神殺しの花嫁

海花

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もう一人の狼

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言われれば僅かに明るくなってきていると分かるような空に有明の月が浮かんでいる。
何処か儚げで色の薄くなった月に、琥珀は奥の布団で寝息を立てている幸成を振り返った。

何度かイカせると、しがみついていた手から力が抜け身体に熱を残したまま落ちていった。
何度も自分の名を呼び、切なそうに、しかし幾度となく口付けをせがんだ寝顔を遠くから見つめると、無意識に琥珀の顔にも笑みが浮かんでいた。

夢中になって幸成の身体を貪る様に抱いた。
ただ欲望を吐き出したいだけでは無く、幸成の声が自分の名を口にする度に、違う感情が込み上げるのが解った。
どれくらい振りに抱いたか分からない、翡翠や蒼玉達とはまた違う愛おしさ。
それを自分でも意外な程に、琥珀はすんなりと腹に落としていた。

「…………えれぇ機嫌良さそうじゃねぇか」

庭から無遠慮に入って来るなり、不機嫌とも取れる声を吐いた主に、琥珀は幸成から視線を移した。

「……そうか?……そうでも無ぇさ」

「…………ニヤつきながら、どの面が言ってんだか……」

琥珀の返答に一層不機嫌に口にすると、黒曜は躊躇う事なく縁側に座った。

「奴とやったのかよ……?」

「だったらなんだ?」

「…………別に…?……相変わらず節操ねぇなと思うだけだ」

嘲る様に鼻を鳴らした黒曜に、琥珀は苦笑いした。

「なんだよ…機嫌悪ぃな……。そう言うお前も女んとこからの帰りだろ」

「……………別に……機嫌なんか悪くねぇし……」

「そうか?」

「そうだよッ」

「ならいいさ」

不機嫌なのを言い当てられ、不貞腐れている黒曜を思わず笑顔で見つめた。

幼い時から変わらない。
今にも息が絶えそうな小さな身体で、それでも必死に生きることを諦めなかった生命に血を分け与え、名前を授けた。

琥珀自体、まだそれがどう言う意味を持つかも解らない頃、犯した罪。

それからずっと長い時間を共に過ごしてきた、自分を慕う一匹の狼。
一人になって初めて出来た家族だった。

「───それで……?俺はいつ奴にやればいい?……やる事やったんなら気は済んだだろ」

諦めた様に、それでもやはり面白くなさそうに言うと、黒曜も奥の布団から聞こえてくる寝息へと目を向けた。
唯一琥珀と共に長い時間を過ごした自分には、決して与えられることのなかった場所で眠る男の寝顔を忌々しげに見つめている。

「…………あれにはやらなくていい」

「────は……!?」

「あれはあのままでいい。オレの手元に置く」

当然の事の様に言葉にした琥珀に、黒曜の目が見開かれ、その言葉が理解すら出来なかったかのような視線が戻された。

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