迷宮症候群—Labyrinth Syndrome— <目覚めぬ最愛の妹を救うためならSSランクの迷宮だって攻略してやる>

梓川あづさ

文字の大きさ
1 / 9

プロローグ〜試験開始

しおりを挟む
 ある日、世界同時多発的に迷宮が現れた。
 それは目に見えるものではなく、人の心に巣食う迷宮だった。
 やがて迷宮症候群ラビリンスシンドロームと呼ばれるようになったそれは宿主となった人の心を奪い、二度と目覚めなくさせる病気として認定された。
 日に日に増えていく迷宮病の患者への対応に追われた政府はついに対策局を置くことに決めた。
 それがここ迷宮管理協会、通称LAMAラーマである。
 
 我々は迷宮症候群の患者を一人でも多く救うために自己犠牲をもって……。
 ……………………………。
 ………………。
 ……。

 ──協会の成り立ちは以上になります。


 目の前のプロジェクターによる光が消え、壇上にいる司会者のそんな言葉でようやく長々しい前置きの映像が終わった。

 俺、不破陸ふわりくは迷宮管理協会の登録試験を受けに来ていた。
 迷宮症候群の患者が心に持っている迷宮ラビリンスに入る為には協会の貸し出す端末が必要だからだ。
 その端末を装着して迷宮を攻略する事で迷宮症候群の患者が快復し、目を覚ます。
 
 俺は今日ここで合格して、なんとしても迷宮を攻略する探索者ダイバーにならなくてはならないんだ。


 ──続きましては適性試験に移らせて頂きます


 来た。これが最難関と言われている探索者になるための試験だ。
 探索者は人の心に入るという性質上、心の強さが求められる。
 心が弱いと迷宮の持ち主の心に飲み込まれて二度と戻って来られなくなるからな。
 ああ、心の迷宮に入っても現実世界に体は残っているから戻ってこられない、というのは意識の話だ。
 これは世間的には意識の遭難と呼ばれていて、現実世界に残された探索者はその迷宮が踏破されるまで目覚める事がない。
 しかも、踏破された直後に大半の遭難者はその心臓を止めるそうだ。
 つまり心が折れて迷宮に飲み込まれれば死あるのみ、そう考えておけばいいだろう。
 
 その為、適性を測る試験はかなり厳しくなっており、合格者は試験者の概ね1%程度と言われている。
 ここの登録会場に集まっている人は目算でざっと300人程度だろうからこの中から2、3人の探索者が今日生まれるかもしれないという事だ。

 その2、3人の中に入る、これがここ数年の……いやからずっと掲げている俺の目標だ。
 まずはこの適性試験を必ずクリアする、そう固く誓って試験を待つ列に並んだ。

「はい、次の方ー」

 何列かに分かれて並んでいると、次々と試験が行われていく。
 実際に模擬用のデバイスをつけて仮想迷宮に入る、というような試験だ。
 受けている人の反応は様々だった。
 始まってしばらくすると涎を垂れ流して動かなくなる人や、途中で端末を振り払って中止を願い出る人までいた。
 見ている限り、試験に通った人は今の所いないだろうと思えた。
 
 そんな時、隣の列から歓声が上がった。
 ふと、そちらを見るとどうやら適性試験を無事に終えたらしい試験者が端末を外す所だった。
 赤毛のショートカットで……どうやら小柄な女の子のようだな。
 立ち上がって控えめな胸を張るその姿は自信が漲っているかのようだ。

「はい、では貴女はこちらの部屋へどうぞ」

 係員が他の人とは違う対応をしていることから、彼女はどうやら合格したのだろうと思えた。
 女の子は並んでいる人達に高々とVサインを見せつけながら別室へと消えていく。
 目の前であんなのを見せられたら俺も是が非でも合格をもぎ取るんだ、という気持ちになるな。

 そして、ついに俺の番が来た。
 椅子に座ると指先に模擬用のデバイスを取り付けられて、集中する為のゴーグルを被ると準備完了だ。

「それでは心を強く持って下さい、それが一番大事ですからね」

 きっと試験者全員に言っているであろう言葉をしっかりと胸に刻んで一つ息を吐く。
 よし、覚悟は完了だ。

「ではお願いします」

 そう言うと真っ暗だった俺の視界が切り替わって──試験が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...