鳥籠の花

海花

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 光沢のある重い扉を開けると、哲太の眼はホテルのスイートルームのような部屋の奥にある、ベッドの上の和志をすぐに捉えた。
 高級な調度品にも、近くに立つ杉本の姿さえその瞳は映し出さない。ただ真直ぐに今にも泣きそうに身体を乗り出した和志を見つけ出したのだ。
 
「──和志ッ!」
 
 そしてすぐ側まで駆け寄ると、思い切り抱きしめた。
 
「哲太ッ」
 
「ごめん───オレ……お前を信じなくて……」
 
 温かい胸に苦しいほど抱きしめられ、哲太の想いを慰めるように和志は必死に首を横に振った。
 もう二度と逢えないのだと思っていた。
 哲太への想いだけでバスを降りた時、背中を向けた哲太に“これで全て終わった”と、“離れなければならない”のだと思った。
 それだけの理由が作られたのだと諦めた。
 
 それがもう一度、こうして哲太に触れることができた。
 全てを捨てようとした瞬間、哲太が手を差し伸べてくれたのだ。
 その想いが溢れるように、和志の手が哲太の制服をキツく掴んだ。
 
「これからは、何があっても和志の傍にいる………ぜってぇ離さねぇから……」
 
 それに応えるように、まだ強くなった抱きしめる手がひどく温かく感じる。
 この温もりにずっと包まれていられたら……。
 どんな形にせよ、傍で生きていくことができたなら……それを望まずにはいられなかった。
 
「けど──今はとにかく逃げよう。きっと……じきにここにも火の手が回るはずだ」
 
 和志の身体を優しく離すと、哲太は窓に視線を向けた。
 
「この高さなら窓から出れんだろ……。タクシーの運転手か……あの赤髪野郎が、通報してくれてるだろうから、すぐに──」
 
「残念ながら、この部屋の窓は開けることはできないし、そう簡単には壊せない」
 
 言葉を遮るように突然掛けられた言葉に、哲太は慌てて声の方を振り向いた。
 この部屋の中に和志以外の人間がいることに、全く気付いていなかったのだ。
 
「しかし……万が一の時、この部屋から外へ抜ける道を、お前には教えてあるね?……和志」
 
 しかし、哲太の視線を気にすることなく、声の主は和志を見つめた。
 
 この邸に来て数年が経ち、一人でこの部屋に入るようになった頃、和志は初めて外へ通じる“抜け道”があることを教えられた。
 賊が押し入って来た時の為に作られた、明治時代の名残だと教えられたが、筧の話を聞いた今なら“それだけでは無い”と解る。
 
「早く行きなさい」
 
 何も言わずただ視線を向けているだけの和志を突き放すようにそう言うと、杉本はソファーに横たわる秀行のすぐ傍に跪き背中を向けた。
 
「…………行こう……哲太……」
 
 その背中をしばらく見据えると、和志は哲太の手を取り立ち上がった。
 
 遠くで流れる音楽のように聞こえていた筧と杉本の会話が、今やっと理解できた。
 杉本は全てを終わらせる為にこの邸に火を放ち、秀行と共に死ぬつもりなのだ。
 何日もまともに動いてなかった足がフラつくのを哲太に支えられ、広いクローゼットを開けると、和志はその奥に隠されるように作られた小さな扉を開けてみせた。
 
「……暗いけど………壁を伝って行けば、門の近くの倉庫に出られるハズだよ」
 
 そう言って微笑むと、和志は哲太の手を離した。
 
「…………和志……?」
 
「助けに来てくれてありがとう……けど、俺は……哲太とは一緒に行けない」



 
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