神殺しの花嫁

海花

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「では──私は酒の支度をしますので…………幸成殿、お手伝いして頂けますか?」

沈黙を破る様に瑠璃は口にすると、幸成に向かって微笑んだ。

「───えっ…………あ、はい!俺で良ければ……」

すぐ様立ち上がろうとした幸成の腕に琥珀の手が伸びた途端、立ち上がり掛けた身体がビクリと震えた。

「…………身体は…大丈夫か?」

そう口にするのと共に、幸成に触れること無く琥珀の手が膝の上に戻された。

今は琥珀色に戻った瞳が自分を気遣い、心配してくれていると分かるのに、触れられることが恐いと感じてしまった。
あの紅い、鈍く光った瞳を、身体の奥から湧き上がってくるような恐怖を、そのつもりもなく思い出してしまったのだ。

「……あ…………大丈夫です。……ありがとうございます……」

「………そうか」

向けられた笑顔が無理をしているように見え、幸成は視線を逸らすと立ち上がり、それ以上何も言わず瑠璃と台所へと向かった。



「あーぁ……ありゃ完全に怖気付いてんな」

瑠璃が居なくなった途端、紫黒が足を崩し床にドカッと音を立てて座った。

「……所詮、人間如きにお前の相手なんぞ無理なんだよ」

先程までの挑発する様な物言いとは違い、紫黒は独り言でも言っている様に続けた。

「人だけじゃねぇ。獣だってそうだ。俺達の真の姿を見りゃ……大概の奴は戦きおののき怖気付く……。だから俺達は“眷属を作る”力を授けられてる……それをなにも……抗い踠くもがく必要もねぇだろうさ」

どこか憂いを含んだ声を、黒曜は俯いたまま聞いていた。

本来なら、幸成の場所に自分がいてもおかしくない。
確かに眷属だからと言って必ずしも主からの寵愛を受ける訳じゃない。
しかし血を分け与えられ眷属となれば、他のどの絆より固く結ばれる。
その証拠に異変があれば、こうしてすぐに主の元に駆けつける事が出来る。
しかし琥珀は、自分のことを眷属としても認めていない。

「お前はオレの息子だ」

幾度となく、その言葉だけを与えられた。
銀の誇り高い姿に憧れ、恋焦がれながらも、自分はその奥に触れることすら許されない。

「……別に抗ってなんかいねぇさ」

紫黒の言葉に軽い口調で返すと、琥珀は立ち上がり埃を払う様に着物を軽く叩いた。

「オレはオレのしたい様にしてるだけだ。──それより……何か理由があってここに来たんだろ?……まさか本当に幸成を見に来たってだけじゃねぇだろ……?」

探るような視線を向けると、紫黒の目が再び鋭く変わり

「……白姫が神殺しにあった」

感情の無い声が告げた。


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