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結夢(むすびゆめ)
しおりを挟むAは枕の下にスマホを仕舞って、ベッドに入った。
スマホのロック画面は、Bの写真にしてある。
そうすれば、Bに逢えるかも――。
お正月、元日から2日の朝にかけて見る夢は「初夢」だが、その次に見る夢は「結夢」と言われている。
初夢が「始まり」なら、二晩目の夢はそれを現実に結びつける「結び」。
特に、1月2日の姫初めを終えた後に見る夢は、「二人の絆を繋げる」意味を持つ。
だが、それは夫婦や恋人同士に限った話ではない。
「なぁ、A、知ってる? 1月2日の晩に好きな人の写真を枕の下に入れて寝ると、夢に好きな人が現れるって話! 結夢っていうんだって」
「まさか、んなわけ!」
「いや、これはマジらしい!」
学校が冬休みになる前に、Aにそう声を掛けてきたのは、Aが密かに恋心を抱いている友人、Bだった。
Bの口から出る「好きな人」という言葉にドキドキしながらも、Aは平静を装って軽いノリで談笑を続ける。
「ホント、ホント。この休みは皆やってみるって言ってるから、Aもやろうぜ? 良い夢を見るために、枕の下に宝船の絵を描いた紙を敷いて寝るっていう江戸時代の正月の風習が元だから、由緒正しい文化よ。しかも、今は時代の進歩に合わせて、スマホの写真を開いておいたり、スマホのロック画面に好きな人の写真を設定したりしてもオッケーっていう」
「アハハッ、それ知ってるわ。呪いの手紙がチェーンメールになって、さらにチェーン◯INEになった流れと一緒じゃん」
「ばっかお前、これは詐欺じゃなくて、エロい話だよ。エ、ロ!」
「ばっかお前、それを先に言え! 詳しく聞こう」
Bは待ってましたと言わんばかりに、ガバリとAの肩に手を回し、悪巧みする顔でAに教えを授けた。
「2人同時にコレをやると、夢の中でセックスできる」
Aは固唾を飲んだ。
「片想いじゃなくて、両思いかも」
もしそうなら、少女漫画のように夢のある話だが。
分かっている。そんなことはない。
俺たちは友達だ。
「両思いなら、独り者でも姫初めできるかも」
「よし、全員やろう。全校生徒全員やるべき。いや、生徒と言わず、全世界人類に浸透すべき素晴らしい文化だ」
「だよなぁっ! さっすがA、分かってるぅ!」
思春期の男子学生は、下半身に逆らえない。
もし本当に夢の中で好きな人に逢えるなら、これ以上の喜びはない。
そうでなくとも、こんな眉唾物の話だが、やると言っておけば年明けに話のネタが増えるのだから、やらない理由はない。
――――――
1月2日。
Bは枕の下にスマホを仕舞って、ベッドに入った。
スマホのロック画面は、Aの写真にしてある。
「(Aのアホ……っ、気付けよ、両思いだって! オレも、お前のことが好きなんだよ! ……なんて、言える訳ないだろッ!!)」
Bだって、結夢のことを真に受けた訳ではない。
だが、寝る前に相手の写真を眺めたら、そりゃあ夢にも出るだろう。
どんな思いでBがAに結夢の話を振ったと思っているのか。Aは微塵も気付いていない。
深い眠りに落ちて、Bは目が覚めた。
そこは、自室……ではなく、見覚えのある場所。
学校の教室だった。
真昼の日差し、白いカーテンが風で揺れている。
これは夢だと、Bはすぐに分かった。
「B……?」
「A!?」
「まさか、本当にB? 嘘だろ、マジで……?」
Bが驚いて声の方を向くと、そこには、同じように驚いた顔のAがいた。
いつもは同じ高さの目線なのに、今はBがAを見下ろしている。
お互いに、全裸で。
「どういうこと?」
「ア……ッ、待って、動くなA……っ!」
不安定で狭い、学校の椅子。
自分の席に座っているAの上に、Bは跨っていた。
Bは足がつかないのに驚いて、つい、向かい合う形になっていたAにしがみつく。
「動くなッ、……動くなって言ったのにッ!」
「うっ、動いてないっ、俺は動いてない!」
Bの腰が揺れているんだ、とは言えなかった。
お前が自分で尻を振って、勝手にエロついているのに。
顔を真っ赤にしたBに睨まれて、Aは。
「……ッ、挿入ってる! 挿入ってるの、大きくするなぁ……ッ……! アッ、ぅ、……『結夢』が『(物理)』だなんて、聞いてない……っ!」
まさか、身体を繋げた状態で夢が始まるとは。
好きな人と本当に姫初めが出来るなんて。
Bの身体が揺れる。
堪らず、AはBの腰を両手で掴んで、一層激しく揺さぶった。
嬉しい誤算だ。
夢で終わらせたくない。
朝起きたら、一番に連絡する。
だが、今はお互い夢中で――。
「B……っ、好きだ……ッ! 俺、ずっとお前が好きだった……っ」
「ンァッ、……っAオレも……ッ、オレも、Aが好き……ぃっ……!」
Bの腕がAの首に回され、2人は固く繋がり合った。
ぬちゅっ、ぐちゅっと、夢だと信じられないほどリアルな音が響く。
荒く乱れる息。
夢だと分かっているからこそ、2人は唇を重ね、さらに深く結び付いて離れなかった。
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