異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

文字の大きさ
31 / 59
第二章 魔族領編

第31話 海岸ルート

しおりを挟む
 転移する前の世界では縁の無かった海水浴を楽しんだ翌日、次の町に行くための準備として買い出しをした後は、駐屯地へと向かった。

 転送ポータルがあるので買い出しと言ってもほとんど買うものはないのだがこの街のワインは美味いので何本か買っておいた。

 駐屯地に行き、部隊長に今後の事と、次の町に行くために確認すべき情報がないかをライリーは尋ねる事にした。

「例の商人は王国には行かずにこの街で慈善活動と商売を続けたいとの事なので、今回は王国への移動の手助けは不要になった。
 俺たちはこれから次の町に行くことになるんだが、何か気を付けるような事があれば教えてくれないか?」

「なら、これから数日間はこの街から出て、海岸線を南下するわけだが、この街から次の町の中間地点以降からは水生モンスターと襲ってくるモンスターが徐々に出てくる。
 ライリーは見た事も経験した事もないだろうが、まあ、慌てずにな。お前のいる部隊は実戦経験が比較的、豊かなメンバーで構成されているから心配はない」

「そうみたいだな。あの抜けてる魔法士もまさかあんなベテランだとは思わなかった」

「あのブロンド美人の事だろ? 彼女は学生の頃から大火力魔法士として応援に行かされる事が何度かあったから見た目の割に軍隊経験が長い」

「何で冒険者ギルド登録じゃなくて王国軍登録なんだ? 学生でも軍属になるのか?」
「何でかって? 王国じゃあ、学生はそもそも危険な仕事には就けない。だから特例の王国軍登録しか出来ないってわけだ」

「そうなのか。軍人という感じもないし、軍服も着ていないし知らなかった」

「まあ、そうだよな。魔族領の軍隊とかじゃ、服も揃っているんだが王国は冒険者と軍人の違いは所属くらいなもので、両方に登録しているのも多いから見た目じゃ分からない事も多いな」

「なるほどな。適材適所な配置もスムーズに出来るし合理的だな」
「まあ、そう言うわけだが、この海岸ルートは潮風も気持ちがいいし旅行者にも人気のルートだから楽しめると思うぞ」

「そりゃ楽しみだ。この街にまた来る事になるのかは分からないが、ではまた」
「ああ。頑張ってこいよ」

 駐屯地の兵舎から出ると、すぐ横にある路地から声が聞こえて来た。男の子のような話し方だが少女のように見える。抱きかかえている猫は王国で見た妖精のように見える。

「僕がたまたま通りがかったから良かったけど、水路の網にいつも引っかかっているのは飽きないの?君を洗う洗剤もタダじゃないんだよ……」

「もうとっくに飽きてるにゃ。洗剤代はこないだ賭けに勝ったのにどうして無いのにゃ?」

「ポケットに穴が空いていて、財布にも穴が空いていて、銀貨が一枚を残して全部水路に落ちたみたいだ。家賃と食費でもう無いよ……」

「はあ……。こんなに運がおかしい娘は、何百年振りか分からないにゃ……」

 言っている事からしてクレールの仲間の妖精だろう。悪徳商人の近くに白猫がいたという報告があったがその猫だと思われる。話からして運が悪過ぎてどうしようもないので去る事にした。それにあの猫が居るという事はいずれは良い事が起こるという事だ。

 そして隊長に見届けられた後、馬車が到着しこのまま出発するというので乗り込もうとした時、いつ見ても揉めている三人組が道の向こう側にいた。
 今日くらいは大人しいのかと思いきや、酒に酔っているので更に揉めている。

「ちょっと! 何で朝から酔っぱらいながらその女と歩いてんの! この酒も何? これ高いヤツじゃない!」

「俺が稼いだ金で買ったんだからいいだろ! たまには良い酒を贅沢にかっ喰らって最高の女といい夜を過ごすってのが……!」

「うるさいよ!」

 彼の彼女? がそう言うと酒瓶を奪い、彼の頭を強打した。さすがに痛そうだが酔っているからか痛みを感じにくいのだろう。
 彼は次の瓶を取り出したかと思うと、飲みながら喚きだした。

「何すんだよ! もったいないだろ!」

「もったいない? アンタにこんな良い酒を飲ます方がもったいないよ! アンタの稼ぎじゃ半月でこの酒だと一本分くらいにしかならないじゃないの! それにその女よ! 何で酔ってんの!」

「彼がやたらと飲むから私も欲しくなったの。そのまま彼ともしちゃった。それにそんなにいつも怒鳴っているから彼も酒に溺れてるんじゃないの?」

「コイツはね、酒もだけど欲望に溺れてんのよ! あなたも何? 何で人の男と寝たのに平然としていられるの! そのままソイツと結婚して借金まみれになって苦しめ!」

 そう言うと、彼から飲みかけの酒瓶を奪い、少し飲んでから口に目いっぱい含んで彼女の顔に吹き付けた。

 しばらく地団駄を踏んでいたが、足が痛くなったのか瓶を道に叩きつけて帰って行った。

「旅立ちの日だというのに酷いものを見たな」
「でもライリーのいた世界じゃ日常茶飯事だったんでしょ?」

「俺の周りにはほとんどいなかったが、理不尽にモテる男はあんな感じの毎日を送っているのもいたな」

 どうしようもないなと思いながら馬車に乗り込み、窓から道で寝ている二人を眺めていると憲兵と魔術師がやってきてガラス片や汚れを魔法で片づけてから二人を馬車に放り込んで行った。

 怪我人を放り込むのはどうかと思ったが魔法で治したようで、憲兵が清掃料と治療費と罰金の切符を切っていたので、放り込まれた方の彼女? が払う事になるのだろうがそれで更に揉めそうである。

 そのまま街を出ると、海岸線に出た。しばらく進むと遠くに風車と農場が見え、カセムによれば大規模農場で収穫したものを風車を使って加工したり、水を引き揚げるために風車を使っているのでいくつか建っているのだという。

 訓練で一緒になった馬がこの馬車を引いているので、あの農場なら良い草があるんじゃないかと言ったら、それはどうかな? と答えた。御者台に来いというので行った。

「なあ、この馬車は俺の前の世界じゃ大型のキャンピングカーくらいの大きさがあるのに二頭の馬で引いているのが気の毒に思うんだが疲れないのか?」

「キャンピングカーが何の事かは知らないが、魔道具で地面から少し浮いているし、馬車の後ろに推進機関のようなものが付いてるだろ?
 これは俺たちが進もうと思うと連動して押してくれるから人、二人を乗せているくらいの重さしか感じないぞ」

「ああ。だから振動がほとんど無いのか。でもよ、それだと馬で引く必要がないと思うんだが?」

「あまり技術の進んだもので魔族領に行くとな、トラブルが多いんだよ。故障しても直せないし、奪われたら面倒な事になるし、それに最後には馬が残っていれば最悪の状況になっても脱出できる。
 俺たちみたいな馬は、戦場では様子を伺って兵士を回収して逃げ帰る事も訓練しているからそういう利点もあるぞ」

「なるほどな。兵力で圧倒出来ても準備を怠らないのは人を大事にする国だってのがよく分かるな」
「そういうことだ。さて、農場が見えて来たぞ。今日はあの農場に泊るって言っていたぞ」

「馬が居たら話が弾むんじゃないのか?」

「農場の馬だからな。どこの畑を耕したとか、街に何を卸したとかそんな話がほとんどだろう。でも近くの家とか、ここは大農場だから離れたところの管理小屋とかに浮気しに行くとかそういう話はあるかもな」

「だよな。この世界の馬はそういうのも細かく話せるから迂闊な事出来ないよな」
「この辺の馬だったら高級食材とかで黙ってるんじゃないか?」

「人参が好きなんだろ? 俺のいた世界じゃ馬は人参が好きなのが多かったみたいだが」
「さあ? それは馬によるから分からないな。俺は好きだけど」

 馬と話していると農場に到着した。カセムによればこの農場は中々、商売上手だそうで周囲に何もない事と観光に良いルートであるところを活かして宿泊施設を経営している。

 一行は馬を馬小屋に連れて行った後、宿へと入って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...