神殺しの花嫁

海花

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拝啓      蒼玉より

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お元気ですか?蒼玉です。
今日は、その後のみんなの様子を伝えようと思い筆を取りました。
幸成のお腹の中に“はる”がいると分かってから今までの───
あ、“陽”って琥珀と幸成の子供なんですけど……
あの日……幸成のお腹の中に陽がいるって分かった日は正直大変でした。
泣きそうになった翡翠に紫黒さまは笑い転げるし……
それを瑠璃はすごい勢いで怒るし……
そんなこと気にせず琥珀は幸成に鼻の下を伸ばしてるし……
そして何故か翡翠は、しばらくとても落ち込んでました。
実は数日布団の中で泣く翡翠を、俺が慰めたほどです。

瑠璃の話では、お腹の中にいる時から、陽は琥珀に似た“気”……だったようで、恐らく三ヶ月程で産まれるだろう……って話だったらしいんですけど、なかなか産まれず、結局人の子と同じくらい幸成のお腹にいました。
その間も、琥珀と翡翠の幸成甘やかし合戦が行われ、その凄まじさと言ったら……蛍のヒンシュクを買い、幸成本人をも激怒させる程でした。
二人並んで怒られている姿は、今思い出しても笑えます。
だけど問題はそれだけではなく、多分、琥珀は陽が産まれるまでにそうとう痩せました。
痩せたってよりやつれたって言うか……
ご飯も食べてたし、俺には理由は分からないけど、翡翠は「やれねぇからだろ」って言ってました。
何がやれないからなのか気になったけど、そう言って笑った翡翠が、何故かちょっと怖かったので聞けませんでした。

あ……与太話はこの辺にして
とにかく陽は無事産まれ、半年たった今もとても元気です。
翡翠は琥珀と喧嘩しながらも、陽の面倒をみるのが楽しいようで毎日おぶって歩いてます。
蛍は少し前から毎日のように黒曜の家に行き、昨日とうとう月夜が怒鳴り込んできました。

あ!そうそう、陽の少し後に紫黒さまと瑠璃にもまた赤ちゃんが産まれたんですよ。
玻璃はお兄ちゃんぶって、二人の面倒をみるのが今のお気に入りのようです。

そして俺は、今日翡翠と二人で陽を祭りに連れていきます。
陽を初めて人間に合わせるので少し緊張してるけど、琥珀が蒼玉と翡翠なら大丈夫だって言ってくれたから頑張ります!
俺もお兄ちゃんなので!

では、いつかまた手紙を書きます。
その時までお元気で。
                                             敬具




「蒼玉っ!」

突然襖が開けられ、蒼玉は慌てて手紙を折りたたむと文机の引き出しにしまった。
書いた内容を翡翠に見られでもしたら怒らせることを解っていたからだ。

「何やってんだよ……そろそろ行くぞ!」

「あ───うん。琥珀に小遣い貰った?」

翡翠は両手で抱いた陽を「よいしょ」と片手だけで支えると

「当たり前!陽は初めての祭りだもんな!色々買いたいよなぁ!」

そう言って胸元を叩き「キャッキャッ」と笑う陽の頬に優しく唇を当てた。

「今日は旅芸人も来るって言うし、早く行こうぜ」

「あれ?……蛍は?」

「黒曜んとこだろ?……あいつは懲りねぇからなぁ」

翡翠は少し大人ぶって溜息を吐くと

「ほら!行くぞッ!」

蒼玉に空いている方の手を差し伸べた。

「──うんッ!」



「飴、買うでしょ?」

「もちろん!」

「陽……食べられるかな……?」

「少し舐めさせるくらい平気だろ?」

閉じられた襖の向こうから楽しげな声が聞こえる。

「そう言えばお前……誰に手紙書いてたの?」

「え?…………内緒」

その声は少しづつ遠ざかり、やがて消えていった。
まだまだ続く行く道みらいには笑いも涙も沢山あって……。
もちろんこの二人にも物語は続いて行く訳で。

それはまたいつか別のお話で……。







これで本当に終わりになります。
長い間、最後までお付き合い頂きありがとうございました。
また違うお話でお会いできたら光栄です。










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