異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第二章 魔族領編

第30話 海でも激しい三人組

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 タコの唐揚げは程よい弾力と噛むごとに舌に広がるうま味と甘味がビールと最高の相性だと思う一品だ。しかもソフィアのような美少女たちとこうして浜辺で飲み食いするという贅沢は前の世界では夢のまた夢という言葉がピッタリの幻想だった。

「はい、ライリー、あ~ん」
「モグモグ……うまい! ソフィアもあ~ん……」

 バキッ!

 何かが折れた音が急にしたので音のした方を向くと、こないだの二股なのか何股なのか分からないが浮気がバレて女にコップを叩きつけられていた男がいた。

 前はコップだったが、今度は流木の棒を頭に叩きつけられ、それが折れた音だった。男は痛みに悶えているが女はそんな事は関係ないとばかりに畳みかける。

「アンタねえ! どうしてまたこの女と浮気しているの! こないだもう止めるって言ったばかりじゃないの。どうしてそんなにロクでもないの!」

「だから、今度は友達として海に泳ぎに来ただけだよ。夏の暑い日は海で泳ぐのが気持ちよくていいだろ?」

「え? どういうこと? 彼女と別れたから心を癒したいから海に行こうって言ってたじゃない。また嘘をついたの?」

「嘘じゃないよ。彼女は勘違いをしているんだ。俺は関係をリセットして新たな関係を築きたいって言ったんだ。だから恋人でもないし、彼女でもないんだ」

「何言ってんの! 俺の彼女はお前だけだって一昨日、ベッドで囁いていたじゃないの! どうしてそんなに言う事が二転三転するの! 嘘で塗り固められたその粗末なのを使えなくしてやろうか!」

「ちょっと! それはやりすぎよ。彼にもそのうち……いや、もう真人間にはなりそうにないかな」

「待ってくれよ! 俺だって一生懸命に働いて幸せな家庭を築き上げたいって思ってるんだよ。だからやり直そう! 俺には君が必要なんだ!」

『どっちの事を言ってんのよ!』

 そう言うと彼女らは同時に流木を彼の頭に叩きつけた。あれだけ強く叩いたら血が出るんじゃないかと思ったがどういうわけかコブが出来て気絶しただけで済んでいる。もしかしたら叩かれ慣れているのかもしれない。

 もしかしたら、たまたまあの三人の組み合わせを見ているだけで後をつけると更に何人かの女性を見る事が出来るのかもしれない。

「あれだけ叩かれて気絶で済んでいるんだから凄い頑丈な人だね」

「確かに凄いよな。何であんなにしょうもない嘘が次々出てくるのか。言えば言うほど都合が悪くなるのも分からないようだが?」

「ねえ、あのままにしていいの?」
「……よくはないな。あ、衛生兵が行ったな。馬車が近づいてきて……救護用の馬車なのかアレ」

 見ていると、どんな様子だったのかを衛生兵が馬車から降りて来た憲兵に話すと「どうしようもない男だな」と言いながら馬車に男を放り込んで行った。

「ねえ、ライリー。吟遊詩人のオディロンがあんな感じで馬車に放り込まれていたよね?」
「そんな事もあったな。あの時は酔いつぶれていたんじゃなかったか?」

「そうそう。それに仕事が無いって言っていたから紹介したのに”俺はそんな仕事は性に合わない”とか言って逃げたし」

「だよな。まあ、あの国では吟遊詩人でも十分に食べていけるから良いとは思うが、ネタを集めるための旅ではどうやって稼いでいるんだろうな?」

「う~ん。ベアトリスと恋仲だからもしかしたら王国の仕事の一つの情勢調査に関わっているのかもしれないね」

「何か、権力者の小遣い稼ぎって感じの仕事の感じがするな」

「ああ、昔はね。不正が酷すぎて国家事業になって、ギルドと交互に監査をしあうような仕事だったみたいだよ。今は不正をする必要が全く無いし、出来ないようになったからギルドに委託になったけどね」

「俺もそんな仕事だったらなあ」

「それはライリーはダメだよ。適正が全くないし」

「そりゃこの世界の住人じゃ無かったんだからある訳ないな。今でも分からない事だらけだ。でもソフィアが最高の女だって事は分かるぞ」

「ああ~! 急に恥ずかしいよ。ライリーはさっきの男の人みたいな事をしないでね?」

「ああ、ないない。あれは共依存状態だからな。三人が常に依存しあっているんだろう。最初の彼女と思われる女と付き合っている状態だと、女の気配がするからモテるようになる。
 その後、二人目の女と過ごす事で女はモテる男と過ごしている自分に酔いしれ、男は侍らせている事で自分が特別な人間かのような優越感を得られる。お互いが良くない心地よさを味わいながら過ごすってわけだ。結婚したらしたで借金、不倫、訴訟地獄……。どっちも結婚した事を後悔するってわけだ」

「だからないんだね。それに前にそういう関係になりやすい人はライリーを避けるって言っていたし」

「そういう事だな。でも友人たちはあんな感じの関係をしているのを何度か見た事があるし、羨ましいなって思ったよ。何で俺だけ蚊帳の外なんだろうってな。
 だってよ、あんな共依存状態なんだから俺に依存してくれてもいいんじゃないかと思うだろ?」

「確かに不思議だよね。前の世界でもその顔だったんでしょ?」

「変わってないはずだし、歳が一回り以上離れた女友達もイケメンだし女学生と付き合っていても違和感が無いって言っていたな。その友人もあまり良いとは言えない関係の男がいた」

「さっきの魔法士の人はどうなんだろう?」
「呼んだ?」

「呼んではないんだけど、さっき、三人組が激しく言い合っていたでしょ? 私とライリーとあなたがあんな関係になったらどうなるのかなって思ったんだ」

「そうねえ。私はごはんを作ってもらうかな。そのお礼に耳かきとかしてあげて、寝るまで膝枕をするとかどうかなって思う」

「う~ん。少しそれっぽい気配が……」
「きっと大丈夫だよ。きっと良い関係になるよ。ね、ライリーさん」

「まあ、俺に寄ってくる地点で大丈夫そうだしな。そのうちおかしな男に引っかかって”私はこの街に残る”とか言い出さないようにな」

「それってナンパされたりって事ですか?」

「それだけ美人なんだからあるだろ?」

「この街に来てからは無いと思います。ほとんどの人が私の胸と顔を交互に見た後に去っていきます」

「ああ。美人過ぎて諦めるんだろう。かなり上品な雰囲気もあるし」
「そうなんですか? 私は平民出身です」

「そうなのか? 王族でも違和感が無いように見えるんだが?」
「私もそれは思ったよ。もしかしたら王族の血が混じっているのかもね?」

「そういえば、私の先祖がどこかの国の王族だったとか言っていたような気がします。もう何百年も前の話なので考えたところでしょうがないって両親も詳しくは知らないようでした」

「まあ、そんな人は探せば幾らでもいるだろうから確かに考えたところでしょうがないな」

「そうだよねえ。私の家もそういうのがあったみたいだけど考えたところでしょうがないもん。魔族領だと、歴史あるなんとか家がどうのとか言うのがステータスって聞いたけど」

「俺の前の世界もそんなのだったな。どうせならお金持ちの家に生まれるんだった。あ、そうそう。こうやってバカンスを過ごしているわけだが、次の町に行くのはいつなんだ?」

「え~と、確か、明後日だったと思います。この街での任務は早く片付いたので次の街も早く終わるといいんですけどね?」

「厄介な街なのか?」

「隊長とこの街に来た時に言っていた町に向かいます。治安がかなり悪いし、そこら中に悪人がいるので情報を探るのも慎重にしないと敵に情報が流れるし、厄介ですねえ」

「もしかしてこうやって行軍するのは何度目かなのか?」

「はい。もう十年以上やってます」
「人は見た目によらないな」

 話していると、夕日が沈む美しい浜辺の景色になったのでしばらく眺める事にした。しばらくすると日も沈み、暗くなってきたので片づけて宿に戻る事にした。
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