異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

文字の大きさ
56 / 80
第二章 魔族領編

第56話 落ち着かない寝床

しおりを挟む
 宿で敵の動きを探るために備えていたライリーらはギルドにも応援を要請し、敵が来るであろうルート上に冒険者、兵士らを配置した後、カセムが泊っている部屋でカセムが呼んだ娼婦を監視する事になった。
 この娼婦が敵と繋がっており、しかもこちらを偽っているのであれば敵が来るはずだ。ライリーの横でカセムとの様子を見ているソフィアは複雑な表情をしていた。

「ね、ねえライリー。私、ドキドキが止まらないよ。人がしているのを見るなんて……」
「ん? 王国ではそういう教育も受けるだろう。誰もがしている事だし、どこまでも冷徹に見ていれば心は平穏を保てる」

「じゃあ、ライリーが慣れさせてくれるの?」
「何度も一緒に寝ているのにまだ慣れていないのが不思議だな。王国民は精神性が高いからもう慣れたのかと思った」

「そういう事じゃなくて、ライリーと一緒に見ているから……。我慢するのが苦しいよ」

 人類が進化したような姿をしている王国民でも欲望をコントロールするのは難しいところもあるようだが、ライリーもソフィアの息が荒くなるにつれ汗ばんでくる。
 この街の蒸し暑さとソフィアの吐息が体に纏わりつき、体が痺れたような感覚になる。汗が伝う額が熱を持っているのが分かる。構えたボウガンを思わず発射してしまいそうになる感覚はハッピートリガーとも似たようなものなのだろうか。

「ソフィア、俺たちが一緒に監視するのはダメだったのかもな。俺も手元が狂いそうだ」
「はあ……。ライリー、私……」

 ソフィアが監視対象から意識が逸れたのを敵も確認したのか、何かが反射したのが見えた。

「ソフィア、伏せろ」

 そう言うとライリーはソフィアの頭を床に押し下げた。

「どうしたの? 何かあった?」
「何かが反射した。狙撃を狙っているのかもしれない。魔法士、聞こえるか?」

『はい。どうしましたか?』
「今、カセムの部屋の窓の北側、十四時の方角に何かが反射したのが見えた。敵がこちらを狙ってないか?」

『確認します』

 そう言うと、彼女は透視魔法を使い、周囲の状況を確認した。他の兵士とも連絡を取った。

『確認しましたが、一般人が杖を掲げたようです。射線はそちらに向いていません。と言っても、妙なタイミングですね』
「君もそう思うか?」

『ええ。こんな夜更けに杖を掲げるとか、瞑想のためにパフォーマンスとして行う魔術師がいるというのは聞いたことがありますが、そうは思えない見た目をしています』
「なるほど。了解した。アリアンヌ。そちらはどうだ?」

『こっちでも確認したよ。でも、魔術師の狙撃だけで済ますのもおかしいし、普通はこの辺りに格闘戦が得意なヤツがいるはずなんだけど……』
『ライリーさん。私も周りをよく見てみたんだけど、接近戦が得意そうなのは見当たりません』

「そうか。なら気にする事もないか」
『今のところはね。例の娼婦はどう?』

「ああ……そろそろ果てそうだな」
『果てる瞬間に暗殺するってのもよくある手口だからしっかり見てて』

「了解した。ソフィア、念のため窓にリフレクトをかける準備をするんだ」
「わ! わかった!」

 そう。意識が遠のくような瞬間というのは人間が気をつけようにも気を付けられないタイミングだ。
 構えたボウガンのトリガーに汗が伝い、滑りやすくなっているが操作を間違えれば終わりだ。筋肉の動きを見ているともう数秒といった感じに見える。

「ソフィア、リフレクト準備……三、二、一、展開」

 ライリーの指示でリフレクトをソフィアが展開した。二人が果てた瞬間にちょうど合ったが、今のところ何も起きていない。

「周囲の部隊へ連絡。何か変わった事は起きてないか?」

 魔法士とアリアンヌに確認した。

『こちらは異常ありません。怪しい者も確認できず』
『こっちも何もないよ。そっちは?』

「こちらは何もない。二人は疲れて休憩に入った。狙撃も襲撃もない。魔道具を使って何か彼女が仕込んでいないかも十分に確認したが反応は何もない。
 まあ、これで完全に白かというとそこは分からないところだが最初にこちらの魔道具を装備させれば敵の魔道具は受け付けなくなるようだし、有利にはなるだろうな」

『じゃあ、周囲を確認したら宿に戻るよ』
『私はしばらくこの地点で索敵を行います。四十分もすれば戻ります』

「ではよろしく」

 通信を切り、リフレクトを解除した。ソフィアは気が抜けたのかライリーに持たれかかった。

「はあ……疲れたよ。こんな緊張感はさっきの村以来だよ」
「さっきの村での方が大分、危険だったと思うがそんなに緊張したか?」

「村での戦いは王国製の魔道具が沢山あったから攻撃を受けたところで心配がないでしょ? 今日のは一つでも手順を間違えたら取返しのつかない事になるから緊張したよ」
「ああ、それもそうか。俺のいた世界は魔道具も無いし、銃弾の一発でも場所によっては当たれば死ぬ。
 再生魔法もないしな。だから今日みたいな感じの方が直撃する事を気にしなくて良い分、気が楽ではあるな」

「そうなんだ。厳しい世界なんだね」
「まあ、国民がみんな王国民のような人間だったらそんな心配も無いのにな」

「それはそうと、二人とも寝ちゃったね」
「ああ。寝ているな。後は夜の番の兵士に任せるか」

 そう言うと、ソフィアと一階に小さなバーのコーナーがあるので行く事にした。

「マスター、ラムをくれないか」
「私は紅茶をお願い」

 注文をするとすぐに出て来た。紅茶なのにすぐに出てきたが鍋に入っているのをそのまま注いでいたのでミルクティーのようなものなのだろう。

「お客さん、何やら物騒な気配でもあったのかい?」

 マスターが上から物音やら声やらするので流石に何か思ったのか尋ねてきた。

「いやな。魔族の襲撃があるかもしれないから用心してたんだよ。結局、何もなかったけどな」
「この街はギャングだらけだから、ヤツらが憲兵の動きを察知するのはかなり早い。それに憲兵自体が買収されている事もよくあることだからよ」

「まあ、そうだろうなあ。でも稼ぐことにはあまり執着していないな。どうしてギャングだらけなんだろうか?」
「そうだなあ。この街もそうだがこの辺りの国はどこも稼ぐことに執着していないがそれが原因で努力をする事も忘れてるんだよな。
 あればそれだけでいい。分け与えるのは当たり前の事ってのは良い事だが、王国とはワケが違う。この辺りじゃ食っていくためには王国より大分長い事、働かないといけない」

「確かにな。屋台も深夜までやっているし何でだろうと思ったが、こんな時間まで働いているのかと驚いた」
「だろう?王国みたいに気楽に暮らせるワケじゃない。かといって、この辺りの連中は俺も含めて王国の崇高な生活は性に合わない」

「だよな。この世界じゃ落ち着く場所というのが本人の能力によって自ずと決まる。これは素晴らしい事だ」
「っていうと、お客さんは異世界から来たのかい?」

「そうなんだよ。夜道に扉が現れて、それを開いたらこのソフィアの家の部屋に繋がっていた」
「そりゃ災難だったな。いきなり王国じゃ戸惑ったんじゃないか?」

「いや。全く。むしろ前の世界じゃ嫌な毎日を送っていたからな。翌朝に夢じゃなかったのが分かった時は本当に嬉しかった」
「なら神の思し召しだったのかもな。地獄から天国へ導いてくださったのかもしれない」

「俺もそんなところじゃないかって思う。さて、遅くなってきたし部屋に戻って休むとしよう」
「明日もやってるから来たけりゃくるといいよ」

 流石に一仕事終えた後の強いラム酒は眠気を誘う。ライリーらは床についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

領民の幸福度がガチャポイント!? 借金まみれの辺境を立て直す【領地ガチャ】が最強すぎた!内政でUR「温泉郷」と「聖獣」を引き当てて…

namisan
ファンタジー
「役立たず」と中央から追放された没落貴族の俺、アルト・フォン・クライナー。継いだのは、借金まみれで作物も育たない見捨てられた辺境領地だけだった。 絶望する俺に発現したスキルは【領地ガチャ】。それは、領民の「幸福度」をポイントとして消費し、領地発展に必要なものを引き当てる唯一無二の能力だった。 「領民を幸せにすれば、領地も豊かになる!」 俺は領民と共に汗を流し、壊れた水路を直し、地道に幸福度を稼ぐ。 『N:ジャガイモの種』『R:土木技術書』 地味だが確実な「当たり」で、ほのぼのと領地を再建していく。 だが、ある日。溜め込んだ幸福度で引いたガチャが、俺の運命を激変させる。 『UR(ウルトラレア):万病に効く【奇跡の温泉郷】』 この「当たり」が、中央の腐敗した貴族たちの欲望を刺激した。 借金のカタに領地を狙う大商会の令嬢。 温泉利権を奪うため、父の命で派遣されてきた元婚約者の侯爵令嬢。 「領民の幸福(ガチャポイント)を脅かす者は、誰であっても許さない」 これは、ただ平穏に暮らしたかっただけの俺が、ガチャで得た力(と証拠とゴーレムと聖獣)を駆使し、ほのぼの領地を守り抜き、いつの間にか最強の領主として成り上がっていく物語。

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...