鳥籠の花

海花

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 終わりの知れない闇が、身体に纏わりつくように全てを覆い、その漆黒が、皮膚から少しづつ体内へと染み込んでいくような感覚に和志は抵抗もせず身を投じていた。
 あの不快な音は、今は聞こえない。
 しかしその代わりなのか、なんの音も聞こえなかった。小さな衣擦れの音も、息遣いも、自分の鼓動すら聞こえない。
 視覚も聴覚も、自分に与える情報は闇だけだと言うように、何も見えず、何も聞こえないのだ。
 一筋の光さえ射さない闇の底で、やがて自分の体もそれに溶けていくのだと思わせる。
 まるで闇から染み出した濁水が、何者にもなれずにまた闇に戻っていくように。
 生まれたことすら否定するように。
 
───そうしたら………もう何も………
 
 初めから、存在すらしなかったように。
 
───誰も…………苦しまずに済むんだろうか……
 
 掠れていく意識に、和志は沈むように身を委ねた。
 うんざりするような重く絡みつく感覚すら、今は心地よく感じる。
 このまま全てを終わらせられる……その想いが胸に過ぎった瞬間
 
『……───志……』
 
視界を覆った闇の向こうから、微かに声が聞こえた。
 
───誰………………
 
 闇に溶け始めた意識が引き戻される。
 
『……和………………志…………』
 
 自分の名前を呼ぶ声が、ひどく懐かしく、切なく聞こえる。
 
───誰………………
 
『…………和志…………和志………』
 
 ただ名前を呼んでいるだけの声が、そのまま闇に溶けるのを妨げるのだ。
 
 必死に────
 
『………………和志ッ…………』
 
 縋るように───
 
『───和志ーッ』
 
 祈るように───
 
「…………て………………た……」
 
 呼ぶ声が───
 
「───哲太ぁぁッ!」
 
 強く打つ鼓動を、再び和志の耳に届けた。


 

「───和志!?」
 
 遠くから聞こえた声に、哲太は動きを止め耳を澄ませた。
 今聞こえた声は確かに和志の声だ。
 おそらく、自分の声が聞こえ応えたのだ。
 
「──和志ーッッ!」
 
 しばらく待ってもそれ以上聞こえない声に、哲太はもう一度声を振り絞った。
 少しでも早く和志を見つけ出し、外に連れ出さなくてはならない。あの凄まじい炎が、いつこちらまで覆い尽くすか分からないのだ。
 
「───和志ーッ!!」
 
 もう一度声を張り上げると、やはりそれに応えるように
 
「哲太ッッ!──哲太ぁぁッ!」
 
先程よりハッキリと、自分を呼ぶ声が聞こえた。そしてそれを哲太に知らせるように、奥に見える扉が僅かに開いた。
 
「和志ッ……」
 
 哲太は袖で口を押さえるのも忘れ、その僅かに開いた扉へと向かった。
 
 



 
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