神殺しの花嫁

海花

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琥珀の鼓動が強く、早くなっていく。
ただ妖が己の愚かさを省みずに、幸成を襲おうとしたのだと思っていた。

それなのに……何故そんなことを────

「───本気で言ってんのか…………」

「……………だから……こいつじゃなくて俺に……罰を与えるなら──」

「───お前が、こいつ使って幸成を殺そうとしたのか……?」

冷たく、それでいて這う様な怒りを含んだ声に、地に着いた手がガタガタと震え、黒曜は掌の下の土ごと強く握りしめた。

「───黒曜」

「…………そうです…………」

ずっと昔、翡翠や蒼玉達とそう変わらない年端の頃、一度だけ琥珀のことを恐ろしいと思ったことがある。
妖が数体、雪乃の墓を荒らそうとした事があった。
もう既に肉は地に熔けているだろうに、それでも雪乃の亡骸を食おうとしていた。

本当に一瞬だった。

何が起こったのかすら解らない程の瞬間とき───。
辺り一面真紅まっかに染まっていた。

直前まで確かに存在していた身体が、地面と言わず周りに生い茂った木の幹と言わず、散々ちりじりにされ、ただ紅く辺りを染めていた。
息苦しくなる程の血生臭さと、深紅に染まった琥珀の身体を今でも鮮明に覚えている。
そしてその時の戦慄も…………。
なんの躊躇いも見せず、それを成す男を初めて恐ろしいと思った。

「───違うッ!」

背中から聞こえた月夜の声に黒曜は目を見張った。

「おれが……勝手にやったんだ!! コイツはなんの関係も無いッ!」

振り返ると動かすことさえ困難に思える身体を起こし眼球さえ血で染まった月夜が琥珀に向かいニヤッと笑った。

「コイツがあんたを裏切る訳ないじゃん……」

月夜の身体が震えているのが分かる。
それなのに、琥珀の怒りを自分一人に向けようと必死に強がって笑っているのだ。

「……おれが………そいつを食うために──」

「───黙れッ!」

黒曜の叫びにも似た怒鳴り声が響いた。

「…………頼むから………それ以上何も言うな……」

「……黒……曜………」

琥珀から庇う様に、まるでその姿を隠す様に黒曜は月夜を抱きしめた。
こんなことをしたところで無駄だと解っている。
あの時も何体もいた妖全てが、一瞬で消されたのだ。自分の身体など、盾になるわけも無い。


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