テイルウィンド

双子烏丸

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第五章 深紅の炎

シロノの不審

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 二人がそんな接戦をしていた、その頃――
〈これはこれは、シロノ・ルーナ君。お初にお目にかかれて光栄だ。
 いやぁ……さすが若いながらにプロの、宇宙レーサー。アッと言う間にもう三位にまでリードとは、なかなかやるじゃないか〉
 通信用ディスプレイには灰色髪の細見な優男が、気の緩んだような笑みを浮かべている。
 シロノは正直、何か捉えようのないこの男を、少し不審がっているところだ。
 それに、一見緩んだ表情だが、まるでどこか探りを入れているような感じがするようで、やや不快な感じを覚えていた。
 親善試合はすでに中盤に差し掛かり、シロノはちょうど、ツインブルーの半周に差し掛かる。
 あれから更に先頭の二機を追い抜き、彼は三位にまで達した。
 辺りにいた機体も殆どいなくなり、周囲には後ろを飛ぶ一機、ジョセフ・クレッセンの玄武号ただ一機だけ。


 そして今、このジョセフから通信が届いていた。
「……そう言うあなたの方も、ここまで来れるとは、大したものだと思いますよ。
 パイロットとしての腕も、その機体もね」
〈ハハハハッ! お褒めいただいて嬉しいね! まぁこちとら、探偵として色々と面倒な仕事を、それなりにこなして来たものだ。こうでも技量がなければ、やって行けないだろう? 俺の玄武号も、何年も使い続けた相棒だからな、今まで色々と手を加えた結果ってことさ。まぁ……それでも年代物のオンボロ船ってことには、変わらないんだがな!〉
 さも愉快そうにヘラヘラ笑うと、ジョセフは続ける。
〈それに引き換え、シロノ君の機体、ホワイトムーンは実にいい! とても美しく洗練され、そして高性能だ! さすがは大企業、スリースター・インダストリーをスポンサーに持つだけのことはある」
「ええ……そうかもしれませんね」


 相手のペースに持っていかれているようで、やや戸惑い気味のシロノ。
〈そう言えば、このG3レースで一番の優勝候補、ジンジャーブレッドのブラッククラッカーも、彼の昔の機体をベースに、ゲルベルト重工が開発をした機体らしい。あちらはあちらで、どれ程の性能を持っているやら……
 シロノ君は知っているか? 君のスポンサーとは違いゲルベルト重工は、違法取引に不正、賄賂に産業スパイなどと、黒い噂が付きまとっている事を。
 銀河捜査局もそれには目に付けているが、なかなか尻尾は捕まえていないみたいだ。
 そして彼らが今手にしている情報は、このG3レースでゲルベルト重工が何か企んでいると、まぁ大まかなもの程度さ。役所仕事って奴は――どうも手続きばかりで、動きが遅くなっていけない!
 さてと、シロノ君は銀河捜査局がどこまで知っているか、聞いてはいないかな?
 内緒でこっそり教えてくれたら、ジョセフおじさんは嬉しいなー〉
「ふふっ、さぁ――? ご想像にお任せしますよ、探偵さん」



 ――本当に、捉えようがなくて、胡散臭い男ですね――
 内心そんな風に思いながらも、シロノは質問をはぐらかす。
 ――しかし、このジョセフという男がただ、レースをしに来ているだけではない、それは分かります。問題は、彼が敵か味方かどうか。探偵と言うことは、雇われさえすればどちら側でも有り得る。捜査局の動向を探るための、ゲルベルト重工が雇ったのか、それとも捜査局とは別に、重工の調査を行っているのか――
 分からないからこそ、こうしてはぐらかす……。それが現状でベストの選択だと、シロノは考えた。
〈これは随分と、手厳しい。しかし……いくら捜査局でも、レースでの企みと、スポンサーとして援助しているジンジャーブレッドが無関係だと分からないほど、鈍間ではないはずだろう? ハハハッ! だからこそレースに参加すれば、何か繋がりでも分かるかもと思ってな。
 もしかするとシロノ君も、その内知ることもあるかもだ。
 そう肝に命じて、せいぜい気を付けるといい。…………せっかくのレースを、台無しにされたくなければな〉


 緩い雰囲気から一転、急に鋭い表情をジョセフは見せる。
 これにはシロノも、黙ってはいられなかった。
「それは……脅しているのですか?」
 画面越しに、シロノは睨む。
 するとジョセフは、元の緩い感じに戻り、彼をなだめる。
〈まぁまぁ、少しきつく言い過ぎたが、ただの警告だけさ。何もそう、怖い顔をすることはないだろう?〉
「……」
〈とにかく、せっかくの俺からのアドバイス、覚えておいて損は無いはずだ。……ハハハ!〉
「くっ!」
 とうとうシロノの方が、我慢の限界に達した。
 通信を一方的に切断すると、彼はホワイトムーンも出力を高く上げ、一気に玄武号を
突き放した。
 元々一部の性能しか出していなかった、ホワイトムーンにとっては、それくらいは容易い。
 玄武号の姿がすぐに見えなくなると……シロノは溜息をつく。
 もう分かっていたことだが、今回のレースは、色々と厄介な事が起こっているらしい。
 願わくばそんな事に、巻き込まれないことを、彼は願った。
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