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第一章 王国編
第18話 ああ言えばこう言う
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応接室に通され、しばらく待っていると妙齢の女性がやってきた。白を基調とした修道女のような恰好をしている。
「はじめまして。異世界からお起こしのライリーさん。私は王家の担当プリーストのメアリーといいます」
「はじめまして。担当のプリーストというのは、王家に所属しているという意味でしょうか? それとも所属はしておらずサポートをしている存在のような感じなのでしょうか?」
「後者が近いと思います。権力を持ったり欲が出たりすると能力が落ちる事もあるし、何より清くある事がプリーストにとっては大切な事ですからね。
とはいえ、これからあなたが向かう魔族領では事情が異なり、権威主義な者もいれば欲にまみれている者もいます」
「前の世界でも似たような話はありました。しかし、こちらで言う魔族領のようなところで聖人が一生懸命に動いても酷い目に遭うばかりで成果が出ず苦しむという話ばかりでした」
「この世界でもかつてはそうでした。善人が善人でいる事が理解できない人間が悪く言って追い詰めていました。お金を持っているから、お金は悪い事をして稼いでいるから、騙すために善人を装っているとか、酷いものでした。
素直に善人を認められないのは心の貧しさという人もいましたが、僻みや妬みが悪意を掻き立て、そういった人が他人を陥れるのに夢中になっていたという時代がありました」
「私のいた世界では昔からずっとそうでしたが、この国ではそれはもう卒業したという感じですか?」
「そういう事です。もうご存じかとは思いますがそれも三〇〇年前に終わっているので今のこの国の人間で当時の足の引っ張り合い等といった悪意ある行動をすぐに想像できる人材が不足している状態です。
魔族領に駐留している兵士や、魔族領から移り住んだ住民の中から交渉役を探し出しては仕事に当たってもらっているのですが数が少ない事と、魔族領の首都に近づくほどに非協力的な人材が多くなり、我々に賛同してくれる人材ほどこちらの領地に近い地域が多く、善人なので想像力が足りないわけです。
これがこの世界での問題というわけです。あなたのいた世界ではこのような善悪が広い範囲で入り交じった状態にあるようなので適任というわけです」
「ですが、あなた方のようなプリーストであれば透視も出来るし、何を考えているのかすぐに分かるのではないでしょうか? 人の適正を見抜く時は鋭い感覚も必要でしょうし」
「ええ。優れた術者であればほぼ正確に見抜く事が可能です。しかし、先ほども申し上げたように想像力が重要なのです。例えば悪意を持って何かをしようとしているという事が分かり、その先にこのような行動を起こすといった未来予知も両方したとします。
ですが、それは外れる事もありますし、問題なのは悪意を持ってある事を起こすという事が分かっても、さらにその先に何を企んでいるかという事を予測するのが難しいというのが問題です。
相手は狡猾です。善意がほとんどを占める人間は、すぐに止めようとします。単純にこちらがその企みを阻止しても阻止するタイミングを相手が想定していたら? 阻止される事を利用して更に他の事を企んでいたら? そういった事に対する想像力が足りないのです」
「ああ。なんとなくわかってきました。私のいた世界ではそういった駆け引きや嘘の吹聴が日常的に行われていました。
居心地の良い、善人ばかりの国にいると確かに想像できなくなるでしょう。でも、あなたはそのあたりの事に詳しいし、仲間と通信し続けて交渉に当たる事も出来るのではないでしょうか?」
「もちろん、それも可能です。ですが仲間は何人もいるし、同時に相手に出来るのは3人程度のものです」
「交渉に当たる事が出来るレベルの人材を通信に当てれば常に足りないほどになるとも思えないのですが、そんなに日常的に交渉をしているのでしょうか?」
「それについてはこの世界の仕組みがあなたが元いた世界と異なる事についても説明しなければなりません。まず、この国と魔族領では時間の流れが違います。地域ごとの時差もありますがそれとは別に時間経過の早い、遅いがあると言う事です。
今、私たちのいるこの国のこの城の時間の流れはこの世界では速い方なのですが、魔族領の中央となるとこちらで一時間経過したら向こうでは一ヵ月が経過しています。なので交渉に当たるといっても、通信装置を使うにせよ、通信魔法を使うにせよ、まず、周波数を向こうに合わせなければなりません。
周波数を合わせるのに数時間かかり、通信が向こうから送られてきてもスローモーションで話しているように聞こえるので速度を合わせなければなりません。ですので通信をする事自体、大変な手間がかかるので直接、交渉にあたれる人材が多いに越した事はありません」
「そうなると、例えば戦闘などがある作戦行動をする場合は遠隔での支援魔法がこの国からは発動できないという事になりませんか?」
「発動自体は出来るのですが、魔族領に到達するまでの時間が正確に計算できなければ事故になる事があります。タイミングを合わせるのが非常に難しいので、そういう場合はよほど重要な作戦でない限りは近い場所で術者が発動した方が安全です。
なので普通は魔族領での戦闘が想定される場合は部隊で行動します。あなたが魔族領で交渉を行うという際ももちろん、この国の軍が警護にあたります」
「もちろんって、それは私が行く場所が危険な場所である事が前提になっていませんか?」
「それはそうでしょう。比較的、安全な場所の交渉はギルドで協力者を募っていますしそういう場所での交渉が必要な人はほとんどが素直に応じます。それに通信もほとんどタイムラグが無いので難易度が低いわけです。
そんなところに行ってもらってもしょうがないのであなたには最終的には魔族領の中央部、首都での交渉をお願いしたいのです。もちろん、危険がないわけではありませんので万全を期した部隊で望んでいただく事になります」
「まあ、前の世界でもどういうわけか準備なしに望んでいないところに行かされる事が多かったわけですが。命の危険はそんなに無かったと思うんですがね?」
「いえ……透視であなたの前の世界の記憶は確認しましたが結構、命の危険はありましたよ。体調を崩してからはそういう事はほとんど無かったようですが」
「でも、この世界で作戦行動をとるとなると更に危険でしょう」
「危険ではありますが、危険の種類が違いますね。今回は言葉選びと行動を間違えなければ比較的、安全にこなせます。前の世界では魔法も無ければ守ってくれる人もほぼいなかったし、ストレスまみれの状況で恋人も居ない。
ストレスで急におかしくなって何かしてしまう可能性があった事を考えるとこちらの方が安全と言えるでしょう」
「そうは思えないのですが、まあ、現地に行ってみない事にはこればかりは分からないところなのでしょう」
「行っていただけるのですか? その気になってくれたのならうれしいのですが?」
「まあ、気乗りはしませんがここまで言うという事は何かあるんでしょう。前の世界での私は神秘的なものにも惹かれる事があったのでそういう事かと思うようにします。
この世界に来た事自体が神秘的どころではないとも思いますけどね?」
こう言うと、貴族たちもやっとかという顔をして席を立ち、こちらに向かって来てはよろしくと挨拶をしていった。
これだけ人が集まっているという事はそれほどに俺が魔族領に行く事に強い意味があるのだろうと思う事にした。
だが、これがヒーロー的な意味があるとは到底、思えないしあったとしても前の世界の事を考えると静かに埋もれていって特に評価される事もなくそんな交渉役も居たんだくらいの話になるのだろうと思う。
「はじめまして。異世界からお起こしのライリーさん。私は王家の担当プリーストのメアリーといいます」
「はじめまして。担当のプリーストというのは、王家に所属しているという意味でしょうか? それとも所属はしておらずサポートをしている存在のような感じなのでしょうか?」
「後者が近いと思います。権力を持ったり欲が出たりすると能力が落ちる事もあるし、何より清くある事がプリーストにとっては大切な事ですからね。
とはいえ、これからあなたが向かう魔族領では事情が異なり、権威主義な者もいれば欲にまみれている者もいます」
「前の世界でも似たような話はありました。しかし、こちらで言う魔族領のようなところで聖人が一生懸命に動いても酷い目に遭うばかりで成果が出ず苦しむという話ばかりでした」
「この世界でもかつてはそうでした。善人が善人でいる事が理解できない人間が悪く言って追い詰めていました。お金を持っているから、お金は悪い事をして稼いでいるから、騙すために善人を装っているとか、酷いものでした。
素直に善人を認められないのは心の貧しさという人もいましたが、僻みや妬みが悪意を掻き立て、そういった人が他人を陥れるのに夢中になっていたという時代がありました」
「私のいた世界では昔からずっとそうでしたが、この国ではそれはもう卒業したという感じですか?」
「そういう事です。もうご存じかとは思いますがそれも三〇〇年前に終わっているので今のこの国の人間で当時の足の引っ張り合い等といった悪意ある行動をすぐに想像できる人材が不足している状態です。
魔族領に駐留している兵士や、魔族領から移り住んだ住民の中から交渉役を探し出しては仕事に当たってもらっているのですが数が少ない事と、魔族領の首都に近づくほどに非協力的な人材が多くなり、我々に賛同してくれる人材ほどこちらの領地に近い地域が多く、善人なので想像力が足りないわけです。
これがこの世界での問題というわけです。あなたのいた世界ではこのような善悪が広い範囲で入り交じった状態にあるようなので適任というわけです」
「ですが、あなた方のようなプリーストであれば透視も出来るし、何を考えているのかすぐに分かるのではないでしょうか? 人の適正を見抜く時は鋭い感覚も必要でしょうし」
「ええ。優れた術者であればほぼ正確に見抜く事が可能です。しかし、先ほども申し上げたように想像力が重要なのです。例えば悪意を持って何かをしようとしているという事が分かり、その先にこのような行動を起こすといった未来予知も両方したとします。
ですが、それは外れる事もありますし、問題なのは悪意を持ってある事を起こすという事が分かっても、さらにその先に何を企んでいるかという事を予測するのが難しいというのが問題です。
相手は狡猾です。善意がほとんどを占める人間は、すぐに止めようとします。単純にこちらがその企みを阻止しても阻止するタイミングを相手が想定していたら? 阻止される事を利用して更に他の事を企んでいたら? そういった事に対する想像力が足りないのです」
「ああ。なんとなくわかってきました。私のいた世界ではそういった駆け引きや嘘の吹聴が日常的に行われていました。
居心地の良い、善人ばかりの国にいると確かに想像できなくなるでしょう。でも、あなたはそのあたりの事に詳しいし、仲間と通信し続けて交渉に当たる事も出来るのではないでしょうか?」
「もちろん、それも可能です。ですが仲間は何人もいるし、同時に相手に出来るのは3人程度のものです」
「交渉に当たる事が出来るレベルの人材を通信に当てれば常に足りないほどになるとも思えないのですが、そんなに日常的に交渉をしているのでしょうか?」
「それについてはこの世界の仕組みがあなたが元いた世界と異なる事についても説明しなければなりません。まず、この国と魔族領では時間の流れが違います。地域ごとの時差もありますがそれとは別に時間経過の早い、遅いがあると言う事です。
今、私たちのいるこの国のこの城の時間の流れはこの世界では速い方なのですが、魔族領の中央となるとこちらで一時間経過したら向こうでは一ヵ月が経過しています。なので交渉に当たるといっても、通信装置を使うにせよ、通信魔法を使うにせよ、まず、周波数を向こうに合わせなければなりません。
周波数を合わせるのに数時間かかり、通信が向こうから送られてきてもスローモーションで話しているように聞こえるので速度を合わせなければなりません。ですので通信をする事自体、大変な手間がかかるので直接、交渉にあたれる人材が多いに越した事はありません」
「そうなると、例えば戦闘などがある作戦行動をする場合は遠隔での支援魔法がこの国からは発動できないという事になりませんか?」
「発動自体は出来るのですが、魔族領に到達するまでの時間が正確に計算できなければ事故になる事があります。タイミングを合わせるのが非常に難しいので、そういう場合はよほど重要な作戦でない限りは近い場所で術者が発動した方が安全です。
なので普通は魔族領での戦闘が想定される場合は部隊で行動します。あなたが魔族領で交渉を行うという際ももちろん、この国の軍が警護にあたります」
「もちろんって、それは私が行く場所が危険な場所である事が前提になっていませんか?」
「それはそうでしょう。比較的、安全な場所の交渉はギルドで協力者を募っていますしそういう場所での交渉が必要な人はほとんどが素直に応じます。それに通信もほとんどタイムラグが無いので難易度が低いわけです。
そんなところに行ってもらってもしょうがないのであなたには最終的には魔族領の中央部、首都での交渉をお願いしたいのです。もちろん、危険がないわけではありませんので万全を期した部隊で望んでいただく事になります」
「まあ、前の世界でもどういうわけか準備なしに望んでいないところに行かされる事が多かったわけですが。命の危険はそんなに無かったと思うんですがね?」
「いえ……透視であなたの前の世界の記憶は確認しましたが結構、命の危険はありましたよ。体調を崩してからはそういう事はほとんど無かったようですが」
「でも、この世界で作戦行動をとるとなると更に危険でしょう」
「危険ではありますが、危険の種類が違いますね。今回は言葉選びと行動を間違えなければ比較的、安全にこなせます。前の世界では魔法も無ければ守ってくれる人もほぼいなかったし、ストレスまみれの状況で恋人も居ない。
ストレスで急におかしくなって何かしてしまう可能性があった事を考えるとこちらの方が安全と言えるでしょう」
「そうは思えないのですが、まあ、現地に行ってみない事にはこればかりは分からないところなのでしょう」
「行っていただけるのですか? その気になってくれたのならうれしいのですが?」
「まあ、気乗りはしませんがここまで言うという事は何かあるんでしょう。前の世界での私は神秘的なものにも惹かれる事があったのでそういう事かと思うようにします。
この世界に来た事自体が神秘的どころではないとも思いますけどね?」
こう言うと、貴族たちもやっとかという顔をして席を立ち、こちらに向かって来てはよろしくと挨拶をしていった。
これだけ人が集まっているという事はそれほどに俺が魔族領に行く事に強い意味があるのだろうと思う事にした。
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