テイルウィンド

双子烏丸

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第十一章 束の間の安寧と、そして――

海賊騒動の決着

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 ――――
 宇宙にまで追跡を続けた末、ついにブラッククラッカーを捕えたジョセフ。
「さてと、そろそろ諦めてくれよ。……聞こえているか、カイル」
 通信を行うものの、向こうからの返答はない。
 だが、通信自体は繋がっている。彼の言葉は届いているはずだ。
「……声は聞いているだろ、まずは機体の動きを、止めてもらおうか」

 
 おとなしく、聞いてくれるかは分からなかった。
 ……が、向こうは言われた通り、ブラッククラッカーの速度を落とし、停止した。
 こうも素直なことに、ややジョセフは驚くも……。
「話が早いじゃないの。じゃあ、次はブラッククラッカーから降りてもらおう。変な真似をすれば、分かるな?」
 それには、少し時間が空いた。
 だが、しばらくするとハッチが開き、中から宇宙服姿の、二人が出てきた。


〈言われた通り、出てきたさ。まさか僕が、こうも素直になるとはね〉
 すると、ここで初めて、カイルが通信で声を発した。
「確かに、あの大海賊フォード・パイレーツを統べる、カイル・フォードらしからない素直さだな」
 ジョセフは意外そうな様子で、そんな風に言う。
「思い返せば、俺とカイルは、何度も関わる機会が多かったものだな。こっちが関わる事件に、関与するのも一度や二度じゃない。……しかも、その度に面倒事になると来た、つくづく腐れ縁ってことだ」
〈こっちこそ、ジョセフには何度も邪魔されて煮え湯を飲まされたから、どっちもどっちだと思うよ。
 まぁ……時には互いを利用したりも、していたけどさ〉
 
 
 本人は追い詰められている、そのはずなのにカイルの話し声には、まだ余裕がある。
 だが、この状況では何も出来ないはずだ。
「ま、その腐れ縁も、これまでさ。捜査局に身柄を引き渡して、俺は懸賞金をガッポリ頂くとしよう。
 カイル・フォードに懸けられた金額は、相当なものらしいからな」
 ……だが、その言葉にフッと、通信越しでカイルが笑ったように聞こえた。
 そして彼は、こんな言葉を口にした。
〈悪いけど、僕たちの腐れ縁は――続きそうかな!〉
 こう言った瞬間、カイルは何か球体を取り出し、勢いよく下に叩きつけた。
 球体はブラッククラッカーの船体に衝突した瞬間、破裂して広範囲に煙幕をまき散らす。
 ――ちっ! まだ何か手を残していたか――
 どうやらその煙幕は、センサーさえも通さないらしく、ジョセフさえその様子は分からないままだ。
 ――だがそんなものはこけおどしだ、煙幕さえ晴れれば――
 確かに煙幕を張られたものの、次第にそれは空間に散らばり、薄くなっていた。
 あれさえ晴れれば、そうジョセフは考えた。……だが。



 先ほどまでは、宇宙服姿でブラッククラッカーの真上に立っていた、カイル達二人の姿は――もうどこにもなかった。
 ――そんな、一体どこに――
 ジョセフが辺りを探っていた、その瞬間……。
 至近距離に突如、別の機体が宇宙の闇から、姿を浮かび上がらせる。
 おそらく光学迷彩を備えていたのだろう、同化した宇宙の背景から本来の姿を露わにしたのは、レースでのカイルの機体、スワローの姿だ。
 ――あいつ、さっきの隙に向こうに乗り移ったってわけか――
 してやられた様子を見せるジョセフに、スワローからの通信が入る。
〈あーあ、今回もジョセフのせいで、こっちは散々さ。結局、ブラッククラッカーを手に入れるのには、失敗したしね〉
「やはり、そっちにいたのかい」
〈まあね。……さてと、失敗したことだし僕はもう、退散させてもらうよ〉
 そう言い残して去ろうとする、カイル。
 だがジョセフは、こう呼び止めようとする。
「待ってくれないか、その前に一つ、どうしてブラッククラッカーを狙ったのかくらい、オジサンに教えてくれてもバチは当たらないだろう?」
 彼の言葉に、カイルは一言、答えた。 
〈……ふっ、ジョセフなら分かっているくせに〉
 
 
 カイルの乗るスワローは、銀色に発光しそして、ワープ航法で姿を消した。
 ――逃げられた、か――
 残念そうではあるが、彼も慣れているのか、そこまで強く残念と言うわけではなさそうだ。
 ――まぁ、ブラッククラッカーが無事であっただけでも、よしとしますか。……おや――
 見ると、今頃銀河捜査局のパトロール船が数隻、こちらへと向かって来ていた。
 ――ようやく、銀河捜査局のご到着か。まぁ、あの機体をこっちで回収する手間が省けたから、良しとしますか――
 ジョセフは懐から煙草を取り出し、一服しひと息つく。

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