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居場所
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「人ってさぁ……」
突然口を開いた翔太に、オレは読んでいた本から視線を移した。
「自分の居場所を見つける為に生きてるんだと思うんだよね」
オレの視線に気付いたのか参考書を見ながら翔太は話し続けた。
「………そうなの?」
「居心地のいい、本当の自分の居場所を見つける為に前へ歩くんじゃないかなって思う」
翔太は時々哲学的なことを言う。
オレにはよく解らないし、思いもしないけど…
それを聞くのは決して嫌いじゃない。
「歩く…ってのは物理的に?」
「違うよ。バカ。……勉強したり…仕事したり……趣味を見つけたりさ。その中で自分の居場所を見つけるんじゃないかな……」
「ふぅん……」
「家があって、家族がいて……でもそこは本当の自分の場所じゃなくて……だから……必死に生きるんじゃないかな……」
そう言いながら翔太は長袖のシャツをめくり、幾つも並んだ傷の後を指でさすり始めた。
「じゃぁ……翔太はなんでこんな事してたの?死んだら自分の居場所なんて見つけられないじゃん」
オレは立ち上がり翔太の隣まで行くと、その傷に一緒に触れた。
見えないようになのか、肘より上の方に幾つも並んだ線の様な傷跡。
「……なんでかな…………。あの頃は自分の居場所なんて欲しくなかったし……お前もいなかったしさ……」
「今はオレがいるから……幸せ?」
「……そうだね……。あの頃みたいに死にたいとは思わなくなったかな。お前が……ここに居ていいよ……って言ってくれるから……」
「そいつは良かった」
オレはそう言って翔太の頬に手を当てると、優しく自分へ向けそっと口付けた。
「ずっとオレのそばにいてよ」
オレは愛しい身体を抱きしめ、翔太の耳に舌を這わせた。
「──くすぐったい……」
「……今日もしようか?」
くすくす笑いながら逃げる身体を捕まえ耳元で囁く。
「昨日もやったじゃん。それに…明日、朝から講義あるからなぁ……」
そう言いながら、ベッドに入るとちゃんと受け入れてくれる翔太をオレは分かっている。
「意地悪言わないでよ」
2人でくすくす笑っていると、突然部屋のドアがノックされ
「──翔太、ご飯よ」
そう言って翔太の母親が顔を覗かせた。
「……わかったよ」
翔太が答えると、僅かに訝しげに眉をひそめ
「今…………誰かと話してなかった……?」
狭い部屋を見渡し、そう口にする顔を翔太の横からオレはじっと見つめる。
「…………動画見てたから……その音じゃない?」
スマホを指さす翔太に、ホッとしたように笑うと
「なんだ……そっか。──ご飯、冷めちゃうから早く降りていらっしゃいね」
翔太の母親は言葉だけ残し、ドアを閉めて階段を降りていった。
「───オレのこと……言わないの?」
閉められたドアから翔太へと視線を戻す。
「………………言ったところでね……。せっかく病院に行かなくて良くなったのに……また連れてかれちゃうよ」
笑う翔太にオレは
「ふぅん……」
とだけ返し、また抱きしめキスをする。
「飯だってさ。早く戻って来てよね」
翔太がいない部屋でベッドに横になり、オレは翔太が戻ることだけを願っている。
この狭い部屋だけが、翔太の瞳にしか映らないオレの……大切な居場所だから。
突然口を開いた翔太に、オレは読んでいた本から視線を移した。
「自分の居場所を見つける為に生きてるんだと思うんだよね」
オレの視線に気付いたのか参考書を見ながら翔太は話し続けた。
「………そうなの?」
「居心地のいい、本当の自分の居場所を見つける為に前へ歩くんじゃないかなって思う」
翔太は時々哲学的なことを言う。
オレにはよく解らないし、思いもしないけど…
それを聞くのは決して嫌いじゃない。
「歩く…ってのは物理的に?」
「違うよ。バカ。……勉強したり…仕事したり……趣味を見つけたりさ。その中で自分の居場所を見つけるんじゃないかな……」
「ふぅん……」
「家があって、家族がいて……でもそこは本当の自分の場所じゃなくて……だから……必死に生きるんじゃないかな……」
そう言いながら翔太は長袖のシャツをめくり、幾つも並んだ傷の後を指でさすり始めた。
「じゃぁ……翔太はなんでこんな事してたの?死んだら自分の居場所なんて見つけられないじゃん」
オレは立ち上がり翔太の隣まで行くと、その傷に一緒に触れた。
見えないようになのか、肘より上の方に幾つも並んだ線の様な傷跡。
「……なんでかな…………。あの頃は自分の居場所なんて欲しくなかったし……お前もいなかったしさ……」
「今はオレがいるから……幸せ?」
「……そうだね……。あの頃みたいに死にたいとは思わなくなったかな。お前が……ここに居ていいよ……って言ってくれるから……」
「そいつは良かった」
オレはそう言って翔太の頬に手を当てると、優しく自分へ向けそっと口付けた。
「ずっとオレのそばにいてよ」
オレは愛しい身体を抱きしめ、翔太の耳に舌を這わせた。
「──くすぐったい……」
「……今日もしようか?」
くすくす笑いながら逃げる身体を捕まえ耳元で囁く。
「昨日もやったじゃん。それに…明日、朝から講義あるからなぁ……」
そう言いながら、ベッドに入るとちゃんと受け入れてくれる翔太をオレは分かっている。
「意地悪言わないでよ」
2人でくすくす笑っていると、突然部屋のドアがノックされ
「──翔太、ご飯よ」
そう言って翔太の母親が顔を覗かせた。
「……わかったよ」
翔太が答えると、僅かに訝しげに眉をひそめ
「今…………誰かと話してなかった……?」
狭い部屋を見渡し、そう口にする顔を翔太の横からオレはじっと見つめる。
「…………動画見てたから……その音じゃない?」
スマホを指さす翔太に、ホッとしたように笑うと
「なんだ……そっか。──ご飯、冷めちゃうから早く降りていらっしゃいね」
翔太の母親は言葉だけ残し、ドアを閉めて階段を降りていった。
「───オレのこと……言わないの?」
閉められたドアから翔太へと視線を戻す。
「………………言ったところでね……。せっかく病院に行かなくて良くなったのに……また連れてかれちゃうよ」
笑う翔太にオレは
「ふぅん……」
とだけ返し、また抱きしめキスをする。
「飯だってさ。早く戻って来てよね」
翔太がいない部屋でベッドに横になり、オレは翔太が戻ることだけを願っている。
この狭い部屋だけが、翔太の瞳にしか映らないオレの……大切な居場所だから。
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読んでくださりありがとうございます。
はい。そういうことなんです😊