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本気とも冗談とも思える笑顔を、幸成は目を逸らすこと無く見つめていた。
何を考えているのかやはり測れない。
ただ琥珀に、そして恐らく自分にも良い感情を抱いていないことは分かる。
「あ!あれね?食べるって言うのは『抱かせて』ってことね!」
ふざけた様に笑い
「でもまぁ……それがダメなら……指の一本でも本当に食べさせてくれてもいいけどね」
そう続けた。
もし仮に自分がそれを了承したなら、躊躇うことなく本気で食べるのだろうと容易に想像がつく。
「どちらも嫌です」
キッパリと述べた幸成に、白姫は目を丸くするとケタケタと声を上げて笑いだした。
「……きみ面白いなぁ……。思ってたよりずっと面白いよ!」
一通り笑うと腹を抱えながら、まるで昔からの友人の様に幸成の肩を叩いた。
「けどさぁ……それは虫が良すぎるでしょ……。僕には何の旨味もないじゃない……?」
「……それでも嫌です」
「あー…………まぁそりゃ……誰でも指を食べられるのは嫌か……痛いしね。けど肌に触らせてくれるくらいなら、いいじゃない」
瞬きをしない青黒の瞳が幸成を捉え、息が掛かりそうな程近付くと
「琥珀に抱かれる前……実の兄さんとやってんだからさ……」
ニヤリと笑った。
「───何故それを……」
一気に血の気が引くのが分かり、急激に鼓動が早くなっていく。
ここに来る前の晩、兄に犯されたことなど、琥珀すら知らない筈だ。
「僕ね、こう見えても『ある大御神様』の神使なの」
にっこり笑うと、幸成の胸を指で“トン”と指した。
「人の過去が視えちゃうんだなぁ……これが。どんなに胸の奥深くに隠していたとしても……本人すら忘れかけてしまっていたとしても……僕には全て視える」
冷たい指が耳をなぞり
「ねぇ、どんな感じ……?実の兄さんに犯されるってのはさ……」
長く細い舌が、耳朶をぬるりと這わされた。
幸せな時間に埋める様に隠してきた、忘れることの出来ない記憶が目の前に蘇る。
痛みと……恥辱に……ただ耐えていただけの時間。
肌に掛かった兄の息すら克明に思い出せる。
腿を伝う、血と兄が吐き出した欲望の感触も……。
「──あッ!琥珀に言ったら!?きみが兄さんに無理矢理犯されてたなんて聞けば、あいつの事だからきっと噛み殺してくれるよ!……もし言いづらいなら僕が……」
「──やめてくださいッ!」
抑えが効かなった感情が幸成の身体が震えさせ、溢れ出した涙が頬を伝った。
「ヤダヤダッ!泣かないでよ!……これじゃまるで僕がきみを虐めてるみたいじゃない」
涙を溜め怒りを含んだ瞳が、言葉とは裏腹な嬉々とした笑顔を見据える。
「知られるのが怖い?…………琥珀のことが本当に大事なんだね…………」
そう口にしながら、優しく髪を撫でるこの男が、自分を傷付けようとしていると解る。
「それとも…………きみが大事なのは……」
逃げ出しても良かった。
恐らくこの男は逃げ出した自分を追うようなことはしないだろう。
逃げ出して、幸せな時間に身を隠せば琥珀が守ってくれる。
「偽りで出来た……」
───でもそれじゃ…………今までと変わらない───
「幸せな時間が大事なのか……?」
「違うッ!!」
───今度は…………俺が…………
「…………なら確かめさせてよ……。全部知っても……そう言ってられるかさ……」
見つめる大きな青黒の瞳が鈍く光った様に見え、白姫の指が幸成の額に“トン”と触れた。
「……なに……を…………」
その途端、足元から絡みつく様に足に闇が這い、震える身体をゆっくりと覆い尽くしていく。
そして途切れる意識の中、白姫の美しい笑顔が自分を見下ろしているのだけが、いつまでも目に焼き付いていた。
何を考えているのかやはり測れない。
ただ琥珀に、そして恐らく自分にも良い感情を抱いていないことは分かる。
「あ!あれね?食べるって言うのは『抱かせて』ってことね!」
ふざけた様に笑い
「でもまぁ……それがダメなら……指の一本でも本当に食べさせてくれてもいいけどね」
そう続けた。
もし仮に自分がそれを了承したなら、躊躇うことなく本気で食べるのだろうと容易に想像がつく。
「どちらも嫌です」
キッパリと述べた幸成に、白姫は目を丸くするとケタケタと声を上げて笑いだした。
「……きみ面白いなぁ……。思ってたよりずっと面白いよ!」
一通り笑うと腹を抱えながら、まるで昔からの友人の様に幸成の肩を叩いた。
「けどさぁ……それは虫が良すぎるでしょ……。僕には何の旨味もないじゃない……?」
「……それでも嫌です」
「あー…………まぁそりゃ……誰でも指を食べられるのは嫌か……痛いしね。けど肌に触らせてくれるくらいなら、いいじゃない」
瞬きをしない青黒の瞳が幸成を捉え、息が掛かりそうな程近付くと
「琥珀に抱かれる前……実の兄さんとやってんだからさ……」
ニヤリと笑った。
「───何故それを……」
一気に血の気が引くのが分かり、急激に鼓動が早くなっていく。
ここに来る前の晩、兄に犯されたことなど、琥珀すら知らない筈だ。
「僕ね、こう見えても『ある大御神様』の神使なの」
にっこり笑うと、幸成の胸を指で“トン”と指した。
「人の過去が視えちゃうんだなぁ……これが。どんなに胸の奥深くに隠していたとしても……本人すら忘れかけてしまっていたとしても……僕には全て視える」
冷たい指が耳をなぞり
「ねぇ、どんな感じ……?実の兄さんに犯されるってのはさ……」
長く細い舌が、耳朶をぬるりと這わされた。
幸せな時間に埋める様に隠してきた、忘れることの出来ない記憶が目の前に蘇る。
痛みと……恥辱に……ただ耐えていただけの時間。
肌に掛かった兄の息すら克明に思い出せる。
腿を伝う、血と兄が吐き出した欲望の感触も……。
「──あッ!琥珀に言ったら!?きみが兄さんに無理矢理犯されてたなんて聞けば、あいつの事だからきっと噛み殺してくれるよ!……もし言いづらいなら僕が……」
「──やめてくださいッ!」
抑えが効かなった感情が幸成の身体が震えさせ、溢れ出した涙が頬を伝った。
「ヤダヤダッ!泣かないでよ!……これじゃまるで僕がきみを虐めてるみたいじゃない」
涙を溜め怒りを含んだ瞳が、言葉とは裏腹な嬉々とした笑顔を見据える。
「知られるのが怖い?…………琥珀のことが本当に大事なんだね…………」
そう口にしながら、優しく髪を撫でるこの男が、自分を傷付けようとしていると解る。
「それとも…………きみが大事なのは……」
逃げ出しても良かった。
恐らくこの男は逃げ出した自分を追うようなことはしないだろう。
逃げ出して、幸せな時間に身を隠せば琥珀が守ってくれる。
「偽りで出来た……」
───でもそれじゃ…………今までと変わらない───
「幸せな時間が大事なのか……?」
「違うッ!!」
───今度は…………俺が…………
「…………なら確かめさせてよ……。全部知っても……そう言ってられるかさ……」
見つめる大きな青黒の瞳が鈍く光った様に見え、白姫の指が幸成の額に“トン”と触れた。
「……なに……を…………」
その途端、足元から絡みつく様に足に闇が這い、震える身体をゆっくりと覆い尽くしていく。
そして途切れる意識の中、白姫の美しい笑顔が自分を見下ろしているのだけが、いつまでも目に焼き付いていた。
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