異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第二章 魔族領編

第50話 村の宴

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 魔王軍の軍勢を退けたライリーらは勝利を祝う宴に招かれた。昼から酒を飲み、村の伝統の舞を舞っている。
 舞が終わると踊っていた村の少女の一人が近づいて来た。以前、王国に行こうかどうしようかと悩んでいた少女である。

「私の舞はどうだった? ほとんどする事がないから忘れていたところもあったけど」
「中々、エキゾチックな感じの舞だったな」

「そりゃ他所から来た人なんだからそうだよね」
「今でも王国に行こうと思っているのか?」

「うん。やっぱりこのままこの村で農業やって、狩りをして変わらない毎日を過ごすのは悪い事じゃないけど、私自身の成長は無いかなって思った」
「じゃあ、前に言っていたプランは二つあったがどっちにするんだ?」

「次の街までライリー達に付いていくよ。道案内も居た方がいいでしょ?」
「案内出来るのならいいが、この村から出た事があるのか?」

「前に一度だけ向こうの街に言った事があるんだ。あの港町までは道が険しいし、分かりにくいよ」
「まあ、そういう事ならいいか。と言ってもカセムが何度か行った事がある街なんだがな?」

「そうなの? 何をしに行ったんだろう?」
「確か当時、魔族領の巡回警備のような仕事をしていてその時に行ってバラック小屋で一晩お楽しみだったらしいぞ?」

「……ねえ、お兄さんは私とはそういう事してくれないの?」
「それはどうかな? 心から楽しめないとな。興味本位でしてしまうと将来、おかしな事になるからな」

「おかしな事って? どんな事になるの?」

「俺の前に居た世界では興味本位でそういう事をする子らというものは大抵、相手を選ぶ時に間違った相手、言わば関わるとその後に悪い状況になる相手としてしまうものだ。
 見た目、モテる具合、人から聞いた評判。自分で見て、話して、確かな相手と確認せずにしてしまう」

「え? それっていけない事なの?」
「良くないな。こういう相手とすると、まずすぐに別れる事になるか、ロクでもない事を吐き捨てられて文字通り捨てられる。相手に対する責任感も当然のように無い」

「じゃあ、それが分かったら次の相手を探せばいいんじゃないの?」
「そんな適当な選び方をしたのに、次の相手は本当に大丈夫な相手を選べるのか? 正常な判断が出来るのか?」

「好きならいいと思うんだけど?」
「そう、それだ。今、君は自分で正常な判断をしていると思うか?」

「あれ? ……分からなくなってきた」

「そういう事だ。一見するとモテてモテて女をとっかえひっかえしている男というのは魅力的に映るかもしれない。
 だが、実際は人間としては魅力の無いのも多い。地味でモテず彼女を連れて歩いているのを見て羨ましがっているのが、実は一生懸命に支えて大切にしてくれる誠実な人間であるという事はよくある事だ」

「じゃあ、じっくりとそういう事をするまで様子を見る必要があるって事なんだね?」

「そういう事でもあるが、あまり拒絶するのも良くない。前にいた世界で俺と二人っきりでデートに行くし、下着を一緒に買いに行くような女友達が居たが絶対にそういう事はさせなかった。
 これはこれで相手を絶対に受け入れないという事だから、もし本当に誠実な相手が現れても受け入れなかったがために良縁を逃すという事になりかねないな」

「あ、それは分かるかも。ダメな相手ほど好きになってしまって抜け出せなくなるし、そういう人しか分からなくなるって事だよね?」
「そういう事だ。言ってしまえば君が王国に行こうかなと迷っている理由に近いものがあるよな」

「なるほど~。やっぱり私は王国に行こうって思うよ。お兄さんたちに付いて行こうと思う」
「じゃあ、確かな事は分からんが次の街で王国に転送する事があればそのまま王国に行きたいという事で良いか?」

「うん。それで良いよ。これからよろしくね」
「それは良いが、家族に話をしておけよ」

「うん。前にそれとなくしたんだけど、また明日にでもしておくよ。お兄さんたちはまだ当分、この村に居るんでしょ?」
「多分な。村の立て直しの関係で王国と連絡を取り合ってどうするかを決めないといけない。少なくとも三日くらいは居ると思う」

「よかった。お兄さん!」
「何だ?」
「大好き!」

 そう言うと彼女は走って行った。先ほどの話で付き合う相手を選ぶ事の大切さを少しでも理解できるのであれば王国に行く意味はあると思う。
 前の世界でもそうだったが、良くないモテ方をしている男と付き合い続けるといずれ生活自体が破綻し、最悪だと感じるような日々を過ごす事になる。

 しかし、そうなればこの状態が良くないということに気が付けるような人間はほとんど居ないので借金と不倫、アルコール、ギャンブルが付きまとう。
 モテなかったから僻んでいると思う? それがあるとしてどうして誠実な男が損をする世界である必要がある。本当に必要なのは王国のような善良な人間が幸せに暮らせる国である。

 そんな事を考えていると酔っぱらって常につまみを食べ続けている魔法士がやってきた。右手にビールジョッキ、左手に焼いた貝や焼き豚、スパイスの香ばしさが漂うジャガイモと野菜を炒めたものが乗っている。

「ライリーしゃん。あんな子供に手をだしりゃいけませんよお~」
「ベロベロに酔ってんな……キスの味は焼き豚の味しかしねえ」

「じゃあ、これとか口移ししちゃう~!」

「おい! 待て、それはダメだ。砕けたジャガイモの口移しとかされたくない。それにエルフは酔いにくいんじゃないのか!?」

「何のこと言ってんでしゅか?」

 横に座っていた村人が言うにはエルフが酔いにくい体質であるというのは聞いたことが無いというのでこれも前の世界の世田話であろう。
 そんな意外な事が分かったところで魔法士の酒は止まらないし、ライリーの酒も止まらないわけだがソフィアはというと、村長とずっと話している。

 ルート的にはこの村は王国と取引をするにしても距離がかなりあるが直接的な援助を王国が行うとなれば商取引をしても良い結果が出るのではないかと思われる。
 席を立ち、カセムの元へ向かうと次の街についてと少女についてを話した。すると、出発はやはり二日後で、次の街で王国へ一旦、転送陣を使用して帰還するのも考えていたそうで、これも予想が当たった。

 少女を王国へ転送するにはいきなり転送して耐えられるかが不明なので王国へ行きたいとなった場合に少女の情報を王国で精査し、転送してもいいかの判断を仰ぐ必要がある。それについては次の街での任務も数日は掛かるとの事なので十分な時間があるだろうとの事だった。
 次の街での任務が既に決まっているかのような口ぶりなのでどうなのか尋ねてみた。

「カセム、次の街で何をするかが既に決まっているかのような事を言っているが何か知っているのか?」

「まずは馬車の修理だな。随分と距離を走ったし、道が悪い区間も長く乗るので街に着くころには更に傷んでいるだろうから修理に何日か掛かる。
 任務についてはもうなんとなく察しているかもしれないがあの街は海賊が潜んでいるだけあって海路での武器密輸の拠点の一つになっている。その拠点の動きを探るのが任務の一つ。後は王国から何か追加であればそれをするってところだ」

「王国からの追加任務は街についてからじゃないと分からないってのが毎回、何とも言えないがそれだけ魔族領はトラブルが多いというところだろうな」
「そりゃ、毎日どこかしらで起きているからな。ライリーの前の世界はどうだったんだ?」

「ああ。毎日、どこかではトラブルが起きていたな」

 なんてことの無い話をゆったりとするのも久々だ。宴は続く。
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