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仮面舞踏会での出会い
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リリカが追ったその女性が、会場の庭に設置されていたベンチに座っている様子が見えた。会場内では暗くてよく分からなかったが、綺麗な茶髪の女性だ。
「初めまして」
リリカは声を掛けた。
「えっ!! はっ、はい。初めまして……では私はこれで」
そう言って慌てて去ろうとする。
「待って!! 貴方、私と少し話さない?」
「?はい」
疑問に思いながらもリリカの話しに付き合ってくれるようだ。リリカたちはベンチに座った。
「貴方はどうしてこのパーティーに?」
「……婚約者を探すためです。でも私はこのドレスしか用意出来なくて、皆さんに笑われて逃げ出してしまったんです」
さぞ悲しかったのだろう。仮面を着けていても分かるぐらいに、明らかに落ち込んでいる様子だ。
「そのドレス随分昔の物のようだけど」
「はい。母の形見なんです」
「お母様の……。それを馬鹿にするなんて、許せないわね。懲らしめてさしあげたいわ!!」
その言葉を聞いて彼女はしばらく呆然としていた。
「へ、変なこと言ったかしら?」
「あっ、いえ。そんなことを言ってくださる方は初めてで。ふふふっ、ありがとうございます」
「……少しは元気になって良かったわ。でもどうして仮面舞踏会だったの? 他にも色々パーティーはあるでしょうに」
「こんなドレスを着ている娘がいるなんて知られたら恥ずかしいからと仮面舞踏会に参加するように義母に言われたんです。家を義妹に継がせたいみたいで、絶対に婚約者を捕まえて、弟を連れて早く家を出なさいと」
「なるほどね……」
チラッと女性を見ると手が荒れていることに気がついた。
「あの、その手はどうしたの?」
「あっ……すみません。洗濯のときに荒れてしまったのかもしれません。汚いですよね……」
「そんなことないわ!! それだけ頑張っているってことじゃない。って、どうして洗濯を貴方が!?」
「それが私の仕事だからですよ」
彼女はさも当たり前のことかのように言う。
「仕事? どこかの家の侍女でもしているの?」
「いえ。私の家での仕事なんです」
もしかして、この子……家で侍女のような扱いを受けているんじゃ。本当はあと何回か話しをして決める予定だったけれど、そうは言っていられないわね。
「貴方、お兄様の婚約者にならない?」
「ええっ!?」
「貴方はそんな家を一刻も早く出るべきだわ」
彼女の家での生活に憤りを感じて言う。
「で、ですが……私でよろしいのですか?」
「ええ。貴方が良いのよ。私としてもお兄様にはすぐにでも婚約してもらわないと困るのよ」
「ですが、お兄様はお嫌なのでは?」
不安そうに彼女は尋ねる。
「お兄様なら大丈夫よ。私の言葉なら聞いてくださるから。だから信じて待っててくれないかしら?」
「……はい、ありがとうございます。私で良ければよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。帰ったら『婚約が決まったから家を出て行く』とだけ伝えればこれ以上酷い扱いはされないはずよ。必ず迎えに行くから待っていてね」
「はい。本当にありがとうございます」
「あっ!! そういえば家門も名前もまだ聞いていなかったわね。聞いてもいいかしら」
本来なら仮面舞踏会では名を名乗ることは禁止されている。無論、婚約を決めた男女なら話しは別だが。今回、リリカは兄ウィリアムの代理ということで名を聞いたのだ。
「もちろんです。私はフィアーズ伯爵家長女スカーレット・フィアーズと申します」
「フィアーズ伯爵家、聞いたことあるわね。でも長女?」
確かフィアーズ伯爵家の長女はアイラとかいう名前だったはず。スカーレットさんは次女で現伯爵夫人の娘だと記憶しているわ。でも、そうだとしたら話しが合わないのよね。
「はい。私が長女ですが」
「妹さんのお名前は?」
「アイラです」
「……えっと、一つ確認したいのだけど、そのアイラさんは伯爵家の血を引いているの?」
「いえ、アイラは義母の連れ子ですので血を引いておりません」
この国ではその家の血を引いていない者が当主になることは出来ない。後継者が誰もいない等の場合でも国王陛下の許可が必要だ。
もし、スカーレットさんの話しが本当なら大変なことだわ。調べてみる必要があるわね。
「話してくださってありがとう。今日はお会い出来て良かったわ。あっ、そういえばまだ名乗っていなかったわね。私はリリカ・エバルディよ」
「えっ……ええっ!? 公爵令嬢様!?」
彼女は驚きに目を見開く。
「そうよ」
「あっ、あの、お兄様っていうのはまさか……」
「ええ。公爵家当主ウィリアムお兄様のことよ」
「私が公爵様と婚約なんて畏れ多すぎます!!」
「貴方なら大丈夫よ。それに言ったでしょ。お兄様には早く婚約してほしいって。利害は一致しているわ」
「ううっ。そ、そういうことでしたら……」
「じゃあ出来るだけ早く迎えに行くから待っていてちょうだい」
「はい。お待ちしております」
リリカはパーティー会場を後にした。
「初めまして」
リリカは声を掛けた。
「えっ!! はっ、はい。初めまして……では私はこれで」
そう言って慌てて去ろうとする。
「待って!! 貴方、私と少し話さない?」
「?はい」
疑問に思いながらもリリカの話しに付き合ってくれるようだ。リリカたちはベンチに座った。
「貴方はどうしてこのパーティーに?」
「……婚約者を探すためです。でも私はこのドレスしか用意出来なくて、皆さんに笑われて逃げ出してしまったんです」
さぞ悲しかったのだろう。仮面を着けていても分かるぐらいに、明らかに落ち込んでいる様子だ。
「そのドレス随分昔の物のようだけど」
「はい。母の形見なんです」
「お母様の……。それを馬鹿にするなんて、許せないわね。懲らしめてさしあげたいわ!!」
その言葉を聞いて彼女はしばらく呆然としていた。
「へ、変なこと言ったかしら?」
「あっ、いえ。そんなことを言ってくださる方は初めてで。ふふふっ、ありがとうございます」
「……少しは元気になって良かったわ。でもどうして仮面舞踏会だったの? 他にも色々パーティーはあるでしょうに」
「こんなドレスを着ている娘がいるなんて知られたら恥ずかしいからと仮面舞踏会に参加するように義母に言われたんです。家を義妹に継がせたいみたいで、絶対に婚約者を捕まえて、弟を連れて早く家を出なさいと」
「なるほどね……」
チラッと女性を見ると手が荒れていることに気がついた。
「あの、その手はどうしたの?」
「あっ……すみません。洗濯のときに荒れてしまったのかもしれません。汚いですよね……」
「そんなことないわ!! それだけ頑張っているってことじゃない。って、どうして洗濯を貴方が!?」
「それが私の仕事だからですよ」
彼女はさも当たり前のことかのように言う。
「仕事? どこかの家の侍女でもしているの?」
「いえ。私の家での仕事なんです」
もしかして、この子……家で侍女のような扱いを受けているんじゃ。本当はあと何回か話しをして決める予定だったけれど、そうは言っていられないわね。
「貴方、お兄様の婚約者にならない?」
「ええっ!?」
「貴方はそんな家を一刻も早く出るべきだわ」
彼女の家での生活に憤りを感じて言う。
「で、ですが……私でよろしいのですか?」
「ええ。貴方が良いのよ。私としてもお兄様にはすぐにでも婚約してもらわないと困るのよ」
「ですが、お兄様はお嫌なのでは?」
不安そうに彼女は尋ねる。
「お兄様なら大丈夫よ。私の言葉なら聞いてくださるから。だから信じて待っててくれないかしら?」
「……はい、ありがとうございます。私で良ければよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。帰ったら『婚約が決まったから家を出て行く』とだけ伝えればこれ以上酷い扱いはされないはずよ。必ず迎えに行くから待っていてね」
「はい。本当にありがとうございます」
「あっ!! そういえば家門も名前もまだ聞いていなかったわね。聞いてもいいかしら」
本来なら仮面舞踏会では名を名乗ることは禁止されている。無論、婚約を決めた男女なら話しは別だが。今回、リリカは兄ウィリアムの代理ということで名を聞いたのだ。
「もちろんです。私はフィアーズ伯爵家長女スカーレット・フィアーズと申します」
「フィアーズ伯爵家、聞いたことあるわね。でも長女?」
確かフィアーズ伯爵家の長女はアイラとかいう名前だったはず。スカーレットさんは次女で現伯爵夫人の娘だと記憶しているわ。でも、そうだとしたら話しが合わないのよね。
「はい。私が長女ですが」
「妹さんのお名前は?」
「アイラです」
「……えっと、一つ確認したいのだけど、そのアイラさんは伯爵家の血を引いているの?」
「いえ、アイラは義母の連れ子ですので血を引いておりません」
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もし、スカーレットさんの話しが本当なら大変なことだわ。調べてみる必要があるわね。
「話してくださってありがとう。今日はお会い出来て良かったわ。あっ、そういえばまだ名乗っていなかったわね。私はリリカ・エバルディよ」
「えっ……ええっ!? 公爵令嬢様!?」
彼女は驚きに目を見開く。
「そうよ」
「あっ、あの、お兄様っていうのはまさか……」
「ええ。公爵家当主ウィリアムお兄様のことよ」
「私が公爵様と婚約なんて畏れ多すぎます!!」
「貴方なら大丈夫よ。それに言ったでしょ。お兄様には早く婚約してほしいって。利害は一致しているわ」
「ううっ。そ、そういうことでしたら……」
「じゃあ出来るだけ早く迎えに行くから待っていてちょうだい」
「はい。お待ちしております」
リリカはパーティー会場を後にした。
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