神殺しの花嫁

海花

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「幸成は昔から従順でね……ここに来て……少し迷いがあったようだが、思い出したのだろう?……誰に従うべきか……」

「………従う……だと…」

成一郎の言葉に琥珀の顔色が明らかに変わった。

ここに来るまで幸成がどの様に生きてきたか解る。
共に育った実の弟に“従う”と言ったこの男が、幸成に何をしてきたか……。
初めて幸成を連れてきた夜、身体からした他の男の匂いに、自分の元に来る前に“愛しい男に抱かれてきたのだろう“と思っていた。
しかしそうでは無かった。
恐らく幸成を“従わせ”犯したのだ。
実の弟を無理矢理……。

「……ふざけるな………」

「ふざけているのは貴様であろう?──現に幸成を見てみろ!?“愛しい”と契ったお前ではなく俺の傍にいるのは何故だ?」

琥珀の瞳が幸成を見つめた。
それでも幸成の感情の無い顔が、虚ろな瞳が、琥珀に向けられることは無かった。
琥珀がそこにいる事すら気付いていない様に、ただ空を見つめている。

「幸成が選んだことなら……それで構わねぇ……。お前の傍にいたいと幸成が選んだのなら、それでこいつが笑ってられるんなら……オレは………それでいい……」

優しい眼差しが悲しみの色を帯び、それでも幸成を見つめた。

「けど違うだろ……。──手前ぇがそうするように従わせてるだけだろ」

幸成と過ごしたのはほんの短い時間だ。
もし仮に……今後この瞳が自分を映すことが無かったとしても、それでも幸成に笑っていて欲しい。
傍にいるのが自分では無かったとしても……しかしそれでも、幸成が見せてくれた笑顔を愛おしいと思える。

「だったらなんだ?」

成一郎の静かな声が短い沈黙を破った。

「欲しいものは、どんな手段を使っても手に入れる……。当たり前のことだろう?」

「……そんなもんに……何の意味もねぇ」

「それは俺が決める」

「……こんな風に………人形みてぇに笑いもしない幸成を…………ただ傍に置いておくつもりか……」

「……何を言っている………?笑わせたいのなら“笑え”と命じればいい。元より……笑っていようが人形の様であろうが……幸成は幸成であろう…?」

嫉妬とも虚勢とも違う、どこか呆れたように言った言葉が、声が、心からそう思っているのだと解る。

「…………幸成の気持ちはどうなる……?」

「気持ちなど……何になる?……貴様と契ったと言って、それがいつまで変わらずにいる?……明日には他の者に移るかもしれない気持ちに一体なんの価値があると言うのだ?」

溜息を吐いた苦笑いが、理解し難いと言っている。
心など、なんの意味も持たないと。

「………手前ぇと話してても埒が明かねぇ」

琥珀の身体が極僅かに動き、真紅の瞳が成一郎だけを見据えた。






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