君の手の温もりが…

海花

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片山 薫

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部屋の中を沈黙が支配してシャープペンがノートを埋める音だけが響いている。
薫の部屋で2人で勉強をしている。
財布を届けてから一週間が経ち、俊輔はお互いの予定が合えば薫の家を訪れるようになっていた。
会話といえば俊輔が分からないところや、もっと簡単な考え方を、薫が教えるくらいだった。
俊輔は勉強に集中できるこの空間に安心していた。
中学に入った頃、自分の『水恐怖症』を調べるようになり、様々な恐怖症で悩んでいる人が相当いるのだと知った。
俊輔の場合シャワーは全く問題ないが、ある一定量の水があると怖くなったし、『大量の水』がある、と想像してしまうだけで怖くなることもあった。
それでも薬を使い、自分を上手く安心させることが出来れば風呂やプールも短時間に限り我慢できる。
それで何とか周りに『水恐怖症』だと知られずにやってこれた。
俊輔の水恐怖症を知るのは、家族と一部の教師、それと結衣くらいだろうか。
隠したいと思うのは『恥ずかしい』から…。
そして色々調べるうちに、朧気ながら医師になりたい、とも思うようになっていた。
その俊輔にとって薫との勉強の時間は恵みの雨のようだった。
「少し休もう」
そう言って薫が身体を伸ばす。
時計を見て初めて3時間以上集中していたのだと気付いた。
俊輔もシャープペンを置いて首を回し肩のコリをほぐす。
「疲れたぁ」
俊輔が机に突っ伏し、心地よい疲れに目を閉じた。
「成瀬、何かあった?」
薫が立ち上がりコーヒーメーカーのスイッチを入れる。
「え?」
「なんか今日落ち着かない感じがしたから」
そう言うと心配そうに振り向いた。
「あぁ…」
明日の結衣たちとの約束が思い出される。
ここに来てから気にしていないつもりだったが無意識に出ていたのかもしれない。
「明日、友達とプールにいくから…。その事が気になってたのかも」
俊輔は苦笑いした。
「友達って女の子?いいね。リア充って感じ」
薫が茶化すように笑うと「俺、ああいう人混みとかダメなんだよね」
背中を向けコーヒーを注ぐ。
「砂糖…いらなかったよな?」
薫がミルク入のコーヒーを俊輔の前に置いた。
コーヒーのいい香りが鼻孔をくすぐる。
「サンキュ」
俊輔がコーヒーを手にして
「人混み苦手なんだ?」
そう言ってから口にした。
薫はコーヒーに視線を落とすと
「広場恐怖症って知ってる?俺…それなんだよね…。だから人混みとか行くと時々だけどパニック起こすの。だから結局そういう場所に行かなくなった」
俊輔に視線を向け困ったように笑う。「こんなこと話すの成瀬がはじめてだよ」
俊輔が何も言わず薫を見つめた。
薫は黙ったままコーヒーを見つめている。
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