異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

文字の大きさ
20 / 59
第一章 王国編

第20話 長い授業

しおりを挟む
 授業らしい授業というものを受けるのは実に久しぶりだが、この世界での講義は楽しいと思える。やはり適正を確認してから指導してくれるというのが良いのだろう。

 前の世界では決められたものを決められたようにしていたものか、思うようにしているだけのものというのが多かったが、今受けている講義は恐らく俺が聞いている事をどの程度理解しているかがリアルタイムに分かっているのではないかと思うように話してくれている。

 教壇に何か画面のようなものが見え、時々その画面を見ながら説明しており変わっているのはテキストのようなもの、本が無い。
 それについても説明を受けたがどうやらこの国の人間は適正のある事をじっくりと教えた場合、忘れても情報端末を少し確認するだけでほとんどが事足りるのだという。

 その情報端末での画面を実際に見てみると魔法によって考えている事を先に読み取って必要な情報がすぐに出てくるように設計されているのだという。
 その情報も前の世界とは比べものにならない程に精度が高く、効率の良さがまるで違う。

 問題があるとすればこの国に来て二日間くらいはこういう魔法とかに接していなかったから気が付かなかったが、この国のエネルギーに慣れていない状態でいきなり治癒魔法やそれに類するもの以外の魔法エネルギーに接すると魂に強い衝撃が来るので、体や頭がおかしくなってしまう事があるのだという。

 特に魔族領の中心部にいて呪いを受けているようなかなり悪い状態である場合、治療をして徐々に体を慣らしてからでないとかなり危険なのだという。

 前の世界で言う精神的に辛くなったような状態で急に幸せな事が連続するとおかしくなる事があるみたいなものかもしれないと思ったので尋ねると、今日の担当教官が答えてくれた。

「ああ。多幸感で満たされている状態の事ね。この状態だと魂が解放されたような状態になるの。そうなるとエネルギーの影響を見境なく受けるようになるから使う魔法の種類によっては刺激が強くなりすぎてしまう事があるのね」

「そうなると霊体だったらさらに強い影響を受けるように思うんだが、違うのか?」

「霊体の場合は、霊体になってすぐの場合は肉体を持っている時と感じられるエネルギーの種類が違うので感じる事は出来てもその本人への影響はあまりないの。違うのは霊体になって長い状態。いわゆる死者になった場合ね。
 その場合、感じる精度がかなり上がって肉体を持っている時より正確に感じられるようになるし、特に他人が考えている事や透視に関係する事は肉体を持っている時の何倍も精度が上がるわね。頭もかなり良くなるってわけ。
 問題なのは魔族領にいる悪意に満ちた罪を犯し続けているような人間は死後も性格が変わらないから悪知恵がさらに回るようになるし、生きている人間に憑依して悪事を続けたりかき乱したりするのが好きなので質が悪いわね」

「悪いヤツは死んでも治らないってやつか」

「特に他人の悪評を流して自滅させるのが好きだったのは手に負えないわね。生きている人間に可能な限り悪意を吹き込むから悪評の流布をしている場合、本当の発信元が分からなくなってくる。
 そうね……。分かりやすいのは洗脳とかね。良い教えや考え方があったとしてそれをあり得ないと馬鹿にする人っていうのはどこにでもいるけど、それは理解できないから馬鹿にしているという事もよくあることね」

「そして、分かろうとしない人間は騙されやすい。何か手に負えない事があって、いざ困ったら判断は鈍るし知識も無いから何が正しいのか分からない」

「そういうこと。洗脳されているって馬鹿にしている人が居たとして果たしてどちらが洗脳されているのか? まあ、悪意がある人ほど最悪の状況になっていくのは確かだけどね」

「と言う事は、悪意あるプリーストが波動が落ち切っている状態の人間に治療を施して波動が上がった時に嘘を吹き込んで混乱させるというのも方法としてはあるのか?」

「ええ。よくある事ね。でもそれは疑似的に多幸感がある感じにしているので酒に酔って幸せを感じている状態が近いわね。でも頭はハッキリしているから嘘を信じ込んでしまう。
 この方法を上手く使って逆に説得に使う事も出来るんだけど、ここで重要になるのが本人の精神性ね。精神性が高ければ善良な意見を取り入れる事が出来るけど、そこまで成長していなければ理解できないから言い訳したりして楽な方を選ぶってわけね」

「という事は魔族領で悪事から足を洗うよう説得してこの国に来てもらおうにも時間がかかるんじゃないのか?」

「それは人によるわね。こちらの言う事をすぐに理解できる人はこの国にすぐに順応できる人である事が多いんだけど、すぐには理解できないけど少しずつなら理解できるという人の場合は、時間をかけて街を渡り歩いてこの国に来るという人もいるの。
 その人のいる街には仲間も行って様子を見たりもしているんだけど、この国に来れるまでにならないまま一生を終える人も多いわね」

「なるほどな。前の世界もそんなだったらあんな苦労しなかったのにな。頑張っても報われず、旅行も我慢していたしな。この世界だったら旅行をすればするほど心地よくなっていって幸せな国に行ける」

「一つの世界から移れないってのは昔の文献で読んだような気がするんだけど、一つの星ごとに精神性の発達具合が大体、そろっていてレベルが上がるごとに違う星に転生する世界があるっていうのを読んだ事があるわ。あなたのいた世界ってそういう世界なのかもね?」

「確かに近くに星はいくつかあったが人間はいなかったな。居ても見えなかったのかもしれないが、どちらにしろ行く手段が無かったし行ったところで人が暮らせるところじゃなかった。もし星ごとに違う世界があったとしたら見てみたいもんだな」

「私もそれは興味があるわね。でも嫌な世界に生まれてしまったらまるで監獄にいるようなものね。そこから出られないんだもの」

「まさにそういう場所だな。どこに行っても天国はないんだから。この世界では地域ごとにレベルが違うからやりたい事に応じて場所を変えれば実現しやすいんだろうが、俺のいた世界ではどうやっても実現出来ない壁みたいなのがあったと思う。
 例えば俺は何をどう努力しても実現できなかったのが会社での部門を変わる事と、音楽活動をしていた時のファンの獲得だな。常識的に考えてそれはないだろうという事ばかり起きて誰のアドバイスを参考にしても実現できなかった。あまりに酷いので風水的な事もなにもかも取り入れてやった。でも、ダメだった」

「なるほどね。この世界にも場所ごとに出来ることの制限みたいなものがあるの。例えばこの国では広範囲治癒魔法を発動するにはそれなりのレベルのプリーストでも出来るんだけど、魔族領の中心部では腕の良いプリーストでもこの国で発動する時の半分の範囲の治癒魔法も使えないの。それに効果も三分の一程度になるわ。
 だから薬も同時に使って回復しないといけない。でも、この国では魔法だけでほとんどが治るのね」

「ああ。物質が強い国とエネルギーが強い国とかそういう感じか?」

「そうそう。そういう感じね。武器をとってもこの国では魔法付与をした武器がほとんどでその方が効率がいいからなんだけど、魔族領の武器は純粋に威力を追及したものが多いわ。
 あなたの場合ならこの国からボウガンとかを持っていくとして魔法付与をして壁を透過して狙撃をするのもいいかもしれない。でも、向こうの武器をそのまま使うなら透過は出来ないけど当たった時の威力は高いとかそういう感じね」

「戦略が難しいな。場所によって部隊構成や武器の構成をいつも変えないといけないって事だろう?」

「そうなるけど、この国の戦略部が先に計画を立てているから現地ではそこまで考える必要はないわ。あくまでも魔族領の善良な魔族を説得する事を優先する事よ」

 随分と小難しい話ばかりだなと思っていると今日はここまでというので城下町に繰り出す事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...