テイルウィンド

双子烏丸

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第四章 前哨戦

噂話

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 今、リッキーはフウマ達の元へと、戻ろうとしている所だった。
 もうレースは始まっている。そろそろ戻るべきだろう。
 ――随分と、遅れてしまったな。シロノとの会話もそうだが、まさかあんな奴も来ているとは――
 観客席の中を移動しながら、彼は少し前に起こった出来事を、考えている所だ。
 ――まぁ、今度のG3レースで起こっている事を考えれば、十分に予想は出来た事だが――
 時間は、少し前へと遡る。


 会場裏の通路でシロノと別れた後、少し歩いていた時だった。
 まさか対戦相手だったシロノに、どうしてあんな事を教えたのが、自分でも信じられなかった。
 ――我ながら親切なことで。まぁ、どうせ俺の機体はないしレースにも出場出来ない。今となっては、別に大した事はないだろ――
 そんな風に、考えを巡らせていた。
 するとそこに、誰かから声がかかった。
「ちょっと、悪いが火を貸してくれないか。ついライターを忘れてしまってな」
 見ると通路の脇に、銀河捜査局の制服を着た痩身な男が、タバコを片手に立っていた。
「……ああ、別に構わないが」
 リッキーは懐からライターを取り出し、男の持つタバコに火をつけた。
「ありがとう、礼を言うぞ」
 男は火が付いたタバコを口にくわえ、さっそく一服し始めた。
「ふふ、観客席で吸うと迷惑がかかるからな。こうして裏でこっそりと……な」
 そう呟きながら、男は煙をふぅっと吐く。
 リッキーもその横で、自分のタバコを取り出して一服する。
「……銀河捜査局の人間か。見たところただの捜査官ってだけじゃなさそうだが、こんな事件じゃ捜査も大変だろ? 
 大規模な宇宙レース大会の裏で動く、黒幕も目的も謎の陰謀……。ご苦労なこった」
 男はフッと息をついてリッキーを見た。
「私はヘンリック、銀河捜査局の長官をしている。私が現在捜査中の、このレースに関する事件の一つに巻き込まれ、大変な事になったようだな。他人の事を勝手に同情するつもりはないが、陰謀を事前に発覚出来ず、みすみす敵の破壊行為を許した、我々の不甲斐なさも原因だ。それには謝罪しよう、リッキー」
 捜査局の人間なら、名前や事情を知っていても不思議じゃない。
 だがリッキーはそれとは別に、疑問に思った事があった。
「レースに関する事件の一つだって? 他にも何か、面倒なことが起こっているのか?」
 ヘンリックはつい言い過ぎたという表情を見せる。
「私としたことが……少しばかり言い過ぎたな。まぁいい、多少教えたとしても問題ないだろう」
 そう一人呟き、リッキーに話を始める。
「捜査局の情報網は広い。もちろん、中には裏社会にも通じるものもだ。私達はそこで、ある情報を入手した。それは第S級宇宙海賊、フォード・パイレーツがG3レースを狙っているという事だ」
 宇宙空間を宇宙船で渡り歩き、様々な星系などで略奪、破壊行為を行う無法集団、それらを一括りしてカテゴリ化した存在、それこそが宇宙海賊だ。
 星系国家に関係なく、宇宙広く活動する治安維持組織、宇宙警察とその一課である
宇宙捜査局は、宇宙海賊にその脅威度にしたがって、A、B、C級と、クラスに分けて分類している。
 中でもS級は、それらより更に上位に位置するクラスである。
 それに、フォード・パイレーツと言う名前、それは一般人にも広く知れ渡っているほどの、知名度と人気を持っていた。
「フォード・パイレーツって言えば、悪徳な方法で儲けた大企業や、裏社会の犯罪組織をターゲットにする海賊集団の事か。
 噂ではそうして奪った財産を食料や生活物資、更には水素合成機に農業プラントなんかに変えて貧困に苦しむ惑星への援助や、あちこちの内戦や紛争に介入してはそれを抑えたりもしている、あの義賊連中だろ?」
「ああ、そうだ。そして噂も事実だ。だが、例えそうだとしても、世の治安を乱す犯罪組織には変わりない。
 我々も奴らを追ってはいるが、逃げ足は早い上に、その戦力もそれなりに強大だ。何しろ船一隻で戦争を止めるほどだ、追跡を試みた我々の艦隊一個中隊も、奴らによって行動不能にさせられたからな。
 とにかく……、中々手も足も出ない、厄介な連中さ」
 ヘンリックは、苦虫を噛み潰したような顔を見せる。
「だが、そんな連中が、何でレースなんかに」
「さあな。簡単に分かるなら……私も苦労はないのだがね。
 では、そろそろ私は失礼しよう。何しろ、調査すべき事柄が、大量にあるからな。
 さよならだ、リッキー。……G3レースでの活躍を、期待しているよ」
 半分燃え尽きた煙草の吸殻を、そのまま上着のポケットに押し込み、彼はそのまま去ろうとする。
「レースの……活躍だと?」
 リッキーは、先ほどの言葉に反応した。
「おい待て! 俺の機体は爆散して使えないのは、知っているだろ!」
 するとヘンリックは、ちらと後ろを振り向いた。
「……何だ、知らなかったのか。てっきり、自分で代用の機体を用意したのかと思ったが……まぁいい。
 実はこの前、レースのエントリー情報を確認したのだが、君の機体情報は別の機体に変更されていた。それを知らないとなると…………ふむ」
 少し考えこんだ後、彼は続ける。
「しかし、心当たりのある人物は、知っているのではないか? せいぜい……よく考えることだな」
 それが、偶然出会った銀河捜査局のヘンリックとの、会話の全てだった。


「心当たりのある人物…………か」
 リッキーはあの会話の事を思い出しながら、独り言を呟いて、考え込む。
 しかし、いくら考えても思い浮かばない。
 ――まぁ、とりあえず今はいいか。まずは、あいつらとの合流が先だな――
 結局、考えるのを早々にあきらめ、彼は先へと急ぐことにした。
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