学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀

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第34話 幼馴染みの実力と策略

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 Vtuber瀬戸内オレンジを演じる事務所の先輩、たちばなあかりさんが俺と菜乃を呼び出した。
 何やら相談があるらしいが、なぜか直前になり瑠理が急用で一緒に行けなくなった。
 事務所へ行くと、橘さんは俺に優しく菜乃に敵意を向けて会議室に案内する。
 そこには、なんと部外者のカレンがいたのだった。

「健太ー、お疲れー」
「カ、カレン……だと!?」

「だとって何よー。まあ驚くのは分かるけどねー」

 カレンは偉そうに椅子にふんぞり返って、俺に軽口をたたく。
 彼女はそのまま顔だけ菜乃の方に向けると、キッと睨んだ。

「さあ、覚悟しなさいよッ! この泥棒猫!!」

「カレン! 泥棒猫って菜乃のことか⁉」
「えー! 名前呼びとか!? もうこんなに健太をたらし込んだんだー! 私の健太を泥棒しやがって!」

 俺がカレンを問いただすが、あくまでカレンの矛先は菜乃らしい。
 俺に反応しても、不満をぶつける相手は菜乃だ。

 カレンの態度に菜乃も黙ってはいない。

「美崎さん、何でここに? 事務所へは関係者しか入れないのに……」
「馬鹿ねー。そんなの私がVtuberに興味あってー、あかりちゃんが事務所で教えてくれるって言ったからじゃない! そんなことも分からないのー?」

「Vtuberに興味があるの? 信じられない!」
「信じなくてもいいしー。それよりあんた、お気に入り登録者数がゴミのくせにイキってんだって?」

 カレンが菜乃へ思い切りケンカを売ってくる。

「……ゴ、ゴミじゃないよ」
「素人と大差ないくせに、イキってんじゃないしー」

「いえ! 私だって最近増えたわ」
「じゃあー、登録者数で勝負しなさいよ」

「でも、美崎さんは動画サイトの登録者なんていないでしょ?」
「馬鹿にすんな! あんたと違う動画サイトに登録者いるしー。別にあんたと同じサイトに合わせなくてもいいでしょー?」

「まあ、違うサイトじゃ私も登録者いないけど」
「あんたの相手は私じゃないし。まずは私の言いなりだったクセに立場を忘れた健太! 私と登録者数で勝負しなさいよ!」

「は? なんで俺が勝負しなきゃいけないんだ?」
「健太は仮にもプロの配信者でしょ? なのに逃げるの? 素人の私には敵わないから?」

 お決まりのカレンの挑発だ。
 彼女のペースにはのらない方がいい。
 配信と関係ない非公式の勝負に意味はないし。
 だけど俺だって一応デビュー済みのプロ。
 逃げたとあっては『カワイイ総合研究所』の看板に泥を塗る気がする。
 カレンのことだ、何か勝算がありそうだが。

「カレンもさ、わざわざ事務所まで乗り込んでこなくても、学校で話せるじゃないか」
「うるさいわねー。学校の外じゃないと都合が悪いのよ!」

 学校だと菜乃の味方ばかりで、カレンには分が悪いんだろう。
 それにカレンの味方をしてるたちばなさんも、生徒ではないから学校の中では味方になれない。

 俺はカレンをいさめたが、例によってまったく引く気がない。

「俺が勝ったら帰ってくれるか?」
「いいわよー?」

 勝負してカレンが満足するなら仕方ない。
 勝負してやる。

「ねぇ、健太。こんな勝負受けなくても。それに美崎さんが私たちの正体を知るのはマズいんじゃ……」
「菜乃。俺とカレンの関係は幼馴染み。ただ単に逃げるわけにはいかない。それに俺たちの正体は、もうたちばなさんが話してるみたいだ」

 話を受けて菜乃がたちばなさんを見ると、彼女はそれへ応えるようにニヤニヤと笑った。

 橘さんは一体何を考えてんだ?
 俺や菜乃は同じ事務所の後輩なのに。

 俺とカレンは、スマホで自分の登録サイトを表示させて準備する。

「せーの!!」

 互いにスマホ画面を相手に向ける!

 菜乃とたちばなさんは、キョロキョロとふたりのスマホ画面を確認した。

 カレンは信じられないことに、チックタックの登録者が3万人にあと少しで届くほどだったのだ!

 少し前の俺では勝てなかった数字。

 菜乃の相手役としてヒールの役割しかする気のない俺は、SNSで何の宣伝もしていない。
 しかし、それでも配信事故をしたナノンと揉める新人としてデビューし、ルリアとアンナという事務所ツートップとコラボしたのはとんでもなかった。
 1万人でスタートした俺の登録者は、たった1週間、2回の配信で3倍の3万人を超えていたのだ。

 今日一日で1000人も登録者が増えている。 
 この前の歌劇アンナとのゲリラライブ配信で、勝手に噂になり、今日、登録者が3万人を突破していた!


 この勢いじゃ、数日後にはさらに増えてそうだ。

 だが驚いたのは、媒体は違えど素人のカレンもほぼ同数なのだということ。
 わずかにカレンの方が少ないが意外とやるな。

「俺の勝ちだな、カレン!」
「ええーー!? 昼より700人も増えてる!!」

「約束は守るんだぞ! さ、帰ってくれ」
「はあー? あんた何言ってんの? 素人相手にたった300人差で勝ったって言えるの? あんたプロでしょ? プライドないの? そーだよねぇ、あかりちゃん!」

 カレンに話を振られたたちばなさんは、呆れたように大げさにため息をつく。

「中村君。プロでそれはないわー。ちょっと栗原専務に可愛がられてるからって調子にのってるでしょ。もちろん、今の勝負はドローだからね!」

 悪意のあるその言葉で俺は言葉に詰まる。

「ふん。健太は静かにしてなさいよー。さあ、姫川携帯出して、2回戦するから!」
「え? 私も勝負するの? 私、そういうのはちょっと……」

 勝負を断ろうとする菜乃の言葉をさえぎって、橘《たちばな》さんが大きな声を出す。

「2対2だしちょうどいいじゃない! チーム戦にしよ! 次は、姫川と私で勝負よ!」
「え、たちばなさんと私が勝負するの!?」

 たちばなさんの提案に菜乃が困惑する。
 続けてカレンも難色を示す。

「ちょっとー、あかりちゃんー!? 大丈夫ー⁉」

 すると、自信顔のたちばなさんがカレンとふたりで後ろを向いて、こそこそ相談を始めた。
 こちらを向いたカレンがニヤニヤする。

「ねえ姫川! いいよねーそれで。ほら、負けたらおとなしく帰るしー。その代わり、こっちが勝ったら健太から手を引きなさいよー?」
「断ったらどうなるの?」

 菜乃がカレンの顔を見る。

「秘密が秘密じゃなくなるかもねー」

 カレンの奴!
 それはVtuberの正体をさらすということか!?
 はっきり言わなくてもそういうことだろう!
 最悪、俺は仕方ないにしても、菜乃がVtuber活動を続けられなくなるのは困る。

 俺が菜乃を見ると、彼女は力強くうなずいた。
 彼女も意味を理解してか、勝負を覚悟したようだ。

「私だってファンが急増してる。だから安心して」
「分かった!」

 菜乃は勝てない無謀な勝負をする娘じゃない。

「大丈夫。私の計算じゃたちばなさんよりも、登録者が多くなってるはずよ」

 俺は、橘さん演じるVtuber瀬戸内オレンジを知っている。
 ギャル系Vtuberは俺の趣味と合わないのでほとんど観ない。
 だが彼女とあいさつした3週間前に、どんな人かチェックした。
 お気に入り登録者15万人くらいだったと思う。
 対する菜乃演じるVtuber聖天使ナノンは、少し前でお気に入り登録者14万人くらいだ。
 1万人の差は大きい。
 普通に考えればたちばなさんの勝ち。
 だが、最近は迷惑系の活動でナノンの登録者が爆増している。
 ほんの数日あれば、立場が逆転しているだろう。
 情報があれば勝負しないはずだけど、カレンはなんで勝負に乗り気なのか??
 何か裏がある?

 今度は菜乃と橘《たちばな》さんが、スマホで自分の登録サイトを表示させて準備する。

「せーの!!」

 互いにスマホ画面を相手に向ける!

 俺とカレンが、キョロキョロとふたりのスマホ画面を確認した。
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