鳥籠の花

海花

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 自分の手を引き、小さな扉を潜ろうとする哲太を止めると、和志は僅かに振り返り背中を向けたままの杉本に視線を向けた。
 
「俺はいきます……杉本さんは…………その人をどうするつもりですか……」
 
 少しづつ、しかし確実に入り込んで来ている白煙が、火の手が近付いていることを知らせる。
 
「……私たちのことは気にせず行きなさい。君に気にかけてもらう理由も無い」
 
「死ぬつもりですか」
 
 分かりきった質問の訳も、杉本に声を掛けている理由さえ解らなかった。
 今までここでしてきた事を思えば、杉本の言う通り、自分がこの二人を気に掛ける必要など無い。
 それでも、見ない振りをして出ていくことが出来ない。
 
「私たちが君にしてきた事を思えば、身勝手な願いだろう……けど、私はこれ以上秀行を苦しめたくない。全てを終わらせることが、何も出来なかった私の…………秀行に対する唯一の贖罪だ」
 
「……それが…………一緒に命を絶つことですか?それで……その人は救われるんですか?……少なくとも俺は…………救われない」
 
 別段この二人を助けたい訳じゃない。“死んでしまえばいい”と思う自分も、間違いなくに存在している。
 それなのに、胸の内が騒つくのだ。
“死なせてはダメだ”“こんなのは間違っている”と…………。
 
「和志……一人で歩けるか?」
 
 すると二人の会話を黙って聞いていた哲太が、和志の手を優しく握りしめた。
 
「え…………あ……俺は大丈夫…だけど……」
 
 突然切り出された言葉に、和志は拍子抜けしたように返した。その言葉の意図が解らない。
 そんな和志の手を離すと、哲太は杉本の元まで戻り、ソファーに眠っている秀行を抱え上げた。
 
「───なにしてる!?」
 
「逃げんだよ。この人も、あんたも」
 
「なに勝手なことを……」
 
 当たり前のように連れていこうする哲太の手を杉本の冷たい手が掴んだ。
 
「勝手なことしてんのはお互い様なんだろ?──オレはよくは解んねぇけど、和志が納得出来ねぇってんなら連れてく」
 
「───ふざけるなッ!秀行をこれ以上苦しめる者は………たとえ和志でも邪魔はさせない」
 
 冷たい手が、躊躇うことなく哲太の腕に食い込んだ。
 本気で全てを終わらせるつもりなのだ。
 秀行が逃げ出すことの出来なかったこの鳥籠の中で、罪も、叶うことのなかった願いも全て。
 
「あんたさ……」
 
 しかし哲太は、表情ひとつ変えずに杉本を見据えた。

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