わがままシュガー

RIM

文字の大きさ
1 / 11
序章

序章

しおりを挟む

ざわざわとした大学の食堂の四人席で、私はうとうとと船を漕いでいた。



昨日はよく眠れなかった。

――いや、ただ眠れなかったわけじゃない。

と、額をピンと弾かれる指先に、少しだけ意識が覚醒する。



「そんなんじゃあー、八宝菜の中に顔面から突っ込んでいっちゃうよー? 和香ちゃあん」



にやっと意地悪気に笑うその赤髪ギャルは、諸悪の根源だというのに、酷く楽しそうに笑う。

するとそれに気付いたように、その人の隣にいた女――鞠が、私の頬をつんつんとつついてくる。



「どしたぁ、のど? 寝不足?」

「和香、眠りたいなら食べ終わってからにしなさいよ」



私の隣に座っている緑までもが、私の心配をし始める。



「あーしが、あーんてしたげよっかぁ? ふふっ」



自分のことを、『あーし(あたし)』と呼ぶこのギャルが……ギャルなのに、ギャルだったはずなのに……と、働かない頭で昨日のことを思い出してまた眉間に皺を寄せる。



諸悪の根源の言葉を無視して、八宝菜のゆで卵を箸で持ち上げようとするけれど、つるんと滑ってキャベツの上に逆戻りする。

私の心は早くも折れそうだった。

掴めないこのウズラの卵のように、理解がつるんと滑って手に取れない。



それもこれもみんな、諸悪の根源である――佐藤蜜、アンタのせい。

けれどそのことは他の二人は知らないから、私だけが騒ぎ立てるわけにもいかないし、眠いし、面倒くさいし、眠いし……。



「とりあえずー、今は喉詰まったら危ないから一旦起きときなー? ほい、あーん」



そうして瞼がほとんど落ちている私の口の中に放り込まれたのは。



「!!???!?!?」



口の中がジュワァッと熱くなり、唾液の分泌が強制的に促進されるくらいに塩分濃度の濃い、梅干しだった。



「はい起きた」



満足気に微笑むその顔を涙目で睨んでから、再び八宝菜とにらめっこする。



酸っぱいのを通り越して、もはやしょっぱすぎて口の中が痛い。

早く食べて、休める所に行こう。



「しょっぱすぎて味がわからなくなったんだけど」

「ごめんごめん、でもちゃんと起きられたっしょー?」

「一生恨む」

「ありゃりゃ」



昨日のことと合わせて、絶対一生恨んでやる。

面倒くささで相殺なんてさせるもんか。

相殺されてしまいそうなのが私の怖いところではあるけれど。



「怠惰担当の和香がここまで言うなんて、珍しい。佐藤なんかしたの?」



勘のいい緑が、そうギャル――改め、佐藤に尋ねると、目をまんまるにして緑に目を向けていた。

まて、なんだその「え、なんのこと?」みたいな顔は。



「別になぁんにも? え、和香、あーしなんかしたぁ?」

「……っ」



こんの、諸悪の根源ギャルが。

こんな人の多い所で、怠惰で面倒くさがりな私が説明しないのをわかっててそういう――もういいや、疲れた。



「はやく寝たい」

「そうやってまた面倒くさがるんだから」

早くも食べ終えていた緑が、片肘をついて溜め息を吐く。



「まぁ喧嘩じゃないならいいわ」



むぐむぐ、頑張って味の感じにくくなった八宝菜を口に詰め込んでいく中、私は昨日起きたことをまた無意識に思い出していた。





『あーし、男なんだよねぇ』

『は……?』





大学三年、夏の始まり。

それは飲み会兼カラオケの後、ヘロヘロにそこそこ酔っていた私の頭を覚ますには強烈すぎる告白だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません

藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。 ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。 「君は分かってくれると思っていた」 その一言で、リーシェは気づいてしまう。 私は、最初から選ばれていなかったのだと。 これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。 後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、 そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

処理中です...