11 / 11
終章
終章
しおりを挟む人生、何があるかなんてわからない。
誰が、元ギャルだった女装男子の友達と正式に付き合うような学生生活を予想できただろうか。
少なくとも私は、しばらく彼氏は出来ないと思っていた側の人間だった。
ざわざわとした大学の食堂の四人席で、私はまたうとうとと船を漕いでいた。
昨日はよく眠れなかった。
――いや、ただ眠れなかったわけじゃない。
と、額をピンと弾かれる指先に、少しだけ意識が覚醒する。
──────ちょっと待って、このモノローグ、デジャヴなんだけど。
「今度はあんかけ焼きそばに顔面から突っ込む気ですかぁー?和香ちゃあん」
「デジャヴ」
「のどまた寝不足ー?」
「眠りたいなら食べ終わってから――って、これ前の時も言ったわ。今度は何?佐藤がなんかした?」
じっと見つめられる三人からの視線に、私は緩やかに首を横にふりふり、振った。
今回ばかりは彼だけのせいに出来ない。
彼女になったことにドキドキし過ぎて眠気が少しも湧かなかっただなんて……。
「アンタ昨日何してたのよ」
緑が彼に聞くけれど、やれやれのポーズをして私を向く。
「いや、付き合うことになっただけなんだけどね?ちょっと話してすぐ帰ったし?」
「……っ」
公開処刑だ、こんな、今のタイミングで言わなくても……。
そう思ってるのに、思いの外二人の反応は薄かった。
緑はともかく、鞠が大人しいなんて珍しい。
流れるように梅干しを鼻の頭に近付けてくる彼氏のせいで、口の中でみるみる唾液が広がってくる。
なんでいつも持ち歩いてんだ。
「まぁそうなってくれないと、昨日の私が報われないしね」
そう言った緑が私にふっと笑う。
お世話おかけしました緑さん、マジ姉御。
「ふふ!チョコレートケーキっ」
鞠はどうやら私たちが付き合ったことよりもチョコレートケーキをおごってもらう約束の方に意識が向いていて、さほど騒がないで済んでいるらしい。
まぁ、『うまくいったら』なんて、さすがにこれから付き合うよっていう宣言と変わりなかったからね。
口の中に放り込まれた梅を顔中に全力で皺を寄せつつ食べると、多少頭がすっきりした。
なんだこの現象、塩分の力か、それともあまりの酸っぱさに体が危機を感じているのか。
ちなみにタルトとチョコレートケーキは次の日曜日に買って四人で食べる予定になった。
付き合ってもなお四人での関係を大事にしてくれる氷が、大好きで仕方ない。
付き合うと同時に、緑に教わりながら自分を認めるための訓練もすることになった。
曰く、『自信がなくて不安定なままだとすぐ別れることになるわよ』なんて脅し文句に、私は秒で屈したのだ。
身に覚えがあり過ぎたのである。
ファーストステップとして、『~と感じた自分がいる、ということに気付いた』というような、意識と感情の間にワンクッション入れるような客観視の練習から、口酸っぱく指導されている。
つまり、『自分と佐藤が釣り合わない、と感じている自分に気付いた』という感じ。
感情に呑み込まれないための練習からスタートだ。
私だって、氷の為に頑張りたいから。
いつも通り、途中まで四人で一緒に帰り、途中から氷と二人になる帰り道。
手を重ねてきたのは、氷からだった。
それを絡めるようにきゅっと握り返したのは私。
恥ずかしさも込み上げる中、私は氷を見上げる。
その視線に気付いてくれる氷が、優しく微笑む。
「氷、あの」
「なぁに?」
「今日……家、寄ってかない……?」
思い切った私は、提案する。
だって男版の佐藤氷に慣れていなかったから、私はドキドキしすぎて寝られないなんて状態になってしまっていたのだ、きっと。
それなら慣れる時間が必要なのではないか。
──そう思って提案したのに、氷は顔を固めたまま返事をしない。
「ひょう?」
「……誘ってる?」
「……誘っては、いる、けど」
「いや、ニュアンスが……誘惑が……」
どうやら誘惑と戦っているらしい彼に、私はハッと気付く。
そうか、もう友達の関係じゃないから、そういうことも…………。
私は再度、緊張した面持ちで口を開く。
「……ちょっと、なら……いいよ」
「………………それってどれくらい?」
どくどく、激しくなる鼓動、熱くなって求め始めてくる体に、私も、その、そろそろしたい、もので……。
「あ、の……」
「うん」
「……………………キス、なら」
「……わかった、今の覚えとけよ?」
そう、ちょっぴりなにかに怒っているような?彼を不思議に感じていたけれど。
私の部屋に着くなり、今日は深いグリーンのネイルをしていた指先で項を撫でられ、とびきり甘くて深い愛を、息苦しくなるほどに注いでくれたのだった。
「…………ぁ、まっ……、…………っふ……」
「もっと溺れて……のどか」
それはそれは、無茶ぶりの激しい
わがままな佐藤さんのお話
『わがままシュガー』/ fin.
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる