異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第二章 魔族領編

第29話 大食い魔法士と海水浴

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 一仕事終え、脅威も去った暑いある日。前の世界では恋人と海水浴に行くという事など無かったなと思いながら朝の散歩をしていると、砂浜で海水浴をしている人々がいた。
 どうやらこの世界でも海水浴はするようで、水着も前の世界とほぼ同じなのでカセムに俺たちは泳がないのかと尋ねた。

「商人の件も片付いたし、後は移動準備を少しするくらいだから海水浴もいいな。ちょうど金網もあるし、この砂浜にはタコとかがいるから捕まえて一杯やるのも最高だな」

「そりゃいいな。ソフィア、俺は前の世界じゃ恋人と海水浴に行くとかが出来なかったので行こう!」

「うん! 皆で行こう」

 国に水着と小型のコンロと鉄板焼き用の鉄板を送ってくれというとポータルを通じてすぐに送られていたので何と手間のかからない事かと感心していると皆、準備が出来たというので砂浜に向かった。

 ちょうど良い夏の日差しに白い砂浜、青く透き通った美しい海。前の世界じゃとてもじゃないが縁がなさそうな場所だ。
 しかもソフィアも相当な美少女だが、部隊には女性も何人も居るのだがどういうわけかほとんどが美人か美少女なので目が肥えてしまって前の世界の海水浴場がもうどんなものだったのか思い出せない。

「カセム、このコンロは使い方がサッパリ分からないんだがどうすりゃいいんだ?」
「ああ、それは私がやりますよ」

 そう言うと横にやってきた魔法士が魔力を込めるとそれがスイッチのような役割なのか火がついた。問題は火が付いた事も面白いが、金髪碧眼でグラマラスな体形でフワフワしたロングヘアというとんでもない美人なので視線が色々と移動してしまう。

 前の世界でもこんな料理上手な嫁がいたら幸せだったのに……と、思ったら料理はイマイチだったようで早速、さっき捕まえたタコを焦がしてしまった。
 火力が強すぎる。茹でるだけならずっと強火でもよかったが、強火で照り焼きにしようとしたら当然のように焦げてしまう。

「料理上手そうなのにずっと強火でやるとは思わなかったな」
「すみません。ほとんどやった事ないんです」

「何の料理ならした事があるんだ?」

「野菜を茹でたのにドレッシングをかけたのと、茹でたジャガイモを潰してハーブソルトとかをかけたのとかくらいです」

「なあ、火加減というものを知っているか?」
「強火だったら早くていいんじゃないでしょうか?」

「料理が下手なヤツが言うセリフのトップのうちの一つだな」
「残りはなんですか?」

「初めての料理なのにレシピ通りに作らない事。雑に作っても量が多ければ美味しくなると勘違いしていること」

「全て私が思っていたことです……やっぱり才能がないんでしょうか?」

「今のところだと何とも言えないな。この三つが間違っている事を知ったら後はレシピ通りに火加減も中火か弱火を意識して料理を練習していけばいい。
 それでも上達しなかったら才能が無いという事なので、無い才能は伸びないから他の事で努力したほうがいいな」

「じゃあ、今からライリーさんが作っているのを見ます!」

「食材が無いから用意するところからだな。漁船が昼前に帰ってくるから魚とかを分けてくれるらしいのでそれを貰おう。俺はソフィアと泳ぐ。君も泳ぐか?」

「そうですねえ。じゃあ、オイルを塗ったら泳ぎますね」

 そう言うと向こうのテントに行ったのでソフィアの元に行く事にした。ソフィアはサンオイルより日焼け止めの方が良さそうなので塗ったのか尋ねると、これから塗るところだったので塗ってほしいと言うので塗る事にした。

「あ、あ……すごいヌルヌル……ん……はあ……」

「艶っぽい声を出しているな。そんなに気持ちがいいのか?」

「なんでだろう……う……ライリーに塗ってもらっているからかなあ」

「そうかもな。ああ……これ無意識に俺がツボを押しているな。固いツボはその周囲とかが凝っているからそこをさすってやると気持ちいんだな」

「……そういう事じゃないんだけど……う、うん……」

「さて、こんなもんだな。塗りムラもなさそうなので泳ぐか」

 日焼け止めが塗り終わると同時に海に入ると程よい冷たさの海水で気持ちがいい。魔法士もやってきてオイルを塗ったから泳ごうと言っていたが、それは焼くためのオイルじゃないのかと尋ねると、そんなわけないじゃないですかというので瓶を見せてもらったら、やはりサンオイルだった。

 この魔法士は見た目によらずかなり抜けているようだ。作戦行動中も見かけなかったのはそのためだろう。戦闘時は何を担当するのかを尋ねてみた。

「今度はオイルの種類を間違えるとは何とも。まあ、海水浴に来て塗るオイルは大抵はサンオイルだと思うんだが、こっちの世界じゃ違うのか?」

「潜水用のオイルとかがあります。それを使うと酸素供給を受けなくてもしばらくは潜っていられるというオイルです」

「へえ。そんな便利なものがあるのか。そうなると間違える事も……尚更、ないな。潜水する時に間違えてサンオイルを塗って潜ったら死ぬんじゃないか?」

「新兵だと水を一気に飲み込んで気絶する事も稀にあります。私も何回かありました」

「危ねえなあ。かなり抜けてるみたいだが、戦闘では何を担当するんだ?」

「私は火力支援を担当しています。大型の兵器とか隠れた兵舎の出入口とかを爆破したりするのが担当です」

「ああ、もしかして魔力変換に栄養を使われ過ぎて脳に栄養が足りてないのか?」

「実はもうお腹がかなり空いています。まだ漁船、帰ってこないのかなって思っています」

「そうなると作戦中は高カロリーのレーションとかを食べないといけないという事か。量を間違えると一気に太るという」

「そうなんです。でも私は、ちょっとくらいぽっちゃりしても気にしません。大火力魔法を一発でも撃ったら体重が減りますからね」

「ねえ、ライリー。その魔法士さんはそれ以上動くと動けなくなって海に流されるかもしれないから向こうのテントで待っていてもらったほうが良いと思うよ?」

「そんな人間がいるのか。なあ、テントで待っていた方がいいんじゃないか? 食材は何が手に入るか分からんが、魚のスパイス焼きとタコの唐揚げとかを考えているから出来たら呼んでやるよ」

「本当ですか? 涎が出てきましたが待ってます!」
「行ったな。漁船はまだ帰ってこないのか?」

「えっとね……あ、見えた。五キロメートル先くらいにいるよ」
「全く見えないんだが、魔法でも使ったのか?」

「うん。千里眼の魔法だよ。ライリーの脳に流して見せてあげるね」

「おお……これは便利だな。見えた見えた。今から調味料とかの準備をするか」

 そう言うと、ライリーとソフィアは鍋に油を入れて余熱したり、流木を拾ってきて火を起こしてスパイス焼きをする準備が出来たところで漁船が帰ってきた。
 何か分けてくれないか? と言うと、大きな白身魚とタコのようなもの、エビのようなものを分けてくれた。

 食材からして既に美味そうな感じがしたので気合を入れて調理した。魚は内臓を抜いて海水で洗ったあと、切れ目を入れる。
 塩、コショウをすりこんだ後、スパイスパウダーを小麦粉と水で溶いたものをたっぷりとすりこんだものを焚き木の近くに串刺しにして置き、じっくりと焼いていく。

 タコは塩茹でしたものに片栗粉と小麦粉、酒、塩を混ぜたものを絡ませて揚げた。どちらも酒のつまみみたいな感じだが、この魚は焼けた後にカレーと混ぜて米にかけても美味い。

 さっきの魔法士は相当、腹が減っていたようなので大盛にした。呼ぶとすぐにやってきた。

「これはなんですかライリーさん! すごくおいしそうです」
「俺が元いた世界で南方の方で食べられていた料理を真似たやつだ。美味いぞ」

 そう言うと魔法士はもっと欲しいと言ってお代わりを要求したので更に大盛にしたのだがすぐに平らげてしまった。気持ちいほどの食べっぷりだがここまで大食いだと個人で冒険者をするのは無理なんだろうなと思うところだ。

 カレーを食べたところで、タコの唐揚げがあるのでそれをつまみにソフィアと酒を飲んでいるとどこかで見た事がある三人組が現れた。
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