学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀

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第44話 幼馴染は教室を巻込む

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※この話だけカレン視点です。

 計画は完璧なはずだった。
 オタク事務所へ乗り込んで、ちゃんと姫川の自信を打ち砕いてやったんだ。
 あの女、かなりのダメージを受けてた。
 ざまぁ見ろだわ!
 復讐の計画は、途中まで上手くいってたんだ。

 でも最後には、無様にも警備員たちに追い出されるハメになった。
 それもこれも、全部たちばなあかりのせいだ。
 あいつが役立たずのゴミだから、私の完璧な計画が崩れたのよ!

 数日間、私は眠れないほど悔しい夜を過ごした。
 いつか姫川を追放してやる、健太へ近寄らせないようにしてやる、そればかり考えた。
 むかつくあのオタク事務所を調べてたら、あの3人が一緒に配信すると知った。

 情報収集のつもりでその配信を見終わって、健太に電話した。
 分かったことがあるからだ。
 だから健太に、面と向かって話をする時間をとらせるために。

「あ、健太ー? 私よ、カレン。電話とか久しぶりー。今、あんたの配信見てやったよー。それでさー、ちょっと話があるんだよね。Vtuberだっけ? うん、そう、そのことで。あ、断るとかいい根性してんねー。私ー、知ってんだよ? あのアニメキャラの正体が姫川だって。私次第じゃあいつ、学校来れなくなるかもよ? そうそう、最初からそう素直になればいいのよ! んじゃ明日ー」

 私は健太の配信を見てピンときた。
 やっと分かった。

 健太の本心は違う。
 別に姫川が好きな訳じゃないだ。
 栗原なんかに興味ないんだ。

 健太はただ、アニメキャラのゲーム配信に惹かれてるだけなんだと。

 なるほどね、と。

 そういえば健太は以前から、ああいうアニメキャラみたいのが好きだった。
 ゲームもメジャーじゃないのに熱中していた。
 ラノベとかいうキモイ表紙の小説を買って、嬉しそうに読んでた。
 健太はオタアニメが好きで、マイナーゲームが好きで、キモイ小説が好き。
 だから姫川とか栗原と一緒にいるんだ。
 そんなものに私が興味ないから、オタ友が欲しかっただけなんだ。

 だから、姫川を追放するだけじゃなくて、私も少しは健太の好きなオタク向けのアニメやゲームを理解してやるかと。
 ……嫌々だけど。

「ふーん。オタクの芸能事務所って結構たくさんあるんだねー」

 この私が敵を倒すだけじゃなく、健太に話を合わせてやるために、オタク会社まで調べることになるとは。
 まあこれも、健太を奪い返すためだ。
 盗られたものは絶対に取り返す。

 私は幼馴染みとして初めて、健太のキモイ趣味に合わせてやるかと、かなり寛大な気持ちになった。



 翌日、いつも通りに学校へ行った。
 でも健太と話すのはすぐじゃない。
 昼休みと決めている。

「おはよー、健太ー」
「おはよう、カレン。あの、話って何?」

「まあ、待ちなよー。ちゃんと話したいから昼休みにしたいんだー。だから今日は、姫川や栗原と屋上に行くの、やめなさいよ?」
「え、知ってたんだ……」

「フン、私をなめないで欲しーなー。とにかく幼馴染みとしてじっくり話がしたいからさー、昼休みに教室で話そうよー。いいよね?」
「昼休みにここでか? 一体何の話を?」

「この教室でよ! 内容は男女関係の話だしー!」

 ワザと大声で言ってやった。
 栗原に聞こえるように。
 クラスの奴らに全員に聞こえるように。

 ほら、やっぱりだ。
 栗原の奴、平気なふりして慌ててメッセージ打ってる。
 たぶん姫川へ連絡してんだわ。
 あはは、予想通りの行動で面白っ。
 クラスの奴らもざわついてるから、きっと私たち幼馴染みのやり取りに注目してるのね。
 狙い通り、昼休みは教室が満員御礼になりそう。
 たくさんのギャラリーもいるし、楽しみだわ。



 そのまま何ごともなく午前の授業が終わった。

 クズ教師の話を聞くのはいつも苦痛だけど、今日は昼休みが楽しみであっという間だったな。
 さあ、断罪イベントの開催よ。
 まず健太を私の近くに座らせるか。

「ねえ、あんた邪魔。どっか行ってくんない?」
「え、あ……うん」

 私は前の席の眼鏡陰キャ女をどかす。
 もちろん健太をこちら向きに座らせるためだ。
 健太は私の所まで来ると陰キャ女に声をかける。

「ごめんね、俺のせいで。なるべく早く終わらせるから。よかったら俺の席使って」
「ありがとう、中村さん! 私は平気だから。それより……頑張って!」

 あ、あいつ!
 今、私の健太に色目使いやがった!
 クソ!
 どいつもこいつも気に入らない!
 健太は子供の頃から私のものなんだよッ!
 幼馴染みが独占していいのは世間の常識。
 そんなことも言わないと分かんないのかしら。

 クラスの奴らは、ほとんどが教室で昼ごはんを食べるようだ。
 いつもなら半分は中庭とか部室とかよそで食べるのに、よっぽど私と健太の話を聞きたいらしい。
 近寄ってこないけど、みんなが聞き耳を立ててる。

 でもそんな奴らと違って、こっちに来る女子がふたりいた。
 由紀子とメグだ。

「カレンてば面白そうなこと始めるねー」
「幼馴染み同士のすれ違い? もしや今から修羅場とか? ちょっとこれは見逃せないしー」

 普段ならアホでバカなこのふたりから離れたい。
 一緒にいると私までバカに見えるから。
 だけど今なら大歓迎。
 こいつら、臆せずいい感じで場を煽るんだよね。
 バカとハサミは使いようとはよく言ったもんだ。
 でもこのバカたちに、話の流れは伝えてない。
 あの橘あかりみたいにヒヨられたら最悪だからだ。

 そうこうしていると、教室の引き戸が勢いよく開いた。

「健……中村さん! 美崎さんも栗原さんも教室にいるわね。あ、みなさん、すいません。友達とお昼食べたくて、ちょっとお邪魔しにきました」

 来たな姫川ッ!
 教室ひとつはさんで離れてるのに、わざわざ出しゃばってんじゃねーよ!
 ほら、ウチのクラスの連中、あんたの強引さにドン引きだよ?
 うふふふふ、でもね?
 待ってたのよ、私はあんたを!!
 これからおまえの弱みで健太を脅す。
 みんなの前で追い込んでやる!

 健太の口からおまえと距離を置くって言わせて、絶望を味合わせてあげるわよ!
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