テイルウィンド

双子烏丸

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幕間 遭遇

ファンサービス

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 フウマは再度、サイクロプスと向き合う。
〈……ふっ、ようやく落ち着いたみたいだな。では本題に入るとしよう。
 我々は君達とテイルウィンドに、危害を加えるつもりはない。ただ……しばらくの間、我々の
歓迎を受けてもらいたいだけだ。何しろ我々はファンだ、このクロスメタル海賊団総出で、精一杯のもてなしを約束する。無論、後ほど故郷の惑星の、付近にまで送り届けもしよう。
 だが――G3レースについては、諦めてもらう。それがクライアントの、望みだからな〉
 あくまで誠実な態度で、サイクロプスは提案する。
 この仕事を依頼した何者かは、余程レーサーをG3レースに出したくないらしい。
 フウマは以前、テイルウィンドに襲撃をかけた集団を、思い出した。恐らく依頼主は、それと同じ人物ないしは、組織だろう。
 ――まぁ、今はこの場を切り抜けることに、集中しないと――
 とりあえずこれについては後回し、狙いは話を長引かせ、何とか復旧まで現状をもたせることだ。
「あのさ、サイクロプスさん」
〈ふむ、どうした? 私としては降伏を受け入れてくれれば、嬉しいのだが〉
 サイクロプスの応えに、フウマはこんな事を伝えた。
「良ければ……僕の事を、見逃して欲しいな」

 

 見逃して欲しいと言う、フウマの言葉。
 これを聞いたサイクロプスは、クハハと大笑いする。
〈くッ、クハハハハ! さすがはフウマ! 言うではないか! 私もそうしたいのは山々だが……、何しろ仕事だからな、諦めることだ〉
 しかし、フウマも譲らない。
 彼はさも余裕そうに、笑みを浮かべた。
「どうかな? 今僕たちを見逃した方が、恥をかかないと思うけど?」
〈ほう? どう言う事だ?〉
 興味深そうに、サイクロプスは右目の眉を上げる。
「今こうして様子を見ているのは、僕も同じさ、海賊がどんなものか、気になってね!
 でなければ……こんな風に止まってなんかいないで、今頃はとっくに逃げているよ」
 勿論、これは真っ赤なウソだ。しかし、例えウソでも使いようによっては、交渉材料になる。



〈なら、さっさと逃げればいいではないか〉
 サイクロプスも、大人の態度を崩さない。
「だから言ってるだろ? 恥をかかせたくないって。まさか海賊様が、たった一隻の小舟相手に
逃げられたんじゃ、評判って言うのもあるだろ? 
 だったらせめて情けをかけて、ここは見逃してくれたら……そっちの方が、格好いいと思うな」
〈……〉
「あっ! もし見逃してくれたら。今度別の時に、そっちにお邪魔させてもらうさ。ちゃんとファンサービスはするし、良かったら歓迎を受けてあげる。
 そうだね、ファン全員分のサインと握手、そしてツーショットの記念撮影は、最低限は保障するよ。もちろん、望むなら他のお願いだって、考えてもいいよ♪」
 こう言ってフウマは、可愛らしく微笑み、パチッとウィンクして見せた。
 そんな姿は、普段よく一緒にいるミオも、思わず驚くくらいだ。
 ――フウマってば、可愛いって言われるのを嫌がるのに、こんな事も出来たんだ。……でも、その笑顔を私に向けてじゃないのが、ちょっと残念だな――
 ふと、そんな風に思ってしまう、彼女であった。


 
 このフウマの笑顔にドキッとしたのは、何とサイクロプスも同じだった。
〈……なっ、フ、フウマ……。まさか、そんな笑顔を……私に……〉
 そんな風にどぎまぎするサイクロプス、海賊団のキャプテンとしての威厳も、形無しだ。
 再び覗き込んで来たクルー達も、後ろで大いに賑わっている。
〈きゃあっ! こんなフウマの表情を見られるなんて!〉
〈しかも、サインや握手に、ツーショット撮影だってさ! 私は大したことない報酬よりも断然、こっちがいいな!〉  


 この言葉にはスーツ男も黙っていなかった。
〈お、おい、何を言っているんだ! 勝手なことは許されん…………ぐわっ!〉
 が、そんな男をまた、別のクルーが押しのけた。
〈それだけじゃなくて、他のサービスも聞いてくれるんだよ? 私はフウマと一緒に、楽しくお喋りをしたいな。宇宙レースの事とかも、沢山聞きたいし〉
〈じゃあ私は、頬っぺたキス! ずっと夢だったんだ!〉
〈えー! 折角お願いを聞いてくれるなら、もっと特別な事を頼みたいじゃない? きっと彼は女の子の恰好も似合うと思うし、ちょっと私の私服を着せてみたいわ。背丈も同じくらいだし、もっと可愛くなると思うの〉
 次第に向こうの要求は、エスカレートして過激化する。
「は、ははは……。あくまで考えるだけだから、ね」
 さすがに危険を感じたフウマは、少し苦笑いを浮かべながら、そんな事を付け足した。

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