君の手の温もりが…

海花

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最終話 手の温もり

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鍵が開く音と共にドアが開かれ藤井が俊輔を出迎えた。

「……葵と…話をさせてください」

俊輔が藤井を見つめる。昼間は見られた迷いが今はまったく見て取れない。

「………葵は会いたくないと言ってる」

俊輔は藤井を睨みつけ玄関の中に無理に入ると

「———葵‼︎」

中に聞こえる様に叫んだ。藤井は黙って俊輔の様子を見つめている。

「聞こえてるんだろ⁉︎………一緒に……俺と一緒に帰ろう‼︎」

俊輔の声だけが部屋に響く。中に本当に葵がいるのかも分からない程静まり返っている。

「———あおい!!」

俊輔が思い切り叫んだ。

「———好きなんだ!……葵が‼︎———誰でもない葵が……葵が……ずっと……」

今の今まで葵に何と言おうか考えていた。しかし考えた事のひとつも口から出てこなかった。ただ今まで伝えたくて伝えられなかった言葉だけが口を衝いてでた。
ガタンっと寝室から音が響き、藤井がため息をつき音が鳴った方へ向かった。

「———葵?……鍵開けられる?」

少しすると鍵の開く音がして藤井がドアを開けた。すぐ横の壁に背中を預け葵は座り込んでいる。藤井はその横に膝をついた。

「……葵?……聞こえてただろ?」

葵がどうしていいのか分からないのか、藤井を縋る様に見つめる。

「選ぶの葵だよ」

優しい笑顔に思わず縋りたくなる。頭が混乱していた。まさか———俊輔が自分の事を好きだと言うなんて思ってもいなかった。

———それに……藤井さんは?………俺がいなくなった後……どうなる———?

勿論、俊輔のことは誰にも…何にも変えられない……子供の頃からずっと好きだった。世界でたった一人のかけがえのない存在………。
しかし、藤井を好きだと思うのも嘘じゃない……。

「……だって………藤井さん…俺がいなくなったら………」

藤井は困った様に笑った。

———俺がいなくなったら……か…。選ぶ余地もないな………。

「俺のことは考えなくていい。葵がしたい様にすればいい」

しばらく藤井を見つめていた葵は辛そうに顔を歪め、腕を伸ばし藤井の首に抱きついた。

「…………ごめんなさい……………」

謝る葵の背中をあやす様に軽く叩くと

「早く…行きな……。彼が待ってる」

———俺が………笑っていられるうちに………。

葵は何か言いたそうに口を開きかけたが、思い直した様に立ち上がり俊輔の元に向かった。



「———葵…………」

今にも泣きそうな顔の葵が姿を現すと俊輔が手を差し伸べた。

「一緒に帰ろう……」

葵は黙ったまま頷いて、俊輔の手を握りしめた。



二人で黙ったまま家への道を歩いている。
しかし手は硬く繋がれている。まだ人が行き来する道を躊躇いもせず手を繋いだまま歩いた。

やっと……繋げた手を……その温もりを……二人とも離したくなかった……。



俊輔は以前の様に朝食の支度を終えると葵を起こしに階段を上っていく。
ただ前と違うのは

「葵!そろそろ起きな!お前、課題やんなきゃだろ?」

俊輔のベッドで寝息を立てている葵に声をかけた。
夏休み最終日だ。

「葵‼︎」

俊輔は葵の耳元で叫ぶと

「………うるさい……」

葵がほんの少し目を開け、不機嫌そうに俊輔の腕を掴んだ。

「まだいいじゃん……」

そう言いながら俊輔を抱きしめキスをしようとして逃げられる。

「課題!終わってからって言ってるじゃん!」

俊輔が真っ赤な顔で睨みつける。

「いいじゃん……。ケチ」

葵が不貞腐れ口を尖らせている。
昨夜、帰ってから一度だけキスをした。『課題が終わってから…』と兄の顔を見せた俊輔に仕方なく葵も従った。
しかし子供の頃の様に自分の胸に抱いて眠ってくれた俊輔を見上げながら葵はやっと戻ってこられた大好きな場所で安心して眠った。

「課題……終わったら……」

葵が面白くなさそうにベッドから立ち上がり俊輔にグッと顔を寄せた。

「ちゃんとキスさせろよな!」

そう言うと階段を降りてキッチンへ向かった。


        

                 ~E N D~



                    









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