思い出を探して

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記憶を失うまで

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「な、これどう?」
効果音をつけるなら「ジャーン、パフパフ」といった感じだろうか。少し古くさいキメポーズに怜は笑ってしまう。
「良いじゃん!白のタキシード、様になってる」
結婚式のドレスとスーツを決めに来ていた。
「モーニングも良かったけど、どっちがいい?」
これで何着目か数えることをやめてしまった。
「今着てる方かな。ほら、私のドレスも白だから統一感出るでしょ」
「怜さんが、そう言うんやったら間違いないな」
賢太郎はニコッと満面の笑み。

結婚式の準備は着々と進んでいた。
「今日の試着良かったな」
「うん!いよいよって感じだね」
「そうやな」
信号のついた横断歩道。ビルに囲まれた都会の真ん中。
信号はやがて、青になり、わらわらと歩行者は動き出す。
怜は賢太郎と結婚式への夢を膨らませて、楽しそうに笑っていた。

バン! 

怜に向かって車が突っ込んだ。その衝撃で車は止まって、怜は数メートルは吹き飛ばされた。
銃声かと思わせるような、重い音がビル軍に響く。白い車のボンネットには赤い血が付着した。
賢太郎は慌てて怜に駆け寄る。
「怜さん!怜さん!」
歩行者信号は赤に変わって、車の信号は青になるが騒然とした事故現場が広がった前で誰も動けない。
「返事してや!」
ダメだ。サーッと血の気が引いていく感じがした。いや、僕は消防士やろ。冷静に状況を判断して、助けを求めたら良いねん。
脈拍を確認して、息があることに一安心。
通報をして、救急車が到着するまで懸命に声かけをする。
「俺らも手伝います。何したらいいスッか?」
怜さんはスカートだ。でも、使えそうな上着もない。
「何か、バスタオルみたいの持ってませんか」
「この上着で良かったら」
助けに来てくれた、いかにも部活終わりの大学生三人組の一人が上着を貸してくれる。それを怜さんの足元に広げ、盗撮防止。それから、回復体位をとって、テキパキと指示をしながら待つ。
「車の中の方はどうなっていますか?」
「エアバックに顔面押し当ててます」
それでは気道を確保されていないかも。
「呼吸は?」
「弱ってる感じがします」
頼むから、二人とも死なないで。
焼け石のように熱くなったアスファルト

救急車に同伴で乗り込む。
「こちら、明神怜さん、28歳、女性 
持病なし。血液型はO」
「怪我の状態は分かりますか?」
「心拍ともにあります。ですが、出血があり、意識もはっきりしていません。車にはねられた衝撃でおよそ3から4メートルはとばされました。どうか、助けてください」
「はい、最善を尽くします」


 怜は病院に運び込まれ緊急手術で一命を取り留めた。運転手は、運転中に突然意識を失っていたことが判明。

「右腕の骨折が一番大きな怪我ですね」
レントゲンを見せられると、ぱっくりと骨が割れていた。
「交通事故の場合、すぐには症状がでない怪我もあります、なのでしばらくは入院になりますね」
「入院ですか、治るのはいつくらいでしょうか?」
「う~ん、一概には言えませんが腕の方は2ヶ月と言ったところですかね。手術で腕にボルトのようなものをはめて、固定をしています」
「そう、ですか」
結婚式には間に合う。良かった。


翌日、怜は意識を取り戻した。
「怜さん、昨日はほんまにゴメン!もっと、はよ気づいてたら」
「え?あの、すみません、誰ですか?」
「え…?」
目の前が真っ白になった。怜が、そんな冗談を言うような人ではないからだ。
「もう、やめてや、賢太郎やろ」
「すみません、分かりません」
「冗談きついで、婚約者やん」
「…何を言っているんですか?人違いではないですか?」
怜はまったく視線を賢太郎に向けてはくれなかった。
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