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プロローグ〜試験開始
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ある日、世界同時多発的に迷宮が現れた。
それは目に見えるものではなく、人の心に巣食う迷宮だった。
やがて迷宮症候群と呼ばれるようになったそれは宿主となった人の心を奪い、二度と目覚めなくさせる病気として認定された。
日に日に増えていく迷宮病の患者への対応に追われた政府はついに対策局を置くことに決めた。
それがここ迷宮管理協会、通称LAMAである。
我々は迷宮症候群の患者を一人でも多く救うために自己犠牲をもって……。
……………………………。
………………。
……。
──協会の成り立ちは以上になります。
目の前のプロジェクターによる光が消え、壇上にいる司会者のそんな言葉でようやく長々しい前置きの映像が終わった。
俺、不破陸は迷宮管理協会の登録試験を受けに来ていた。
迷宮症候群の患者が心に持っている迷宮に入る為には協会の貸し出す端末が必要だからだ。
その端末を装着して迷宮を攻略する事で迷宮症候群の患者が快復し、目を覚ます。
だから俺は今日ここで合格して、なんとしても迷宮を攻略する探索者にならなくてはならないんだ。
──続きましては適性試験に移らせて頂きます
来た。これが最難関と言われている探索者になるための試験だ。
探索者は人の心に入るという性質上、心の強さが求められる。
心が弱いと迷宮の持ち主の心に飲み込まれて二度と戻って来られなくなるからな。
ああ、心の迷宮に入っても現実世界に体は残っているから戻ってこられない、というのは意識の話だ。
これは世間的には意識の遭難と呼ばれていて、現実世界に残された探索者はその迷宮が踏破されるまで目覚める事がない。
しかも、踏破された直後に大半の遭難者はその心臓を止めるそうだ。
つまり心が折れて迷宮に飲み込まれれば死あるのみ、そう考えておけばいいだろう。
その為、適性を測る試験はかなり厳しくなっており、合格者は試験者の概ね1%程度と言われている。
ここの登録会場に集まっている人は目算でざっと300人程度だろうからこの中から2、3人の探索者が今日生まれるかもしれないという事だ。
その2、3人の中に入る、これがここ数年の……いやあの日からずっと掲げている俺の目標だ。
まずはこの適性試験を必ずクリアする、そう固く誓って試験を待つ列に並んだ。
「はい、次の方ー」
何列かに分かれて並んでいると、次々と試験が行われていく。
実際に模擬用のデバイスをつけて仮想迷宮に入る、というような試験だ。
受けている人の反応は様々だった。
始まってしばらくすると涎を垂れ流して動かなくなる人や、途中で端末を振り払って中止を願い出る人までいた。
見ている限り、試験に通った人は今の所いないだろうと思えた。
そんな時、隣の列から歓声が上がった。
ふと、そちらを見るとどうやら適性試験を無事に終えたらしい試験者が端末を外す所だった。
赤毛のショートカットで……どうやら小柄な女の子のようだな。
立ち上がって控えめな胸を張るその姿は自信が漲っているかのようだ。
「はい、では貴女はこちらの部屋へどうぞ」
係員が他の人とは違う対応をしていることから、彼女はどうやら合格したのだろうと思えた。
女の子は並んでいる人達に高々とVサインを見せつけながら別室へと消えていく。
目の前であんなのを見せられたら俺も是が非でも合格をもぎ取るんだ、という気持ちになるな。
そして、ついに俺の番が来た。
椅子に座ると指先に模擬用のデバイスを取り付けられて、集中する為のゴーグルを被ると準備完了だ。
「それでは心を強く持って下さい、それが一番大事ですからね」
きっと試験者全員に言っているであろう言葉をしっかりと胸に刻んで一つ息を吐く。
よし、覚悟は完了だ。
「ではお願いします」
そう言うと真っ暗だった俺の視界が切り替わって──試験が始まった。
それは目に見えるものではなく、人の心に巣食う迷宮だった。
やがて迷宮症候群と呼ばれるようになったそれは宿主となった人の心を奪い、二度と目覚めなくさせる病気として認定された。
日に日に増えていく迷宮病の患者への対応に追われた政府はついに対策局を置くことに決めた。
それがここ迷宮管理協会、通称LAMAである。
我々は迷宮症候群の患者を一人でも多く救うために自己犠牲をもって……。
……………………………。
………………。
……。
──協会の成り立ちは以上になります。
目の前のプロジェクターによる光が消え、壇上にいる司会者のそんな言葉でようやく長々しい前置きの映像が終わった。
俺、不破陸は迷宮管理協会の登録試験を受けに来ていた。
迷宮症候群の患者が心に持っている迷宮に入る為には協会の貸し出す端末が必要だからだ。
その端末を装着して迷宮を攻略する事で迷宮症候群の患者が快復し、目を覚ます。
だから俺は今日ここで合格して、なんとしても迷宮を攻略する探索者にならなくてはならないんだ。
──続きましては適性試験に移らせて頂きます
来た。これが最難関と言われている探索者になるための試験だ。
探索者は人の心に入るという性質上、心の強さが求められる。
心が弱いと迷宮の持ち主の心に飲み込まれて二度と戻って来られなくなるからな。
ああ、心の迷宮に入っても現実世界に体は残っているから戻ってこられない、というのは意識の話だ。
これは世間的には意識の遭難と呼ばれていて、現実世界に残された探索者はその迷宮が踏破されるまで目覚める事がない。
しかも、踏破された直後に大半の遭難者はその心臓を止めるそうだ。
つまり心が折れて迷宮に飲み込まれれば死あるのみ、そう考えておけばいいだろう。
その為、適性を測る試験はかなり厳しくなっており、合格者は試験者の概ね1%程度と言われている。
ここの登録会場に集まっている人は目算でざっと300人程度だろうからこの中から2、3人の探索者が今日生まれるかもしれないという事だ。
その2、3人の中に入る、これがここ数年の……いやあの日からずっと掲げている俺の目標だ。
まずはこの適性試験を必ずクリアする、そう固く誓って試験を待つ列に並んだ。
「はい、次の方ー」
何列かに分かれて並んでいると、次々と試験が行われていく。
実際に模擬用のデバイスをつけて仮想迷宮に入る、というような試験だ。
受けている人の反応は様々だった。
始まってしばらくすると涎を垂れ流して動かなくなる人や、途中で端末を振り払って中止を願い出る人までいた。
見ている限り、試験に通った人は今の所いないだろうと思えた。
そんな時、隣の列から歓声が上がった。
ふと、そちらを見るとどうやら適性試験を無事に終えたらしい試験者が端末を外す所だった。
赤毛のショートカットで……どうやら小柄な女の子のようだな。
立ち上がって控えめな胸を張るその姿は自信が漲っているかのようだ。
「はい、では貴女はこちらの部屋へどうぞ」
係員が他の人とは違う対応をしていることから、彼女はどうやら合格したのだろうと思えた。
女の子は並んでいる人達に高々とVサインを見せつけながら別室へと消えていく。
目の前であんなのを見せられたら俺も是が非でも合格をもぎ取るんだ、という気持ちになるな。
そして、ついに俺の番が来た。
椅子に座ると指先に模擬用のデバイスを取り付けられて、集中する為のゴーグルを被ると準備完了だ。
「それでは心を強く持って下さい、それが一番大事ですからね」
きっと試験者全員に言っているであろう言葉をしっかりと胸に刻んで一つ息を吐く。
よし、覚悟は完了だ。
「ではお願いします」
そう言うと真っ暗だった俺の視界が切り替わって──試験が始まった。
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