思い出を探して

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提案

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次の週、怜とカフェであっていた時の事だ。
怜がコーヒーに手を伸ばす。なんとなくそれにあわせるように、賢太郎もコーヒーを飲む。
「お父さんから、とある提案をされたのですが」
コトンとコーヒーカップを置く。
「提案?」
「はい。その、あの何と言いますかお父さんが言い出したことなんで、、えっと、同棲とかしてみませんか?」
怜は緊張した様子。賢太郎は一瞬フリーズ。
「僕は、構わんけど。 怜さんはどうなん?」
不安げな怜に問いかける。
「あたしは、何か貴方のことを思い出すきっかけになると思って、同棲には賛成です。ですが、不安です。あたしの中の貴方は、週に一回会う人という感じなんです。それ以上に特別な感情を抱いたりしているわけではなくて、その、同棲生活が成立するのか。」
いざ、面と向かって言われるとグサッとくる。
「そうやんな。こんな事、今言うんは変かもしれへんけど、僕は怜さんを心から尊敬し愛してる。だから、僕は、怜さんを全力で支えるつもりやし、怜さんに危険な目はもう遭わせへん。もう一回、僕を好きになってくれませんか?恋愛感情として。人として。」
怜は、賢太郎を見つめる。沈黙。賢太郎は無意識に自分が結構ヤバめのことをいったことに気づいて、顔を赤らめる。
「好きになれるか、わかりません。でも、あたしのことをそんな風に思ってくれる賢太郎さんとなら同棲もちょっと安心です。」
怜は、そう言うと目を細めてちょっと笑った。ずっと見ていなかったあの笑顔だ。賢太郎の気持ちは一気に華やぐ。
「今日、このあと時間ある?この辺りに出来た図書館、行ってみぃひん?」
「良いですね。あたしも行ってみたいと思ってたんですけど、なかなか機会がなくて。」
「昔、僕が大学にはいる前、怜さんが色んな本を教えてくれて、そっからすっかり本が好きになってん。大学に行けたんも、怜さんのおかげや。」
「大学はどこ出身何ですか?」
「海洋大学やで、海の生物とかそんなんが好きやったから」
「国立の。」
「うん。」
怜は、瞬きを二回する。
「あたしも、海洋生物、好きです。来週、水族館に行ってみませんか?」
「はい!行きたいです」
賢太郎は満面の笑みで答える。怜からどこに行くとかそういう話を聞くのは久しぶりで、心が踊る。
カフェを出ると、他愛もない会話をしながら図書館に向かう。仕事かどうとか、天気がどうとか、なんの海洋生物が好きだとか、それくらいどうでも良い会話だった。しかし、賢太郎にとってはそれがすごく嬉しかった。
図書館に着くと、小説コーナーを通り抜け、ドキュメントのコーナーを通り抜け、一番置くのはし、図鑑コーナーにたどり着いた。
「怜さん、何か読みたい本とかあった?」
「江戸時代が題材の本と、脳科学の本を借りたいです。何か、思い出す手掛かりになるかもしれないので。賢太郎さんは?」
「レシピ本を借りようかな」
「料理、するんですね」
「すんで。豆腐使った料理とか」
「そうなんですか」
ヒソヒソ声で会話すると自然と距離が近づく。
「す、すみません、ちょっと近づいてしまって」
怜は賢太郎に一歩近づいていたことに気がついて顔を赤らめる。
「いえ」
「本、借りに行こっか」
「はい」
二人は、それぞれカウンターに本を持っていく。
「大変申し訳ないのですが、ここの区の人のみ貸し出しの対象としていまして」
二人とも本を借りることは出来なかった。

「すみません、調べ不足で」
賢太郎は図書館から出てきて開口一番謝った。
「楽しかったです」
「それなら良かったんやけど」
「もう暗くなってきましたね」
「駅までおくんで」
この次に怜は「いいえ、大丈夫です」と一言、そして立ち去る。それがいつもの流れである。だが、今日はちょっと違った。怜は、3秒ほど停止する。そして、グッと拳を握る。
「ありがとうございます。その、、、駅まで一緒に行きたいです」
賢太郎はその言葉の意味を即座には理解できなかった。
「じゃ、行こっか」
怜はコクりと頷いた。駅まで数分の道のり。これがずっと続けば良いのに。そんなことを賢太郎は思う。
「あの、同棲の話。私は、前向きに検討していきたいと思っています。もし、賢太郎さんが良かったら、話も詰めたいです。なので、もう少し会う頻度を増やしませんか?私は父の事務所で働いていて多少時間は融通が効きます」
「僕は、消防士やし結構、変則的で、でも、同棲については前向きに考えたいし、いつ会えるかあとでカレンダー送るわ」
「ありがとうございます。こんな、自分勝手な要望聞いてくださって」
「はは、そんな改まったりせんくていいのに」
「そう?」
怜はどこか照れくさそうに賢太郎を見る。
「そんな感じ!」
「あの、今日はありがとうござ、、ありがとう」
「うん、またね」
駅についてしまった。怜に手を振って別れる。怜は何度も賢太郎に頭を下げる。賢太郎も怜の姿が見えなくなるまで手を振った。












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