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第参章 葛藤
最後の夢
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――――
その夜、ルーフェは最後の夢を見た。
町外れの平原で、彼はエディアが来るのを待っていた。
二人の愛が周りから許されないなら、家を出て駆け落ちするしかない。ルーフェは彼女と待ち合わせてから、ここを去るつもりだった。
手元には家から持ち出した生活用品に、金貨や宝石などが入ったバッグがある。
これくらいあれば、例え何処に行ったとしても、当面の生活には困らない量だ。
辺りは闇夜に包まれ、遠くには街の灯りが、輝いて見える。
そしてルーフェが暮らしていた屋敷は、街中でも目立つほどに大きく豪華で、輝きを放つ。
これでこの家とも、見納めだ。
遠くから見れば美しいが……もはやここには、未練はない。
ルーフェはポケットから、手のひらの大きさの小箱を取り出し、それを開けてみた。
中に入っていたのは――表面に蔦や花の美しい装飾が施された、二つお揃いな銀の指輪だ。
これは街を出る時、店で購入した指輪である。
以前、二人が身分を偽り店に来たとき、エディアがそれを気に入っていたのを、ルーフェは覚えていたからだ。
何処かの町に辿り着いたら、二人は結婚式を挙げようと約束した。この指輪は、エディアの為に用意した物だった。
これを見たら、エディアはきっと喜んでくれるだろうな――
ルーフェはそんな幸せな光景に思いを馳せていたが、心の奥にはある懸念があった。
本当なら、エディアは彼よりも先に、ここで待っていたはずだった。
何しろルーフェは出発の準備に追われ、彼女に先に行っているように伝えたからである。
だが、それなのに、どれ程待っても来る様子すらない。
長く、長く、ルーフェは待った。
夜の闇は深くなり、それとともに、ルーフェの不安も増して行く。
――そんな時だった。
遠くに見えている街の灯りが、急に明るくなった。
よく見ると明かりの内幾つかは、動いているようにも見える。
一体どうしたのか? もしかするとエディアに何か――
漠然とした強い心配にとらわれ、ルーフェは急いで街へと戻る。
……だが、そこで待ち受けていたのは……
――――
既に目をさましたルーフェは、別れの挨拶を伝えるために書斎へと向かっていた。
――嫌な記憶を、思い出してしまった――
まだ夢の記憶が、脳裏に鮮明に残っていた。
彼はそのせいか、気分が悪く、表情もやや蒼白となる。
書斎の扉を開けると、トリウスが出迎える。
「……来たか」
ルーフェは彼に、一礼する。
「今までお世話になりました。……本当に、ありがとうございます」
出る準備を終えたルーフェは書斎に行き、家の主であるトリウスへ別れの挨拶をしていた。
旅していた時と同じく、腰には剣を差し、厚いマントを身に纏っている。
そして、その表情と雰囲気も、前のように険しく鋭く、目的の為なら全てを犠牲にするという意思が感じられる。
だが以前と違い、そのルーフェの意思にはどこか不完全さが感じられ、顔には苦悩の色がちらついている。
これから待ち受けている事も、勿論その苦悩の、原因の一つだった。
…………しかしもう一つ、昨晩見た、あの夢の事もある。
昨晩の夢――それは今まで夢で見て来た、エディアとの記憶の果て――彼女の最後の瞬間だった。
今まで何度も忘れてしまいたいと思った、あの記憶。まさかその様子を再び見ることになるなんて――
ルーフェにとってそれは、あまりにも辛い記憶だった。
「ああ、無事を祈る」
一方、トリウスも短い別れの言葉を、ルーフェに返した。
「ラキサは外で待っている。最後に娘にも、別れを伝えてくれ」
そう、それが彼女との、別れの言葉になる。
そして…………別れた後は、どちらかが生きるか死ぬかの戦いだ。
「分かりました。彼女にも、ちゃんと伝えます」
ルーフェはそう言って書斎を後にした。
その夜、ルーフェは最後の夢を見た。
町外れの平原で、彼はエディアが来るのを待っていた。
二人の愛が周りから許されないなら、家を出て駆け落ちするしかない。ルーフェは彼女と待ち合わせてから、ここを去るつもりだった。
手元には家から持ち出した生活用品に、金貨や宝石などが入ったバッグがある。
これくらいあれば、例え何処に行ったとしても、当面の生活には困らない量だ。
辺りは闇夜に包まれ、遠くには街の灯りが、輝いて見える。
そしてルーフェが暮らしていた屋敷は、街中でも目立つほどに大きく豪華で、輝きを放つ。
これでこの家とも、見納めだ。
遠くから見れば美しいが……もはやここには、未練はない。
ルーフェはポケットから、手のひらの大きさの小箱を取り出し、それを開けてみた。
中に入っていたのは――表面に蔦や花の美しい装飾が施された、二つお揃いな銀の指輪だ。
これは街を出る時、店で購入した指輪である。
以前、二人が身分を偽り店に来たとき、エディアがそれを気に入っていたのを、ルーフェは覚えていたからだ。
何処かの町に辿り着いたら、二人は結婚式を挙げようと約束した。この指輪は、エディアの為に用意した物だった。
これを見たら、エディアはきっと喜んでくれるだろうな――
ルーフェはそんな幸せな光景に思いを馳せていたが、心の奥にはある懸念があった。
本当なら、エディアは彼よりも先に、ここで待っていたはずだった。
何しろルーフェは出発の準備に追われ、彼女に先に行っているように伝えたからである。
だが、それなのに、どれ程待っても来る様子すらない。
長く、長く、ルーフェは待った。
夜の闇は深くなり、それとともに、ルーフェの不安も増して行く。
――そんな時だった。
遠くに見えている街の灯りが、急に明るくなった。
よく見ると明かりの内幾つかは、動いているようにも見える。
一体どうしたのか? もしかするとエディアに何か――
漠然とした強い心配にとらわれ、ルーフェは急いで街へと戻る。
……だが、そこで待ち受けていたのは……
――――
既に目をさましたルーフェは、別れの挨拶を伝えるために書斎へと向かっていた。
――嫌な記憶を、思い出してしまった――
まだ夢の記憶が、脳裏に鮮明に残っていた。
彼はそのせいか、気分が悪く、表情もやや蒼白となる。
書斎の扉を開けると、トリウスが出迎える。
「……来たか」
ルーフェは彼に、一礼する。
「今までお世話になりました。……本当に、ありがとうございます」
出る準備を終えたルーフェは書斎に行き、家の主であるトリウスへ別れの挨拶をしていた。
旅していた時と同じく、腰には剣を差し、厚いマントを身に纏っている。
そして、その表情と雰囲気も、前のように険しく鋭く、目的の為なら全てを犠牲にするという意思が感じられる。
だが以前と違い、そのルーフェの意思にはどこか不完全さが感じられ、顔には苦悩の色がちらついている。
これから待ち受けている事も、勿論その苦悩の、原因の一つだった。
…………しかしもう一つ、昨晩見た、あの夢の事もある。
昨晩の夢――それは今まで夢で見て来た、エディアとの記憶の果て――彼女の最後の瞬間だった。
今まで何度も忘れてしまいたいと思った、あの記憶。まさかその様子を再び見ることになるなんて――
ルーフェにとってそれは、あまりにも辛い記憶だった。
「ああ、無事を祈る」
一方、トリウスも短い別れの言葉を、ルーフェに返した。
「ラキサは外で待っている。最後に娘にも、別れを伝えてくれ」
そう、それが彼女との、別れの言葉になる。
そして…………別れた後は、どちらかが生きるか死ぬかの戦いだ。
「分かりました。彼女にも、ちゃんと伝えます」
ルーフェはそう言って書斎を後にした。
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