テイルウィンド

双子烏丸

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第四章 前哨戦

カウント、スタート!

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 選手紹介は終わり、映像は元の、レイとリオンドの二人が映る映像へと戻った。
〈これで選手の紹介は、全て終わりよ。どうかしら? 一体彼らがどんなレースを見せるのか、ワクワクしないかしら?
 そして今、選手達はスタートラインへと、たどり着いたわ!〉
 それとともに、実況映像の他にもう一つ、大きく別の映像が映し出される。
 スタートラインとなる一本の白いレーザー光線の前に、何十機ものレース機体が宇宙に並び、中央には三つの大きいランプが取り付けられた、楕円形の機械が浮かぶ。
 銀河中から集まったという事もあり、様々な種類の機体が、ここに集結している。
 スポンサーとなった企業が手掛けたものもあれば、レーサーとその仲間が市販の機体からチューンしたもの、そしてレース機として一から設計したものから、本当に色々だ。
〈なかなか、これ程の光景はお目に掛らないだろうな。普通のレース大会では二、三十機ほどだが、今集まっている機体の数は、百機に届きそうじゃないか〉
〈あら? リオンドさん、お忘れじゃなくて? このレースはまだ、G3レースの親善試合、言わば本番の前試合よ。G3レースではその出場者は、もっと増えるはずよ。
 けど、その話はまた後で。今はもうすぐ、親善試合が始まるわ!
 さぁ! 用意はいい? レーサー達は既に準備万端、みんなスタートの合図を今かと待っているわ!〉
 映像に映っている機体は、後部の推進機関を稼働させて、僅かな輝きを見せる。
〈それでは、カウントダウンを始めましょう。スリー……!〉
 掛け声とともに、レース機の前に浮かぶ、機械のランプが一つ、赤く輝く。
〈ツー!〉
 ランプが更に一つ輝き、機体の推進機関の輝きも増す。
〈ワン……!〉 
 ついに、最後のランプが輝く。
 そして――!
 

 正面ディスプレイに映る三つの赤いランプは、一気に緑へと変わった。
 それと同時に、シロノのホワイトムーンは、他の機体とともに、スタートラインを切った。
 エネルギー量の制限は、このレースにも存在する。そもそもレースで使うのは、レース機とは言え、惑星間、恒星間を渡る小型宇宙船だ。
 宇宙船に使用されるエネルギーにしろ、仮に満タンでレースをしたとしても、あまりにも余分すぎる。
 ただ、機体の構造によってエネルギーの使用手段とその効率は大きく異なる。
 機体によってはリッキーのシュトラーダのように、エネルギーを短時間で多量に消費することによる出力特価型にもなれば、ホワイトムーンのように高性能な機体なら、軽量化と動力システムの効率・高度化により、エネルギーの無駄を最小限に抑え、なおかつ少量で高出力のスピードを出すことが出来る。
 しかしエネルギーは限られ、有限だ。特にレースにおけるエネルギー制限は、下手に消費するとゴールにすらたどり着けないほどの、ある程度のシビアさがある。
 まぁ、シロノくらいのレーサーにもなれば、燃料切れでリタイヤする事はもちろんない。しかしここには、彼と同じレベルのレーサーが何人もいる。
 ――今回は、あまり余裕を見せない方がいいかもしれませんね――
 コックピットの中、シロノは思った。
「さてと、始まったばかりだけど、現在の機体出力は?」
 彼の問いにコンピューターが答える。
〈現在の熱核リアクターの稼働率は65パーセント、推進エネルギーの使用率は3パーセント、残りは後97パーセントあり余裕があります。
 なお、全78機の内、現在のホワイトムーンの順位は13位です〉
 大体の宇宙船の動力源は、熱核融合炉によるリアクターを使用している。
 使用用途は船内システムや、量子化リアクターなどからなるワープ機関の動力、そして船の主要推進機関を動かすエネルギーとなる、特殊科学燃料の燃焼にも使用する。
 一応、サブシステムとして、リアクターを電源とする事で発生するプラズマを推進剤として使用することも出来るが、その推力はかなり小さい。既に大きな加速がついている機体の方向転換をしようにも、それだけで何時間もかかる。
 つまり燃料が切れ、主要推進機関が使えなくなった地点で負けも同然、必然的にリタイヤだ。
 コンピューターからの情報に、シロノはフッと笑う。
 ――まぁ最初ですし、順当ですね。いくら親善試合と言っても負けるつもりはありませんが、あまり手の内も知られたくもありません。今回は8割程度の実力しか出さないつもりですが…………さて、どこまで行けるでしょうか――
 三次元レーダーを見ながらも、一応の確認のためにさらにシロノはコンピューターに質問する。
「ちなみに、トップを飛んでいる三機は?」
〈三位がクレイン・ロイドのゼインライダー、二位はマリン・フローライトのクリムゾンフレイム、そして現在一位で飛行しているのは……ジンジャーブレッドのブラッククラッカーです〉
 ――やっぱり予想通り。さすがは伝説となったジンジャーブレッドです――
 何しろ彼が伝説のレーサーと呼ばれる所以、それは出場したレースの全てを優勝で飾ったのみならず、レース中にさえ、一度たりとも相手のリードすら許さなかったからだ。
 レースの始めから最後まで、常に誰よりも先へと飛ぶ。それこそが彼、ジンジャーブレッドの伝説だ。
 ――せめてこの親善試合では優勝は出来ないにしても、一度は追い抜いてみたいものですね。
 本番はあくまでこの次、今は相手の力量を知ることが、何よりも重要だ。
 シロノのホワイトムーンは他の機体とともに、ツインブルーの輝く宇宙を飛ぶ。
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