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ヒトデ
しおりを挟む「凄い…………俺……ちゃんと来るの初めてかも……」
葵が大きな瞳をまだ見開いて釘付けになっている。
「ここ、少し遠いけど穴場で人少ないから、たまに来るんだよね」
藤井が葵を後ろから抱きしめ
「だから、こんな事もし放題」
そう言って頬にキスする。
葵の目の前には海が広がっている。まだ本当に幼い頃一度行ったような気がするが、俊輔が水恐怖症になってから、海に行くことはまず無かった。
「泳ぎたい!俺……泳いでもいい!?」
嬉しそうに振り向き笑う葵に
「でももう、8月も終わりだから……クラゲがいるよ?」
藤井が苦笑いした。
「クラゲ………。でも……入りたい……ダメですか!?」
藤井の服を必死な瞳で掴む葵に、少し考えてから
「じゃあ……足だけね。クラゲに刺されると後大変だから」
藤井の言葉が言い終わらないうちに葵は靴を脱ぎ始め、嬉しそうに波打ち際へ走っていく。その姿を見つめながら藤井は思わず笑った。
無邪気なくせに何処か大人びている…葵の初めて見る子供っぽい姿だ。
葵が海の中に入っていく姿を目で追っていると嬉しそうに手を振っているのが見え、藤井も振り返す。
その時藤井のスマホがなりSNSの着信を知らせた。千尋からだ。
開くと仕事の指示を仰ぐ内容で、それについて返してから再び葵に視線を向けた。
───!?……葵…………!?
今まで葵が見えていた所に姿が見えない。
この浜辺の人の少ない理由のひとつに、少し行くと急に深くなり子供を遊ばせるのに向かないと言う点もあった。
「———葵——‼︎」
藤井が海に向かって走り出した。なぜ葵にちゃんと説明しておかなかったのか、海にちゃんと来るのが初めてだと言っていたのに……。
藤井は海に入り葵を探した。
すると、後ろから水が跳ねる大きな音と共に「———ぷはーっ‼︎」と息を吐く声が聞こえ
「藤井さん‼︎———ヒトデー………あれ……?」
浜辺の方に向けて海から出てきた葵が高々とヒトデを掲げるのを……腰まで水に浸かった藤井が後ろから見つめ、ホッと安堵のため息をついた。
結局……葵のお陰で二人ともびしょ濡れになっていた。葵に至っては潜ったせいで頭から足の先まで見事にびしょびしょだ。
———どうしたもんかな……。
藤井のマンションまでどう頑張っても二時間以上かかる。その間何処にも寄らず帰るのも……。
「ごめんなさい……俺のせいで…」
落ち込む葵の頭を優しく撫でると
「謝る必要なんかないから。……そうだ……せっかくだから…ホテル行こうか?」
そう言ってにっこりと笑った。
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