神殺しの花嫁

海花

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高い所にある小さな格子の掛かった窓から、月が覗いるのに気付き、幸成は床に転がったままそれを見上げた。

昼間の父の剣幕では、話を聞いてもらう事さえ難しい。
まして自分も琥珀のことを“化け物”と言われ、感情のままに怒鳴ってしまった。
それに父の態度から、『真神が人に対して難を生すが為に“神殺し”を行う』そう言っていた言葉が嘘のように思えてならない。

───ならば……俺の言葉に耳を貸さないのは何故だ…………。

恐らく自分の知らない“なにか”があるのだ。

後ろ手に縛られた両手の代わりに、肩と頭を使い、どうにか起き上がり座ると、置いてある長持ちに寄りかかった。
少し前黒川が夕餉にと、握り飯を届けてくれた。
それ以外はずっと縛られたままの腕が、痺れた様に痛む。
それに顔を歪めると、鍵を開け暗闇の中灯りを手に誰かが入ってくるのが見えた。

「…………黒川か……?」

しかし近付いて来た顔が灯りに照らされると、幸成の喉が音を立てて唾を飲み込んだ。

「…………黒川でなくて悪かったな」

成一郎の顔が意地悪そうに笑った。

「…………兄上…………この様な場所に……何用ですか………」

兄に犯された記憶が蘇る。

「……そう警戒するなよ。お前と話をしに来た。…………お前にも悪くは無い話だと思うが……?」

「……………話……?」

成一郎は幸成の前にあぐらをかくと、灯りを二人の顔が見えるよう隣に置いた。

「大口真神の話を聞きたい」

「山神の話を……!?」

「そうだ。お前も解っているだろうが……お前の話に父上は耳を貸す気は無い」

「───それは…………」

思わず言葉を濁し俯いた。
言われなくても解っていた事だが、話も聞いてもらえないなら、手の打ちようがない。

「しかし、俺が伝えるとなれば、また別の話だ」

「兄上が───」

幸成は耳を疑った。
まさか兄が、成一郎が自分の為に動こうとしてくれるなどと、思いもしていなかった。
恐らく裏があるのだと解る。
しかし父に刃向かってまで……

───何を……考えている……!?……

「そう恐い顔をするなよ」

幸成の胸の内など、見透かしているかのように成一郎は鼻で笑った。

「俺も父上が何故あそこまで“神殺し”に固執しているのか知りたいだけだ。……まぁ……勿論……それだけでは無いがな」

意味深に言った言葉に、幸成の喉がまた音を立てた。
しかしそれにも嘲るように笑うと、美しく散らされた紅い痣が見え隠れする胸元を掴み、誠一郎は思い切り幸成を引き寄せた。

「俺のものになれ幸成。そうすれば俺がお前の願いを叶えてやる」

耳元で囁かれた言葉に幸成は息を呑んだ。



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