異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第一章 王国編

第21話 城下町

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 授業が終わり、放課後の解放感という気分を久々に味わっているとソフィアも訓練が終わったというので一緒に城下町を回る事にした。

「ねえ、ライリーはどんな授業だったの?」

「ああ。この世界では魔族領に近い程、波動とかエネルギーが違っていて戦い方まで違ってくるから考えて行動しないといけないとかそういう感じの授業だったな。
 何というか、前の世界の難易度の高いゲームとか違う世界はどんな感じなのかとか、まあ、ある程度そういうのに親しんでいたからちょっとは分かるような気もするが何も考えずに生きて来た人間が急にこの世界に来たら混乱しかしないだろうと思うような内容だったな。ソフィアはどうだったんだ?」

「私はねえ。回復魔法と、補助魔法の練習をしていたよ。明日は理論的な内容の授業を受けてより精密な魔法が使えるようにしようって言っていたよ」

「ソフィアも兵士にしたいのか? って思うような内容だな?」

「兵士かあ。……でも戦場に行ったらみんな兵士だよ」

「まあなあ。戦いなんて無いに越した事は無いんだが、困った奴らは戦いたがりが多いからな。支配欲に価値の証明、尽きない欲望と悪意。そんなものは無い方がいいんだ」

「そうだよねえ。ねえ、でもどうしてそんな困った人っているのかな?」

「まだ行ってないから分からないが、魔族領は俺の元いた世界に近いと思う。俺もそうだったのは何度か言ったと思うが、才能に気が付かずに生きている人がほとんどなんだ。
 この才能に気が付かないというのが生きていく上で致命的で、仕事でも何でも求められるレベルが上がるごとに才能が無い仕事とかをしていると苦痛になるし、認められもしない。
 でも、何かをしないと生きていけないし人間は誰からも認められないのは苦痛でしかないから何かをしようとする。そういう場合、手軽に稼げる事をしようとする人が多いんだが向こうの世界じゃ良心を捨てないと稼げない場合も多い。
 そうなると困った人間の出来上がりだ。この国のように本当に大切にしないといけないものが分かっている国ならそもそも現れる事も無いのにな」

「なるほどね。だからなんだ。魔族領では守銭奴もいるし能力があっても不当な評価をされたってバーのママも言っていたし、そういうこと?」

「そういう事だと思う。俺も転勤させられた事があったんだが、元々いたところと評価が真逆で驚いた事がある。その代わりに邪魔してくるヤツもすごかったのでどちらにしろ苦しかった」

 そう言っていると、見た事のない串焼きの屋台があったので何を焼いているのか尋ねるとこの地方にいる鶏を焼いたものだという。少し灰色がかった色だが香ばしさとしょっぱさのようなものがあるのでダチョウの肉みたいな感じがする。

 ソフィアにも渡そうとするとそのまま咥えた。甘えているようで本当に可愛い。

「これ、おいしいね。食べた事ないかも?」
「前の世界にダチョウっていう大型の鳥がいたんだがその鳥の肉に似たような味だな」

 そう言うと、店主はダチョウではないが大型の鳥類の肉で確かに香ばしさと塩気がある味なのだという。
 ビールと合う美味さだなと思っているとギルドと併設されたレストランが見えたのでそこへ入る事にした。

 すると、ベアトリスと大柄な男がいるのが見えたので話しかけてみることにした。

「今日はもう仕事は終わったのか?」
「ええ。終わったわ。だからここでビールを飲んでるの」

「横に居るのはオディロンじゃないみたいだが浮気か?」
「浮気? この人は上司の指揮官をしている人よ」

「はじめまして。異世界から来たライリーだったか? 私は今後、君が魔族領で行う作戦の指揮を取る事になる。よろしくな」

「よろしく。この世界に来てそんなに日が経っていないので勝手がまだ分からないのでおかしな行動を取っていたら教えてください」

「ああ。報告書を見たが特にそれは心配なさそうだ。前の世界でもどちらかというと慎重な行動をしていたようだし、危険な状況でも冷静に判断していたみたいだからな」

「実はそれについて一つ覚えておいてほしいのが危険な状況と言っても会社だったり自分に身が近い人間が関りがあまりない状況だったらの話なんですね。
 ソフィアとか仲間が危ない目に遭うと萎縮してしまうかもしれません」

「なるほどな。それについてもあまり心配していない。どうやら君は前の世界では生きていくのも満足に出来ない状態にあった。そうだろう?」

「その通りです。将来、孤独に死ぬんじゃないかとか、経済的にも困窮するんじゃないかとかそんな心配ばかりしていました」

「やはりな。それが原因だ。前の世界では致命的な問題があった事と、この国のように行き詰っても挽回できるチャンスというのがほとんど無かったように思えた。でも、この国に来てからはどうだ?」

「それは特に思いませんね。前の世界ではいつも欲しいと思っていた美少女の友達のようなソフィアもいるし、宝くじにも当たって将来の心配はないし。みんな優しいし、居心地もいい」

「そこなんだよ。魔族領から来てしばらくすると志願兵になるヤツもいるんだが魔族領で戦っていた頃と安心感が全然、違うっていうヤツが実に多い。
 で、聞いてみればお前と同じ事を言っている兵士ばかりだ。誰かに必要とされること、安心できる貯えがある事、健康であること。これが揃っていれば何かあっても簡単に乗り越えられる。そうだろ?」

「もちろんそう思います。やはり人間は幸せでないといけませんね」

「さて、そろそろ飯でも頼んだらどうだ? ソフィアも腹が減ってるんじゃないか? 俺はこれから友人の家に行くからまたな」
「ええ。またよろしくお願いします」

 そういうとベアトリスと共に去って行ったので料理を頼む事にした。

「この店の料理もおいしいね」

「ああ。美味いな。向こうの街とは料理の雰囲気も違って濃くてハッキリした感じの味だがビールとよく合うな」

「そうなんだよ。あとはこの店がギルドの中にあるのも理由だよね。キツイ仕事をした後の冒険者とかも多いからっていうのもあるよね」

「そういう事か。それにしても魔族領なあ」

「本当に行きたくないんだね?」

「そりゃ地獄から天国に来たのにまた地獄に突き落とされるような感覚になるから行きたいとか思えねえな」

「うんうん。でもライリーがいたところほど酷いところって魔族領でもほとんど中心部だよ? そんなに広い範囲ってわけでもないし」

「そういやこの世界って前の世界と比べて広さはどうなんだ? 地図とかないのか?」

「そこに壁かけてあるよ」
「……なあ、この小さい丸みたいなのがこの王都で、この点みたいなのがソフィアの家の領地なのか?」

「そうだよ」
「前の世界より大分、広いぞこれ。どうりで転送陣とかを使う前提なわけだ」

「そうなんだ。前の世界の大きさとどのくらい違うの?」
「ああ。多分、5倍くらいはあるように見えるな」

「それは広いね」
「ああ。余計に行くのが嫌になってきたな。生きて帰れるのか?」

「多分、大丈夫だよ。王都に来るまで鉄道なのもあったけど、ほとんど時間はかかってなかったでしょ?」

「言われてみれば……ほんとだ。いくら高速鉄道でも前の世界だったら8時間以上はかかっているはずなのにかなり短かった気がする。そうか、時間の流れが違うのか。一日が長いのかもしれない」

「きっとそうだよ。ちなみに魔族領でこの国で生まれた馬を使って移動すると向こうで育った馬で移動するより大分早く動けるよ」

「そんなところにまで違いがあるのか。やれやれだな……」

 世の中の違いというのもに打ちひしがれていると、ソフィアが明日も早いと言うので今日のところはもう帰るかと、王城に戻って休む事にしたのであった。
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