105 / 204
幕間 遭遇
ファンサービス
しおりを挟む
フウマは再度、サイクロプスと向き合う。
〈……ふっ、ようやく落ち着いたみたいだな。では本題に入るとしよう。
我々は君達とテイルウィンドに、危害を加えるつもりはない。ただ……しばらくの間、我々の
歓迎を受けてもらいたいだけだ。何しろ我々はファンだ、このクロスメタル海賊団総出で、精一杯のもてなしを約束する。無論、後ほど故郷の惑星の、付近にまで送り届けもしよう。
だが――G3レースについては、諦めてもらう。それがクライアントの、望みだからな〉
あくまで誠実な態度で、サイクロプスは提案する。
この仕事を依頼した何者かは、余程レーサーをG3レースに出したくないらしい。
フウマは以前、テイルウィンドに襲撃をかけた集団を、思い出した。恐らく依頼主は、それと同じ人物ないしは、組織だろう。
――まぁ、今はこの場を切り抜けることに、集中しないと――
とりあえずこれについては後回し、狙いは話を長引かせ、何とか復旧まで現状をもたせることだ。
「あのさ、サイクロプスさん」
〈ふむ、どうした? 私としては降伏を受け入れてくれれば、嬉しいのだが〉
サイクロプスの応えに、フウマはこんな事を伝えた。
「良ければ……僕の事を、見逃して欲しいな」
見逃して欲しいと言う、フウマの言葉。
これを聞いたサイクロプスは、クハハと大笑いする。
〈くッ、クハハハハ! さすがはフウマ! 言うではないか! 私もそうしたいのは山々だが……、何しろ仕事だからな、諦めることだ〉
しかし、フウマも譲らない。
彼はさも余裕そうに、笑みを浮かべた。
「どうかな? 今僕たちを見逃した方が、恥をかかないと思うけど?」
〈ほう? どう言う事だ?〉
興味深そうに、サイクロプスは右目の眉を上げる。
「今こうして様子を見ているのは、僕も同じさ、海賊がどんなものか、気になってね!
でなければ……こんな風に止まってなんかいないで、今頃はとっくに逃げているよ」
勿論、これは真っ赤なウソだ。しかし、例えウソでも使いようによっては、交渉材料になる。
〈なら、さっさと逃げればいいではないか〉
サイクロプスも、大人の態度を崩さない。
「だから言ってるだろ? 恥をかかせたくないって。まさか海賊様が、たった一隻の小舟相手に
逃げられたんじゃ、評判って言うのもあるだろ?
だったらせめて情けをかけて、ここは見逃してくれたら……そっちの方が、格好いいと思うな」
〈……〉
「あっ! もし見逃してくれたら。今度別の時に、そっちにお邪魔させてもらうさ。ちゃんとファンサービスはするし、良かったら歓迎を受けてあげる。
そうだね、ファン全員分のサインと握手、そしてツーショットの記念撮影は、最低限は保障するよ。もちろん、望むなら他のお願いだって、考えてもいいよ♪」
こう言ってフウマは、可愛らしく微笑み、パチッとウィンクして見せた。
そんな姿は、普段よく一緒にいるミオも、思わず驚くくらいだ。
――フウマってば、可愛いって言われるのを嫌がるのに、こんな事も出来たんだ。……でも、その笑顔を私に向けてじゃないのが、ちょっと残念だな――
ふと、そんな風に思ってしまう、彼女であった。
このフウマの笑顔にドキッとしたのは、何とサイクロプスも同じだった。
〈……なっ、フ、フウマ……。まさか、そんな笑顔を……私に……〉
そんな風にどぎまぎするサイクロプス、海賊団のキャプテンとしての威厳も、形無しだ。
再び覗き込んで来たクルー達も、後ろで大いに賑わっている。
〈きゃあっ! こんなフウマの表情を見られるなんて!〉
〈しかも、サインや握手に、ツーショット撮影だってさ! 私は大したことない報酬よりも断然、こっちがいいな!〉
この言葉にはスーツ男も黙っていなかった。
〈お、おい、何を言っているんだ! 勝手なことは許されん…………ぐわっ!〉
が、そんな男をまた、別のクルーが押しのけた。
〈それだけじゃなくて、他のサービスも聞いてくれるんだよ? 私はフウマと一緒に、楽しくお喋りをしたいな。宇宙レースの事とかも、沢山聞きたいし〉
〈じゃあ私は、頬っぺたキス! ずっと夢だったんだ!〉
〈えー! 折角お願いを聞いてくれるなら、もっと特別な事を頼みたいじゃない? きっと彼は女の子の恰好も似合うと思うし、ちょっと私の私服を着せてみたいわ。背丈も同じくらいだし、もっと可愛くなると思うの〉
次第に向こうの要求は、エスカレートして過激化する。
「は、ははは……。あくまで考えるだけだから、ね」
さすがに危険を感じたフウマは、少し苦笑いを浮かべながら、そんな事を付け足した。
〈……ふっ、ようやく落ち着いたみたいだな。では本題に入るとしよう。
我々は君達とテイルウィンドに、危害を加えるつもりはない。ただ……しばらくの間、我々の
歓迎を受けてもらいたいだけだ。何しろ我々はファンだ、このクロスメタル海賊団総出で、精一杯のもてなしを約束する。無論、後ほど故郷の惑星の、付近にまで送り届けもしよう。
だが――G3レースについては、諦めてもらう。それがクライアントの、望みだからな〉
あくまで誠実な態度で、サイクロプスは提案する。
この仕事を依頼した何者かは、余程レーサーをG3レースに出したくないらしい。
フウマは以前、テイルウィンドに襲撃をかけた集団を、思い出した。恐らく依頼主は、それと同じ人物ないしは、組織だろう。
――まぁ、今はこの場を切り抜けることに、集中しないと――
とりあえずこれについては後回し、狙いは話を長引かせ、何とか復旧まで現状をもたせることだ。
「あのさ、サイクロプスさん」
〈ふむ、どうした? 私としては降伏を受け入れてくれれば、嬉しいのだが〉
サイクロプスの応えに、フウマはこんな事を伝えた。
「良ければ……僕の事を、見逃して欲しいな」
見逃して欲しいと言う、フウマの言葉。
これを聞いたサイクロプスは、クハハと大笑いする。
〈くッ、クハハハハ! さすがはフウマ! 言うではないか! 私もそうしたいのは山々だが……、何しろ仕事だからな、諦めることだ〉
しかし、フウマも譲らない。
彼はさも余裕そうに、笑みを浮かべた。
「どうかな? 今僕たちを見逃した方が、恥をかかないと思うけど?」
〈ほう? どう言う事だ?〉
興味深そうに、サイクロプスは右目の眉を上げる。
「今こうして様子を見ているのは、僕も同じさ、海賊がどんなものか、気になってね!
でなければ……こんな風に止まってなんかいないで、今頃はとっくに逃げているよ」
勿論、これは真っ赤なウソだ。しかし、例えウソでも使いようによっては、交渉材料になる。
〈なら、さっさと逃げればいいではないか〉
サイクロプスも、大人の態度を崩さない。
「だから言ってるだろ? 恥をかかせたくないって。まさか海賊様が、たった一隻の小舟相手に
逃げられたんじゃ、評判って言うのもあるだろ?
だったらせめて情けをかけて、ここは見逃してくれたら……そっちの方が、格好いいと思うな」
〈……〉
「あっ! もし見逃してくれたら。今度別の時に、そっちにお邪魔させてもらうさ。ちゃんとファンサービスはするし、良かったら歓迎を受けてあげる。
そうだね、ファン全員分のサインと握手、そしてツーショットの記念撮影は、最低限は保障するよ。もちろん、望むなら他のお願いだって、考えてもいいよ♪」
こう言ってフウマは、可愛らしく微笑み、パチッとウィンクして見せた。
そんな姿は、普段よく一緒にいるミオも、思わず驚くくらいだ。
――フウマってば、可愛いって言われるのを嫌がるのに、こんな事も出来たんだ。……でも、その笑顔を私に向けてじゃないのが、ちょっと残念だな――
ふと、そんな風に思ってしまう、彼女であった。
このフウマの笑顔にドキッとしたのは、何とサイクロプスも同じだった。
〈……なっ、フ、フウマ……。まさか、そんな笑顔を……私に……〉
そんな風にどぎまぎするサイクロプス、海賊団のキャプテンとしての威厳も、形無しだ。
再び覗き込んで来たクルー達も、後ろで大いに賑わっている。
〈きゃあっ! こんなフウマの表情を見られるなんて!〉
〈しかも、サインや握手に、ツーショット撮影だってさ! 私は大したことない報酬よりも断然、こっちがいいな!〉
この言葉にはスーツ男も黙っていなかった。
〈お、おい、何を言っているんだ! 勝手なことは許されん…………ぐわっ!〉
が、そんな男をまた、別のクルーが押しのけた。
〈それだけじゃなくて、他のサービスも聞いてくれるんだよ? 私はフウマと一緒に、楽しくお喋りをしたいな。宇宙レースの事とかも、沢山聞きたいし〉
〈じゃあ私は、頬っぺたキス! ずっと夢だったんだ!〉
〈えー! 折角お願いを聞いてくれるなら、もっと特別な事を頼みたいじゃない? きっと彼は女の子の恰好も似合うと思うし、ちょっと私の私服を着せてみたいわ。背丈も同じくらいだし、もっと可愛くなると思うの〉
次第に向こうの要求は、エスカレートして過激化する。
「は、ははは……。あくまで考えるだけだから、ね」
さすがに危険を感じたフウマは、少し苦笑いを浮かべながら、そんな事を付け足した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる