君の手の温もりが…

海花

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診察

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カーテンの隙間から射し込む朝日が眩しくて目を覚ます。
俊輔は発作を起こしたまま眠ったのだと気付いた。
机の上に薬の空になった袋がある。
残りを取り出すと2回分だけしかなく不安になった。
……こんなんじゃダメだ…。
ため息をついて立ち上がりドアを開けると部屋の前の床で葵が寝ている。
「……葵……?」
目の周りが赤くなっていて、泣いたのだと容易に想像できた。
……また…迷惑かけたんだ……。
俊輔は乾いた唇を強く噛んだ。
起こそうか迷ったが、顔を合わせたくなくて自分の薄い布団をそっと掛ける。
「…ごめんな──…」
俊輔が葵の髪を撫で階段を降りていった。
顔を洗うのが嫌で濡れたタオルで拭くだけに留めた。
着替えをしていつも通り朝食を作る。
葵が喜んだフレンチトーストだ。
カレンダーを見て何も予定がないのを確認すると、スマホでバスの時間を調べて出かける準備をした。

「成瀬俊輔さん」
明るく清潔感のある待合室は人で溢れている。
看護師に診察室に入るように言われ予約以外で来るのはどれくらいぶりだろう…と考えた。
「俊輔くん、調子はどう?」
いつもと変わらず医師が笑顔を向ける。
「……ちょっと……あんまり良くなくて…」
無理に笑う。
俊輔はパニック障害と診断を受けてからずっとかかっている心療内科を訪れていた。
「そうなの?何か変わったこととかあったのかな?」
医師の軽く明るい言葉が狭い診察室に響くように聞こえる。
俊輔はプールで溺れた日からのことを、思い出せる範囲で話した。
「プール行ったのかぁ…。それはまた冒険したね」
と医師が笑うと、俊輔もつられて「はは…」
と笑った。
「昨日の発作は…突然起こったの?例えば…大量の水を連想してしまった…とか無くて?」
「……はい。…多分……」
「んー……。じゃあ他にストレスが強く掛かったようなことは無かった?例えば…家族や友人と喧嘩した、とか、ショッキングな映像…事故とか…目にした…とか」
俊輔の頭に葵とあの『莉央』と名乗った女性とのキスシーンが蘇る。
そして…あの…自分に向けられた葵の冷たい瞳……。
俊輔の手が軽く震え始める。
「俊輔くん。心配しなくて大丈夫だよ。ここには君を傷付けようとする物は何も無いから」
医師が笑顔を向ける。
「誰しもストレスが掛かると手が震えたり動悸がしたり、少なからずあるもんなんだよ。俊輔くんだけが特別なわけじゃない。俊輔くんの場合は、それが人より少し顕著に出てしまうだけだ。そんなに気にすることない。薬の助けを借りてまたコントロール出来るようになるよ。現に最近までは出来ていたんだからね」
医師が優しく微笑む。
俊輔は少し考えていると
「…先生も…そうゆうのありますか?…手が震えたり……息が…苦しくなったり……」
「僕?あるさ!」
そう言うと笑って「看護師に怒られてる時なんかいつもだよ。俊輔くんだから言うけど…優しそうに見えて相当怖いからね」
そう小声で言うので、思わず笑ってしまう。
「今は少し疲れているのかもしれないね。夜は?眠れてる?」
「正直あまり……。寝ると怖い夢を見そうで…」
「それは良くないね。睡眠不足は大敵だからね」
そう言ってカルテを見る。「少しの間、薬を変えてみよう。今の状態が落ち着くまでの間だけね。しばらくの間、眠気が出るかもしれないけど、もし酷いようならまた来てくれる?」
その後少し話し、2週間後の予約をして診察室を出た。
手の震えは消えている。
薬を貰うと数種類増え、眠前薬も出ている。
俊輔は薬が増えたことへの不安と、これできっと大丈夫とう微かな安堵と共に病院をでた。


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