テイルウィンド

双子烏丸

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第三章 新たな強敵(ライバル)達 

ジョン・コバルト

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 突然聞こえた、誰かの声。
 フウマとミオは、後ろを振り向いた。
「やぁ。初めまして、フウマ・オイカゼ。どうやら君も、観戦しているクチらしいね。僕たちと同じみたいだ」 
 そこにいたのは、二人の少年少女だった。



 フウマより一つ年上に見える少年はややキザな二枚目、それでいて人の好さそうな青髪の少年で、その蒼い瞳は、悪戯っぽく輝いていた。。また、服装や外見こそ年相応だが、内面的には、心なしか実年齢以上に成熟しているように感じた。
 そして少女の方は、少年とは逆に十六、七才くらいと幾らか年下で、かなり内気らしく、少年の後ろでもじもじしている。長い金髪は両側に結び、目に掛かりそうな右前髪には銀色のメッシュが施されていて、後ろにかき上げた左前髪には、星型のヘアピンを付けている。
 服装はノースリーブの上着、ミニスカートのツーピースで、内気な性格と相まり幼さを感じる。



 ――何だよもう、またタイミングが悪いときに――
「……それで、僕に何の用?」
 フウマは、先ほどの会話に横やりが入った事に、やや不機嫌だった。
「ああ、せっかく二人でいる時に、悪い事をした。僕はジョン……ジョン・コバルト。そして彼女はフィナ、どうやら、一緒にいた姉妹とはぐれたみたいで、さっきまで探していたんだ。……まぁ、レースがすぐ始まるみたいだし、その後でも彼女は構わないって、言っていたからな。だからこうして今は、レース観戦を優先している訳。
 そして――僕たちは、二人ともG3レースの出場者さ」
 この少年、ジョンはそう自己紹介をした。
「フィ、フィナです。……よろしく」
 ジョンの傍らのフィナも、おずおずと挨拶をする。
「うん、こちらこそよろしく。知っていると思うけど、僕はフウマ・オイカゼ、同じくレーサーさ。
 でも……他にレーサーが観戦に来ているなんてね。てっきり参加者は全員、親善試合に出場しているかと思ったよ」
「全員が全員、出場している訳じゃない。大体、親善試合に出る事は、自分の手の内を晒すこと……。ここで出場するのは、それすら分からない間抜けか、自分を過信した自惚れ屋か……、そして、本物の実力に裏付けされた、強い自信を持つ、超一流のレーサーさ」
 そして、自ら恥ずかしがるように、頭を掻く。
「フィナはともかく、恥ずかしながら僕は全くの無名の、三流レーサーだからね。出場権を手にしたのは、奇跡に近い偶然のおかげさ。だから、今は観戦に専念して、少しでも相手を知りたい。そう、考えている」
 ジョンは、フウマに尋ねる。
「それで……試合が始まる前に、空いている所を探していたんだ。それで、君たちの隣の空いている席……座っていいかな?」
 フウマ達の隣の席は、ちょうど三席ほど空いている。
「ああ。そう言うことなら、大丈夫だよ」
「ありがとう、礼を言うよ」
 ジョンとフィナは、フウマ達の隣へと座る。



「それでは、改めてよろしくフウマ。それと……」
 そう言いながら、ジョンはフウマと一緒にいるミオを見た。
「私はミオ・アランシア。フウマの幼馴染で、メカニックをしています」
 ミオは、そう自己紹介した。さらにフウマも、こう付け加える。
「僕のテイルウィンドの整備も、ミオがやってくれているんだ。本当にミオは、僕にとって最高の……」
 幼馴染だよ――、フウマはそう言おうとした。しかし……
「最高の恋人って訳か。ふふっ……とても羨ましいよ」
「なっ!」
 ジョンが余計な口を挟んだせいで、フウマは思いっきり動揺した。
 見ればフィナも、そう考えたのか、他人事ながら赤面している。
 フウマは大慌てで否定しようとする。
「いや、違う違う! そんな関係かどうか、まだ僕には分からないし!」
「あれ? もしかして違ったかな? てっきり、そんな感じだと思ったけど」
「当然さ。大体、僕たちは恋人同士と呼べるような関係なんて……、関係、なんて…………」
 そう言いながら、ふとミオの姿が目に入った。
「……うん、そうなんだ……」
 見ると彼女は、何かに傷ついたように、深く落ち込んでいた。



「……」
 ――もしかして、あんなに強く否定したのが、まずかったかな――
 フウマは一瞬、どうすれば良いか考え、こう言い直した。
「関係……なのかもしれないな。……うん! よく考えてみたら、そう言えない事もないような……」
 多少、いや……結構無理がある誤魔化しだった。
 しかし、それでも……。
「プッ! クスクス……、言っている事が分からないわ、フウマってば」
 さっきまで落ち込んでいたミオは、何やら可笑しそうに、くすくすと笑っている。
 上手く行ったかどうか分からないけど、彼女の機嫌は幾らか治ったらしい。フウマは少し安心した。
「……本当に二人とも、仲が良いのですね。……素敵です」
 そんな様子に、フィナは呟いた。
 女の子同士、気が合いそうと思いミオも、フィナに笑いかけて返事をする。
「ふふっ、そう言ってくれると、私も嬉しいかな」



 そしてミオは彼女に一つたずねた。
「でも……ちょっと信じられないかも。フウマよりも若い、女の子のレーサーがいるなんてね」
 フィナは、えっ? と言うような、きょとんとした表情を見せる。
「あれ? フウマさんって、私より年下なの? 私は十六だけど……てっきり、十三才くらいだと思っていました」
「……もう! 僕は十八だよ! 君より二才年上の、十八才なんだからね!」
 フウマは頬を膨らませて、それこそ子供のような怒り方をしている。
「あっ、ごめんなさいフウマさん。……ぷぷっ、ごめんなさい、でも…………そうして怒っていても、何だか可愛く見えて……。……ぷぷぷぷっ」
 これには気の弱いフィナですら、怖がるどころか、可笑しそうにして笑っている。
「ふ、ふん! 大人げないから、これ以上怒るのは勘弁してあげるよ」
 そう言っている割には、まだむくれているフウマであった。
「……おっと! そんな事より、ようやく始まるみたいだ」
 ジョンの言葉とともに、会場の照明は、次第に暗くなっていった。
 本番であるG3レース、その前哨戦の幕が今、上がろうとしている。
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