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第四章 前哨戦
選手紹介(4)
しおりを挟むシロノ・ルーナの解説も終わり、残るのはあと一人。
このレースで、最も注目するべき最後のレーサ。フウマ達も、観客の多くも、そのレーサーが誰であるか、すでに知っていた。
するとレイは今までと打って変わり、重々しい口調へと変わる。
〈残すは、最後の一人。さて皆さん……ご存知でしょうか? かつて数十年前、宇宙レースで現役において全くの不敗、出場するレース全てを自身の優勝で飾った、常勝の伝説を持つレーサーがいた事を〉
そこで彼女は拳をぐっと掲げ、一気に叫びを上げる。
〈そして今! 輝かしい伝説がここに帰って来たのです! そう! 彼こそが、宇宙レースの生ける伝説! ジンジャーブレッド!〉
この声とともに、映像にジンジャーブレッドと、彼の乗る機体が、共に映される。
「あれが……ジンジャーブレッドか」
フウマは、その姿を見ながら呟く。
かつて現役だった頃と比べれば、年を取り初老と呼べる年だが、その精悍さと気迫には、何の劣りもない。
〈『どんなに早く走っても、誰も僕には追い付けない』……、名前の元となったジンジャーブレッドマンの童話と同じく、彼が現役の時には、圧倒的な力量で、他のレーサーの勝利を許さなかった〉
〈そう言えば、リオンドさんは、年齢的にはジンジャーブレッドとほぼ同期でしたね。もしかして、ジンジャーブレッドとも、レースで競い合った事があるの?〉
レイはリオンドに質問する。
〈ああ、何度かな。全く……当時のジンジャーブレッドは、他の一流と呼ばれたプロレーサーとも、次元が違っていた。私も当時はプロレーサーとして、一躍有名になるほどの実力を持っていた。しかし、それでも彼が相手では……まるで勝負にすらならなかった。常に相手よりも遥かに先を行き、他の追随を決して許さなかった男、それがジンジャーブレッドだ〉
〈さすがは、伝説のレーサーと言うべきね。そして、彼の機体についてだけど……〉
かつて現役の頃、ジンジャーブレッドが乗った機体は、自身のジンジャーブレッドという名前とともにユーモラスを交え、『クッキー』と名づけ全体を小麦色に塗装した、単純なひし形状の機体だった。
しかし、今彼とともに映像に映っている機体は、そんな過去のユーモアは一切消え、形状も変わり果てていた。
〈……何て言うか、結構、禍々しいわね〉
かつては名前通りクッキーに見せるために、小麦色に染められていた色は宇宙の闇より深い漆黒の黒に染められ、動力装置か何かの内部機関のせいか、機体び所々が赤く発行を繰り返している。そして単純なひし形の形状だったものも、前後が歪に鋭く尖り、左右は蝙蝠の羽のように膨らみ、広がっている。
だが、さらに以前の機体と変質したのは、ただでさえ機体の形状が変化しているのみならず、それと同じ形状のものがもう一つ、機体中央を軸にして二重に重なり合い、ただひたすらに禍々しい、双四角錐のような姿を形作っている。
〈全くだ、本当にあれが、かつてのジンジャーブレッドの愛機、『クッキー』なのか?〉
〈私も信じられないけど……、確かにあの機体は『クッキー』を元に、彼のスポンサーとなったゲルベルト重工が、大幅な改修を施した機体らしいわね。けど名前は変わっていて、こっちで登録されている名前は『ブラッククラッカー』になっているわ〉
〈ふぅむ、かつてはスポンサーを持たなかったジンジャーブレッドがスポンサーを持ち、愛機すらも、原形すら残らないほどに変わり果てた、一体彼に、どんな変化があったのだ?〉
〈さぁ……分からないわ。今分かっているのは、彼とその機体が、かつてと比べても実力が未知数と言うことだけよ〉
かつて伝説を打ち立てたレーサー、ジンジャーブレッド。
謎と秘密に隠されたその正体、それこの親善試合で明らかとなるのか?
とにかく今は、出場者の紹介は、ここで終わる。
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