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第六章 前哨戦・後半
苦痛
しおりを挟む周囲はガス気流のない無風地帯。
ここではツインブルーの空は晴れており、ガスや気流は見られなかった。
空は一面、晴れ渡るような快晴。宇宙に数多くある、テラフォーミング化された惑星の青空を、何倍にも大規模化したかのようだ。
最も、この無風地帯の範囲は普通の惑星が一つ、丸々入るほどの巨大さだ。通常の惑星の空を比較して、比べられるものではないだろう。
普通ならレーサーも含めて多くの人間は、この空を飛んでいるだけでも、壮大な解放感を味わえるだろう。
最も――今の彼には、そんな気分に浸る余裕は無かった。
「がっ! ううっ……」
全身に走る痛みに、激しい頭痛、ジンジャーブレッドは特に痛む頭を押さえて、呻いていた。
先ほどまでは神経系統に接続するために、身体を覆っていた操縦席は今は展開され、ヘルメットも外している。
今はブラッククラッカーとの接続は解いており、ある程度はコンピュータによる補助による、単純な直線飛行を行わせ、外部の映像は予備で用意されているディスプレイに映されている。しかし……
――ちっ! ……少し無理を重ねたか。やはりこの痛みと発作は……慣れないものだ――
ジンジャーブレッドの呼吸は荒く、いかにも苦しそうに見える。
――やはり、もう一本くらいは打っておくか。我慢しても得するわけでは、ないからな――
操縦席の一部に彼が触れると、その部分が展開して開く。そこには毒々しい赤黒色の液体が入れられた、何本もの注射器が置かれていた。
その中の一本を手に取ると、ジンジャーブレッドは自らの右腕に刺した。腕に液体を注入し、使い終わった注射器を、下の廃棄口へと捨てた。
シートにもたれかかり、彼はふぅと一息つく。幾らかは、痛みも引いた。
――これで楽になったな……。幾ら親善試合とは言え、負けが許されないと言うのは辛いものだ。
しかし、レースはもう残り僅かだ。このまま行けば、楽にゴールまで行けるはずだ――
ディスプレイには、青い空に浮かぶ、金のリングが見える。
一応、目視可能な距離にはあるが、それでもまだ、実際に見えている以上に離れている。
到着まではまだしばらくかかる。が、もはや遠いわけではない。
ここまで来れば、もう問題はない――ジンジャーブレッドはそう考えていた。
マリン・フローライトがあの時、自分にあそこまので接近を許した事には驚かされたが、これ以上は今になって起こりはしないだろう。
だが、ディスプレイに再び目を映した時……その考えは変わる。
――くっ! 最後の最後で、簡単にはゴールさせてはくれないわけか。私としたことが――
ジンジャーブレッドの顔には、考えもしなかった予想外の事に対する、驚愕と焦りが現れる。
そして彼は再び、頭にヘルメットを被せる。操縦席もそれに反応して変形し、その身体を包み込む。
操縦内部のプラグは専用のスペースジャケットと接続され、それを介して彼とブラッククラッカーと繋がり、一体となる。
――まさかここに来て、二機も私の前に現れるとは。かつての私なら、そんな真似など許しはしなかったはずなのに……。幾ら症状が現れたと言っても、足を止めたのが不味かったか――
ヘルメットで視界が覆われ、見えるのは闇だけだ。しかしブラッククラッカーが得た情報が、次第に神経へと伝わるにつれて、外の世界の様子が分かるようになる。
――だが、これ以上の真似は、許しはしない。この私、ジンジャーブレッドが敗れる訳には、いかないのだ――
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