神殺しの花嫁

海花

文字の大きさ
81 / 173

・・・

しおりを挟む
本気とも冗談とも思える笑顔を、幸成は目を逸らすこと無く見つめていた。
何を考えているのかやはり測れない。
ただ琥珀に、そして恐らく自分にも良い感情を抱いていないことは分かる。

「あ!あれね?食べるって言うのは『抱かせて』ってことね!」

ふざけた様に笑い

「でもまぁ……それがダメなら……指の一本でも本当に食べさせてくれてもいいけどね」

そう続けた。
もし仮に自分がそれを了承したなら、躊躇うことなく本気で食べるのだろうと容易に想像がつく。

「どちらも嫌です」

キッパリと述べた幸成に、白姫は目を丸くするとケタケタと声を上げて笑いだした。

「……きみ面白いなぁ……。思ってたよりずっと面白いよ!」

一通り笑うと腹を抱えながら、まるで昔からの友人の様に幸成の肩を叩いた。

「けどさぁ……それは虫が良すぎるでしょ……。僕には何の旨味もないじゃない……?」

「……それでも嫌です」

「あー…………まぁそりゃ……誰でも指を食べられるのは嫌か……痛いしね。けど肌に触らせてくれるくらいなら、いいじゃない」

瞬きをしない青黒の瞳が幸成を捉え、息が掛かりそうな程近付くと

「琥珀に抱かれる前……実の兄さんとやってんだからさ……」

ニヤリと笑った。

「───何故それを……」

一気に血の気が引くのが分かり、急激に鼓動が早くなっていく。
ここに来る前の晩、兄に犯されたことなど、琥珀すら知らない筈だ。

「僕ね、こう見えても『ある大御神様』の神使なの」

にっこり笑うと、幸成の胸を指で“トン”と指した。

「人の過去が視えちゃうんだなぁ……これが。どんなに胸の奥深くに隠していたとしても……本人すら忘れかけてしまっていたとしても……僕には全て視える」

冷たい指が耳をなぞり

「ねぇ、どんな感じ……?実の兄さんに犯されるってのはさ……」

長く細い舌が、耳朶をぬるりと這わされた。

幸せな時間に埋める様に隠してきた、忘れることの出来ない記憶が目の前に蘇る。
痛みと……恥辱に……ただ耐えていただけの時間。

肌に掛かった兄の息すら克明に思い出せる。
腿を伝う、血と兄が吐き出した欲望の感触も……。

「──あッ!琥珀に言ったら!?きみが兄さんに無理矢理犯されてたなんて聞けば、あいつの事だからきっと噛み殺してくれるよ!……もし言いづらいなら僕が……」

「──やめてくださいッ!」

抑えが効かなった感情が幸成の身体が震えさせ、溢れ出した涙が頬を伝った。

「ヤダヤダッ!泣かないでよ!……これじゃまるで僕がきみを虐めてるみたいじゃない」

涙を溜め怒りを含んだ瞳が、言葉とは裏腹な嬉々とした笑顔を見据える。

「知られるのが怖い?…………琥珀のことが本当に大事なんだね…………」

そう口にしながら、優しく髪を撫でるこの男が、自分を傷付けようとしていると解る。

「それとも…………きみが大事なのは……」

逃げ出しても良かった。
恐らくこの男は逃げ出した自分を追うようなことはしないだろう。
逃げ出して、幸せな時間に身を隠せば琥珀が守ってくれる。

「偽りで出来た……」

───でもそれじゃ…………今までと変わらない───

「幸せな時間が大事なのか……?」

「違うッ!!」

───今度は…………俺が…………

「…………なら確かめさせてよ……。全部知っても……そう言ってられるかさ……」

見つめる大きな青黒の瞳が鈍く光った様に見え、白姫の指が幸成の額に“トン”と触れた。

「……なに……を…………」

その途端、足元から絡みつく様に足に闇が這い、震える身体をゆっくりと覆い尽くしていく。
そして途切れる意識の中、白姫の美しい笑顔が自分を見下ろしているのだけが、いつまでも目に焼き付いていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...