らしながら仁王立ちになり見送る姿が、今まで見たどんなものよりかっこよく見えた。幼い頃見たヒーローより、テレビに出てくる芸能人より、鼻血を垂らし鼻息をまく哲太の姿がかっこよくて、王子様みたいだと思ったのだ。
そしてそんな事を考えた自分が、鼻血を垂らした“王子様”が、ひどく可笑しく思えて、バカみたいに笑った。
「そう言われてみれば……よく笑ってたよね」
それだけでは無い。哲太と過ごしていた時間は確かによく笑っていた。下らない冗談や、その日あったおかしな事。
「だろ?」
子供だったせいもあるだろうが、あの頃はどんな事でも楽しかった。
───哲太が傍にいてくれたから…………
「哲太は変わらないね」
───今も……哲太が傍にいてくれたら……俺はこんな風に笑えるだろうか…………
「和志も変わってねぇよ」
そう言って笑った顔が以前と変わらず、和志の胸を締め付けるように痛めた。
「………そうかな……」
胸の痛みに気付かれないように返した笑顔が、たった今まで見せていた笑顔と僅かに変わったのを、哲太が気付くことは無かった。
あの日哲太と交わした約束通り金曜の3限目、“1番得意な数学”の時間をサボり、待ち合わせのここに来ていた。
「学校の外で会えないなら、学校で会えばいいんじゃん?」そう言われた時は意味が解らなかったが、哲太が言うには『授業にはサボれる時間がある』そして『点数さえキープしていればそう煩く言われない』なのだそうだ。だからその『サボれる時間を有効活用』しようと言うのだ。
───授業サボるなんて初めてなんだけど……
哲太の言うことを疑う訳では無いが、どうもソワソワする。
自分が酷く悪い事をしているようで落ち着かない。もし、叔父にバレたら……その思いも拭いきれない。
それに何年ぶりかに再会した日、哲太は「方向音痴」と言われていたが、そこも心配になる。確かに哲太は子供の頃から間違いなく方向音痴だったからだ。
もし今日会えなければ、次の約束も出来ない。
───そうしたら……もう会うことも無いかもしれない……。
まだ分からない先の事を考え溜息を吐くと、外からの目隠しに植えられた生垣がガサゴソと音を立て、ビクッと身体を震わせた和志の前にひょっこりと哲太が顔を覗かせた。
「───哲太ッ!」
和志の顔を見るなりニッと笑った顔が今度は痛そうに歪み、生垣の枝をポキポキと鳴らしながら通り、その間を無理矢理抜け出てきたのだ。哲太の通った場所がぽっかりと穴が空いたように隙間が出来ている。
「……なんで……こんなとこから……」
唖然とする和志に
「まさか正面から入って来れねぇだろ?外から見てたら見たことある屋根が見えたからさ、こっから入んのが1番早ぇなって」
体に着いた葉っぱを払いながら当然の様に言っている。
昔から破天荒なところはあったが、その度合いが明らかに増している。
会いに来るから授業をサボれと言ったり、生垣の中から現れたり……
さっきまでの緊張がバカみたいに思え、和志はくすくすと笑いだした。
「……和志?」
そしてそんな自分を不思議そうに見る哲太に、堪えきれず声を上げ笑いだした。
「ちょっ……お前………バレたらマズイんだろ!?──おいッ!和志!」
こんなに大胆なことをしておいて、焦る哲太が可笑しくて、和志はしばらく笑い続けた。
「気は済んだかよ……」
やっと笑うのをやめ涙を拭いている和志に、隣に座った哲太が不貞腐れたように口にした。
「ごめんて……怒らないでよ…………あーお腹痛い……」
「別に怒ってねぇけどさ………それにしても笑い過ぎ………」
そう言いながらも口を尖らせている哲太に、和志はまたクスッと笑っている。
「お前は昔から笑いだしたら止まらねぇもんな……」
哲太が小さな溜息と共に吐き出した言葉に和志は首を傾げた。こんな風に大笑いした記憶はあまり無い。
「…………そうだっけ……」
「そうだよ。しかも訳わかんねぇとこで笑うじゃん。……ほら、昔大喧嘩した後もいきなり笑いだしてさ……あん時はマジビビったわ」
呆れたように、しかし懐かしそうに話し出した哲太の横顔を見つめた。
「…………そんなことあったっけ?」
「あったよ!……小4の時さ、高学年の奴等がお前を“王子様”って揶揄ってさ……」
そう言われて朧気ながら思い出した。
───そういえば……下校途中に高学年の知らない人達にいきなり揶揄われて……
相手は2人より体も大きく人数も多かった。無視していればその内止めるだろうと思っていたのに、しつこい嫌がらせにも似たそれに、いきなり哲太が殴り掛かっていったのだ。
それには殴られた者以外も、和志すら唖然とした。
その後はもう、怒涛の中の時間を過ごした記憶しかない。初めて人を殴り、そして殴られた。
そして殴られたことより、殴り方も知らずに殴った自分の手が痛かったのを覚えている。
「そう言えばあったね……そんなこと」
その記憶に和志はまたくすくす笑いだした。
あの時、陰で「王子様」なんて言われている自分より、哲太の方が余程王子様みたいだと思った。
逃げていく高学年の背中を、両方の鼻から血を垂らしながら仁王立ちになり見送る姿が、今まで見たどんなものよりかっこよく見えた。幼い頃見たヒーローより、テレビに出てくる芸能人より、鼻血を垂らし鼻息をまく哲太の姿がかっこよくて、王子様みたいだと思ったのだ。
そしてそんな事を考えた自分が、鼻血を垂らした“王子様”が、ひどく可笑しく思えて、バカみたいに笑った。
「そう言われてみれば……よく笑ってたよね」
それだけでは無い。哲太と過ごしていた時間は確かによく笑っていた。下らない冗談や、その日あったおかしな事。
「だろ?」
子供だったせいもあるだろうが、あの頃はどんな事でも楽しかった。
───哲太が傍にいてくれたから…………
「哲太は変わらないね」
───今も……哲太が傍にいてくれたら……俺はこんな風に笑えるだろうか…………
「和志も変わってねぇよ」
そう言って笑った顔が以前と変わらず、和志の胸を締め付けるように痛めた。
「………そうかな……」
胸の痛みに気付かれないように返した笑顔が、たった今まで見せていた笑顔と僅かに変わったのを、哲太が気付くことは無かった。
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