学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀

文字の大きさ
1 / 49

 第1話 愛の告白は脅迫だった

しおりを挟む
「で? どうするの? 彼氏になってくれるの?」

 校舎裏に呼び出された俺、中村健太は、いきなり難題を吹っかけられ返答に窮していた。

「あの……言ってる意味がよく分からないんだけど」
「だから、健太は私と付き合いなさい!」

 目の前には学校一の美人、姫川菜乃。
 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気を持つ女子だ。

 見た目の美しさと凛とした雰囲気もあって、女子生徒には大人気で取り巻きがいるほど。
 今まで多くの男子生徒が告白し、ことごとく散っていった我が校で最も高嶺の花。

 さっき姫川菜乃に呼び出されてふたりして校舎裏への移動中も、やじ馬が凄くて彼女が解散させていた。

 そんな彼女からの告白。
 普通なら小おどり必死な展開だ。

「姫川さんがなんで俺なんかを⁉」
「決まってるじゃない! あなたを好きだからよ!」

 彼女は俺のことを好きだと言うと、急に恥ずかしくなったのか、頬を染めて顔をそらした。

「好き!?  姫川さんが? 俺を⁉」
「菜乃って呼んで」

 この会話だけなら普通に告白されたように見えなくもない。
 ちょっとツンな激カワ美女が、この告白を機に俺だけにデレていく、そんなパターンなら普通にこちらから願ったりなんだけど。

 なにせ俺はついさっき、想いを寄せる幼馴染みの美崎カレンにフラれて絶望したばかりだ。
 いや、フラれたというのは正確じゃない。
 カレンに彼氏ができたと言われたのだ。
 だから、もう一緒に帰れないと。

 ずっと好きだった美崎カレン。
 物心つく幼稚園のころから彼女だけを見てきた。
 なのに彼女は俺以外と付き合うという。

 俺は恋心を伝えてはいなかったが、同じクラスで仲良く過ごしていたし、この先もこんな日々が続くんだろうと思っていた。
 でもそんな未来はもう来ないと今日判明したのだ。

 絶望真っ最中だった俺に、なんと我が校のアイドル、姫川菜乃が救いの手を差し伸べた。
 正直、ずっと好きだったカレンのことをすぐに忘れられやしない。
 が、それでも誰かに好意を向けられると救われる。

 しかも好意を寄せてくるのが、学校一の美人。
 普通なら、こんな素敵な話を逃す手はない。

 だけど、彼女の告白は普通じゃなかった。
 姫川菜乃は俺を脅迫して、恋人同士の付き合いを要求したのだ。

「な、菜乃さんそれって……」
「呼び捨てされたい。お願い、菜乃って呼んで」

 こんな美人に上目遣いで頼まれて断れる訳がない。

「ねえ……菜乃。それ断ったら……どうなるの?」

 まだ少し頬の赤い彼女は俺の顔をじっと見ると、勝ち誇ったように笑った。

「言ったでしょ、健太が困ることになるわよ」
「どう困るのかが分からないよ。もう一度教えて。恋人になるのを断ったら、菜乃はどうするの?」

 俺にはどうしても彼女の主張の意味が分からない。
 なのに菜乃は脅迫してるつもりのようだ。

 俺が改めて問うと、菜乃は最初に脅迫したときと同じようにいたずらっぽく笑った。

「付き合わないと、私、迷惑系Vtuberになるわよ」

 分からない。
 これで俺がどうして困るのか。
 だいたい迷惑系Vtuberってなんだ?

「どう困るの?」
「教えてあげないわ」

「うーん。そもそも菜乃はVtuberなの?」
「それは明かせないわ。身バレの危険がある告白は絶対ダメと事務所から言われてるの」

 そんなのもう明かしてるのと同じじゃないか。
 菜乃は隠しごとができないタイプか?

 それにしても、好きなはずの相手を困らすぞと脅迫するのは怪しすぎる。

 俺はずっと好きだった幼馴染みのカレンに彼氏ができたと知って、ついさっきショックを受けたばかりなんだ。
 この上、変な冗談でカラかわれたら、ダメージが深刻すぎて明日から学校に通う気力が湧かないだろう。

「もしや、なんかの罰ゲームで俺に告白してる?」
「私、相手に悪いからそういうことは絶対しないの」

 罰ゲームでも、ハイそうですと言わないだろう。
 だけど彼女の眼は嘘をついているように見えない。
 人をからかったり、馬鹿にすることが本当に嫌そうに見えた。

 でも迷惑系Vtuberとか、訳の分からないことを言ってくるのも気になるし。

「菜乃みたいな美人と付き合うなんて嬉しいけど、俺まだ君のことをよく知らないし、まず友達から……」

 不審に思った俺がはぐらかそうとすると、菜乃は悲しそうにうつむいた。

「私じゃダメ、なのかな?」
「あ、いや、そういうことじゃ! ほら、俺はまだ菜乃のことをよく知らないし」

「幼馴染みの美崎さんが好きだから?」
「そ、それは……。好きだけど付き合ってる訳じゃないし……関係ないよ!」

 カレンと付き合ってるのが俺じゃない事実にイラついて、ムキになって否定したら菜乃が落ち込む。

「やっぱりそうなんだ……」

 菜乃は俺がカレンを好きだと知っていた?
 いや、好きなんだと推測したんだろう。
 俺とカレンはクラスであれだけ親しくすごしてるんだ、その様子を菜乃が見ていても不思議じゃない。

「カレンには彼氏ができたんだ」
「え? そうなの?」

「だから俺は彼女をすっかり諦めたんだ」

 なぜだか分からないが、カレンに彼氏ができたことを伝えてしまった。
 本当は俺が言いふらすことじゃないのに。
 だけど、誰よりも美しい菜乃が、悲しそうにうつむく姿を俺は見ていられなかった。
 だから、本当はカレンのことを諦めきれないのに、すっかり諦めたと嘘をついた。

 カレンを諦めたという俺の言葉に、菜乃の顔は花が咲いたようにぱあっと明るくなった。
 笑顔の彼女に俺はたじろぐ。
 そして、息が止まるほど緊張した。
 笑った彼女はとんでもなく美しかった。

「じゃ、じゃあ、私のことを知ってもらえたら、健太は付き合ってくれるの?」
「そ、そうなるのかな? とりあえず友達から……」

「なら善は急げよ。今日私の家に来て!」
「ええ!? 今日!?」

「そしたら迷惑系Vtuberのこと、教えてあげる!」

 魅力的な彼女の気になりすぎるセリフのせいで、放課後の俺の予定が決まった。

「なら、カバンを取りに教室に戻ろう」
「一緒に行きましょう」

 教室には掃除当番のカレンがいるはず。
 彼女は帰る相手ができたと俺に言った。

 だから一応、俺も伝えてやるんだ。
 俺にも一緒に帰る相手がいるから気にすんなって。
 誰もが認める学校一の美人と一緒に帰ると!
 まあ、菜乃と帰るのは今日だけだと思うけど。

 大好きなカレンへの精一杯の負け惜しみだ。


----------

※「お気に入りに追加」していただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

処理中です...