異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第二章 魔族領編

第52話 街道を進む

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 村の宴を堪能した後は次の街に行く準備をし、出発する日となった。村の少女が王国へ行きたいと言っていたのでどうするのか尋ねると、家族とも話がついたようでこちらの部隊と同行し、王国のプリーストらに一緒に転移しても大丈夫かを確認してから転移させるか近隣の街に一定期間住まわせてから王国へ来るようにするかを決定する事となった。

 次の街では長旅でくたびれた馬車の修理もする事になるのである程度の期間は街に居る事になる。カセムはこの街の娼婦と熱い夜を過ごしたのが忘れられないのでまた会いに行くつもりだという。
 と言っても、路地裏のバラック小屋で稼いでいた娼婦だ。まだそこに居るのかも分からないのだがそこは居なかったらいなかったでどこかの店に行くつもりらしい。

 村長らに挨拶を済ませ、出発した。街道を南下してしばらく進むと港町が見えてくるらしく目的地はそこだという。蒸し暑い森の中に入ると村に着く前に出会ったキノコモンスターが現れた。

「よう。俺も次の街まで乗せてくれないか?」
「それは構わないが何をしに行くんだ?」

「ああ。それはな。俺は夜の店の入口で呼び込みをするオブジェ兼マスコットで働く事があるんだ。もう少ししたら秋も深まって人肌恋しい時期になるから売上が伸びるから仕事になるんだぜ?」

「まあ、そういう見た目に見えなくもないからな」
「いやいや。この姿じゃ目立たないからな。ソフィア、俺に火魔法をかけて少し炙ってくれ」

「え? 大丈夫なの?」
「大丈夫だぜ~!」

 豪快に炙って欲しいのかと思ったがそんな事をすると命が無くなるかもしれないのでそれなりの火力で炙ると囲炉裏焼きのような香ばしい匂いとともに白い体は色づき、ある種の御神体のような姿に変わった。

「どうだ? 炙る事で引き締まりつつ勇ましいフォルムとなり、欲望渦巻く店の入り口に相応しい姿に変貌しただろう?」
「確かに優れた器と言うに相応しい姿だが、それだと男の客は自信を無くすんじゃないのか?」

「ああ。俺が担当する店は客が自信満々であるモノを持っている前提で楽しむ店だからな。自信満々でみんな入ってくるぜ?」
「そういうコンセプトって事だな?」

「そういうこった。まあ、店の娼婦もそういう演技をするからな。本当に凄いのが来た時は目の輝きを見れば分るってもんよ」

 馬車の御者台に座って次の街の状況を聞いた感じだと、夜の店があまり無く地元民は店で働く事はあまりないらしく他の地方から来ているそうだ。
 地元民はというと、前にカセムが言っていたようにバラック小屋で交渉する事も多いらしい。どうして店で営業しないのかというと、店が少ないので何かあった時に困る事が多いからだそうだ。

 道もぬかるみが多く、険しい道が続く。馬車は分離している状態だがそれでも狭い道が多いので曲がるのも一苦労だ。
 しばらく進むと今度は前に出会った雰囲気がアマゾネスな感じのアリアドネが出て来たので停車した。

「よう。こないだの戦いは熾烈だったようだな。ご苦労なこった」
「全くだな。随分と硬い敵だった。この世界の魔族は硬いのが主流なのか?」

「いや。アレは珍しい。昔は王国領に攻める連中も強硬派がほとんどだったから強くして攻めるのがほとんどだったらしいが今は如何に狡猾な手段を取るかが腕の見せ所みたいになっているぞ」
「まあ、あまり強いのには出くわしたくないもんだ。ところでどこかへ向かっているのか?」

「ああ。この先に隠れ家みたいな建て方をしている家が数件建っている集落があってそこへ向かってるんだ」
「じゃあ、乗っていくか?」

「いや。獣道を進む事になるから集落まではこの馬車が通れる道はこの先は無いな」
「そうか。じゃあ、俺たちは次の街に向かう事にしよう。じゃあな」

「ああ。またな」

 相変わらずアリアドネ特有の柔らかい感じとかが無い硬そうなアリアドネだった。珍しいと言いながらこの地域が硬いのが多いんじゃないかと思ってしまう程だ。
 蒸し暑さからか、森の木々の匂いが濃いからかキノコの香りが無くなってきたので彼の様子を見ると、もうすでに白くなっていた。これでは仕事にならないんじゃないかと尋ねた。

「おいおい。もう白くなってんじゃ、店のオブジェに配置できないんじゃないか?」
「ああ。これはな。森の湿気と魔力を吸ったから回復が早まってもう白くなったってわけだ。それにさっき俺を炙ってから何時間経ったと思ってるんだ? もうほとんどの店は営業が終わっている時間だぜ?」

「それもそうか。六時間くらいは経った感じだからな」

 話している間にも揺れが激しく、下からの突き上げも強い。腰も尻も痛くなってきたのでキノコに御者を任せて馬車の中に入る事にした。
 少女も乗っているので街に行ってからどうするのかを尋ねた。

「このまま街に行って馬車の修理と何かの問題があるだろうからそれの解決をするために王国から何らかの任務が与えられるだろうが、その間はどうする? 俺たちを手伝うか?」
「うん。手伝えることがあるなら手伝うよ」

「ならその時はよろしくな。ちなみに次の街での事が片付いたら王国に直行できたとして、何かしたい事とかはあるか?」
「う~ん。特に決まってないかな。でも村には学校が無かったからね。学校には行きたいね」

「それもいいな。青春は出来るうちにした方がいい。俺は前の世界で貴重な青春を送れなかった。どういうわけか妨害が入り続けて恋愛が出来なくてな」
「何で邪魔が入っていたの?」

「それについては全く分からなかったな。何というか、他の学校の知り合いが言うには学校と合っていないとかそういう感じかとか言っていた気がする」
「私もそうなのかな。あの村に居たんじゃ変われない不安みたいなのがあって、それもあるから村を出ようと思ったんだ」

「それはあると思う。自分の才能に気が付かないまま人生を送ると楽しい人生、幸せな人生から遠のいてしまうからな。君はそれに気が付いたのは素晴らしい事だ」
「ああ。じゃあ、正解だったんだ」

「人生の正解ってのは生きているうちは分からないもんだと思う。正解か不正解かではなく自分の心が納得しているかを基準にしてもいいと思う。好き勝手するのはダメだが君はその心配はないからな」
「そういうもんなんだね」

 そう、話しているとカセムが話しかけてきた。

「まあ、嬢ちゃんが王国で何をするかは自分で決める事だが今、王国のプリーストに嬢ちゃんの適正が何か、魔力の量がどうか、王国にすぐに来ても適応できる状態なのかを鑑定してもらっているところだ。
 結果は街に着いた頃には出ると思うが、適正が分れば何をすればいいかの指標にはなるぞ」

「そんな事が分かるんだね。こっちじゃギルドの魔道具を使っても、王城にある魔道具を使ってもそこまで詳しくは分からないよ」
「そりゃ、魔族領でそんな精度の高い魔道具があったら反乱が起きるからな。悪用する人間が少ないところほど良い魔道具が増えるってわけだ」

「私もそう思うよ。そこまで精度が高かったら敵の情報をいつも調べては攻めるのを繰り返す国もあると思うし」
「そう。だから俺たち王国の魔道具はこっちじゃ気軽に扱えないのもあるって事だ」

 しばらく馬車を進ませると、森の開けた場所に出たのでそこで一旦、野営をする事になった。かなり蒸し暑いので夜は寝苦しくないのかと思っていたが魔道具にエアコンのようなものがあり、この馬車にはそれが装備されているので快適な睡眠をとる事ができた。
 翌朝、更に街道を南下し昼過ぎに街に到着した。
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