テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
55 / 204
第五章 深紅の炎

切り札

しおりを挟む
 元々の性能でも、クリムゾンフレイムは十分な高性能機となっている。とりわけ動力、大型ブースターなどの出力、推力系は特別な設備を使用している。
 これは元々、どこかの企業が開発した試作動力とブースターを独自で入手したからだ。可能な限り高出力化を目指したそれは、あまりに出力が強すぎるために、船体やシステム、パイロットが持たないとして、一般に使われることはなかった。
 そこでマリンは、入手した動力機関とブースターにリミッターを設定することで、本来より抑えた性能で、普段機体を動かしていた。
 リミッターを加えた状態でも、クリムゾンフレイムは、優秀な性能であることに変わらない。
 だが、一度それを解除すれば、機体の性能は、従来よりも更に上回ものとなる。
 


 クリムゾンフレイムの大型ブースターから噴射される推進エネルギーは、強い加熱によって放たれる光は、真紅から強く輝く白い閃光へと変わり、周囲にも強い光を放つ。
 その速度を急速に増し、目覚ましいほどの加速で飛行するクリムゾンフレイム。
 機体の加速は、トップを行くジンジャーブレッドのブラッククラッカーさえ上回る。
 バイザーに映るブラッククラッカーの小さな影が、次第に大きくなる。
 しかし――
「……くっ!」
 強い加速度によるGから体を守るために装甲で覆い、困難な呼吸を補助する呼吸マスクがあるにも関わらず、マリンはかなり苦しそうに呻く。
 そう、リミッターの解除は超強力な加速を与えるが、その分、機体や動力機関、そしてパイロットへの負担が大きくさらに、エネルギー消費が通常の五倍と、かなり激しい。あらゆるデメリットが多すぎるせいで、リミッターの解除は基本、行うことはない。
 また、リミッター解除は一レースに一度きりで、最大稼働時間は――せいぜい3分。
 それ以上の稼働は機体もそうだがに、ブースターなどの動力機関が強くやられてしまい、強い異常と不具合、故障を引き起こすようになっている。機能の著しい低下と、下手をすれば……航行不能になる恐れも。
 つまりは、たった一度きりの、彼女の切り札だ。
 
しおりを挟む

処理中です...