異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第二章 魔族領編

第46話 夜襲

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 渓谷沿いを飛んでいる時に倒した魔族の装備をカセムらが確認したところ魔王軍の中でも精鋭の装備ではないとの事だったが、それにしては弓を撃ってきた時の射程が妙に長いので腕はかなり良いのではないかという事であった。
 王国に連絡をするとやはりと言ったところか、追加装備が送られてきた。魔法士が使う杖は基本的には魔法石をリロードして使うようになっており、そのおかげで本人の魔力の消費を抑えられるが交換するたびに杖そのものも消耗するので予備が必要になる。

 ボウガンと弓矢もいくつか送られてきたが銃は無いのかと言うと、魔族は耳が良いので位置を知られてしまうのと今回の戦闘の場合、魔法矢を使う事が多いだろうからあまり有効ではないとの事だった。
 地上部隊も斥候を確認したとの事で、こちらも妙に強い兵士が混じっていたという。けん制が目的にしては妙な気配も感じる構成である。あわよくばある程度の被害を出せればと思っているのか、こちらの王国軍の実力も把握したいのか、そう言った考えを持っている可能性もあると思われる。

 地上部隊の斥候と戦ったのはアリアンヌでその時の様子を語った。

「私は村の自警団のメンバーと街道沿いを警備していたんだけど、足の速い魔族と出くわしたんだ。短剣と飛び道具をいくつか組み合わせていて、魔法使いは居なかったね。渓谷の方も魔法使いは居なかったんでしょ?」

 ライリーがこれに答えた。

「ああ。居なかったな。気配を消して隠れていたのかまでは分からなかったが、ソフィアの魔法探知にも引っかからなかった。ところで、魔王軍の魔法を使える兵士は魔法使いなのか? 魔法士とは違うのか?」

「アレね。王国とこっちじゃ魔法の体系が違うんだよ。王国が使っているのは大気中にあるエネルギーと神の加護を組み合わせて使っているもので、資格のある人間や獣人、十分な訓練を積んで適正を確認できた王国に住んでいる魔族が使える。
 こっちの魔族領では大気中にあるエネルギーを使うのは同じだけど神の加護を使える人とかはほとんど居ないんだ。エネルギーのコントロールが上手い感じかな?」

「そうなのか? そうなると体の制御が上手いとかそういう感じだろうから、ある意味では面倒だな」
「どうして?」

「おそらくだが、王国領の人間は道具や加護ありきな戦い方になると思うが、魔族領の人間は体力さえあれば長期戦が出来るという感じじゃないか?」
「お? いいとこ突くねライリー。王国ではあまり言わない方がいいかなって思っていたから言わなかったけど、そういう事になるよ」

 そこへカセムが話してきた。

「ああ。アリアンヌは知らないんだろうが、王国では常識だ。そこを踏まえて体力が高く、頑健な兵士は肉体重視であるという適正でアタッカーとしての配置をするんだ。
 魔法適正の高い兵士は魔法士やプリーストとして配置している。だからこの部隊にも三種類以上の種類の兵士がいるだろ?」

「ああ。だから長期戦になった場合を想定してプリーストがどの部隊にも必ず居るんだ」
「そういう事だ」

 どうやら王国軍は安全と効率重視、魔族領はそれにプラスしてどうにもならなくなった場合に玉砕覚悟で作戦を継続させるために徹底した訓練をして戦いに挑む兵士が居るようである。
 王国のようにかなり進んだ国がある一方で未だに前時代的な考えの国があるというのもよくわからないが、こういった自分の考えがなさそうな兵士は最も危険である。

 もっとも、この世界には人型の人造ゴーレムがあるそうなので、その方が危険かもしれないがそんな優れた兵器であるゴーレムがあるのに玉砕覚悟で突っ込んでくる兵士が存在するのがやるせないところである。それについて気になるので聞いてみた。

「ところで、ゴーレムのような自立兵器があると思うんだが、そういうのを使えば無謀な作戦をしなくていいんじゃないのか?」
「ああ。ゴーレムもいるがアレこそ自由に戦場を闊歩されたら都合が悪い」

「じゃあ、自由に動かせないってことか?」
「ああ。魔族領のゴーレムは必ず魔導士が操作するか、行動パターンをセットする必要がある」

「王国ではそれらしいのは見た事が無いんだが、居ないのか?」
「王国では製造されていないな。ホムンクルスに近い存在になるから製造しない事になった」

「魔族領のみたいに遠隔で操作できるようなゴーレムにすれば戦いの時に有利になるんじゃないのか? 特にどこかに潜入しないといけないような時とか?」

「潜入する時か? 王国には魔道具が豊富にあるからな。姿を透明にする事が出来る魔道具に気配を完全に近いレベルにまで消せる魔道具やら色々とある。
 ゴーレムみたいなのだとむしろバレる可能性が高くなるから直接、人間が行った方がいいな。何かあってもすぐ対処できるしな」

「そういう事か。それに武器も魔法も王国の方が威力があるからそこまで危険な事にはなりにくいという事か」
「まあ、遊び心で潜入したら命は無いけどな。奴らは容赦ない」

 それはそうだろうと思っていると陸路から敵の部隊が現れたと報告があった。すぐに向かう事にしたが川から来ないのが意外な気がしていた。
 街道に到着したら早速、村の自警団と戦闘になっていた。こちらは魔法と弓矢で援護する事にする。

「陸路から先に来るとは思わなかったな。こちらが優勢か?」

 岩に隠れながら尋ねた。

「いや、応援が来ないとまずい状況だったな。敵が妙に強い。お前も気をつけろ。岩に隠れていても正面から来るとは限らんぞ」
「ああ。これだけ茂っていると何処から来るか分からんな。どれを狙えばいい?」

「向こうの鎧で固めてるヤツがいるだろ? アレを魔法で何とかしてくれ」
「分かった。ソフィア、魔法矢だ」

「あの敵は何の魔法に弱いの?」
「ああ……アレは多分、火だ」

「了解した」

 山羊のような見た目なのだが本当に火に弱いのかと思いながらも何発か火矢を撃ったが、やはりというか効いていない。
 このままでは自警団がやられてしまうので魔法士に応援を頼むと到着したところで、火に弱いというが本当かと尋ねた。

「何発か火矢を撃っているが効いていない。本当にヤツは火が弱点なのか?」
「……はい。アレは火が弱点のはずです」

「山羊なのにか?」
「ライリーさんのいた世界ではああいうのは火に強いのですか?」

「自分から火に飛び込んでいるのもいたぞ」

 様子を見ていると数が増えて来たので余裕が無くなってきた兵士が急かしてくる。

「おい! まずいぞ、そろそろ始末してくれ次がくる!」
「どうする? 火炎魔法か?」

「……そうですね。火炎魔法にしましょう。何発も撃っているのに倒れていないのがおかしいので威力が少し高めのものにします」

 そう言うとすぐに魔法が発動し、敵に命中した。こちらからでも眩しく感じる程の威力でついに敵は倒れたが、ここまでの威力が必要なのかと思うところだ。

「ありがとよ。とりあえずは片付いたか」
「……これ程の威力の魔法を、普通の兵士に使う事はあまりないのですが、何かおかしいですね」

「というと?」
「敵の装備を見てみましょう」

 そう言うと手早く杖の魔石をリロードすると杖で倒れた敵を裏返して装備を確認した。するとどうやら鎧の材質が妙に良いものを使っているようで、魔族領で産出される魔石まで埋め込まれているとの事だった。

「ライリーさん。これはまずいかもしれません。装備が魔族領、本国の中枢の兵士並みです。強化装甲に魔石による強化、ダメージ減衰作用のあるチョーカーまで装備しています」
「なんでそんなに装備が良いんだ? さっきの洞窟の兵士はそこまでじゃなかったようだが?」

「斥候は行動が早くなるように身軽な装備である事が多いのですが、もしかしたら使い捨てのつもりの兵士かもしれません」
「となると、混成部隊で後ろにまずいのが控えているって事か?」

「そういう事になります。ライリーさんの夢のお告げは相当、正確なようですね」
「まあ、あれより聖母って感じの人は見たことないような人が色々教えてくれるからな」

「女神様の遣いとか?」
「そんな高度な存在と俺が接触出来るとは思えんな」

 前の世界でもそれらしい夢は見た事があるが、会話は出来ていた記憶がない。おそらく、ソフィアが関係しているのだろう。
 というのも、この聖母のような女性が出てくる夢はほとんどソフィアが近くに居る時に寝ていると夢に出てくる。

 それよりも次の部隊が近づいていると偵察をしていた兵士から連絡があったのですぐに杖用の魔石をいくつか持ってくるように伝えた。
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